2016(03)

■能動的ミキサーの影

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 昼放送が終わって高崎先輩に指摘されたのが、俺は人の言うことを鵜呑みにしすぎるところがあるというところだった。番組後には高崎先輩からの講評がある。そこで言われたことを素直に聞き過ぎるのだと。
 いろんな意見や感想を聞いて、何をどうやったら次に繋がるのか自分なりに考えてみろというのが俺に課せられた課題。ただ、番組の感想なんて食堂にいた知らない人を捕まえて聞くわけにもいかない。そこで、もらったヒント。

「――というワケなんですけど、どうでしたか」
「うーん、そうだね」

 俺が話を聞いているのは岡崎先輩。高崎先輩が言うには岡崎先輩は講座の関係もあってほぼ毎日大学に来ていて、昼ご飯は毎日決まって第1食堂の“ぼっち席”で食べているそうだ。スピーカーの真下にあるその席は、番組を聞くのにも好都合だと。
 「俺がダメ出ししたところも、違う奴が聞けば良かった点かもしれない。一人だけの意見で決めつけるな」というようなことも高崎先輩は言っていた。昼放送に関しては岡崎先輩に聞くのが一番確実だとも。

「BGMは前回とまた変えてきたね。より高崎の雰囲気に合わせたって感じかな」
「はい、一応近付けるようにしてみました」
「T1のBGMは今回の方が合ってたけど、T2は前回のヤツの方が良かったかな」
「そうですか。高崎先輩は今回のT2のBGMはトークしやすいテンポだって言ってましたけど」
「聞きやすいBGMとトークしやすいBGMってまた違うからね」
「そうなんですね」

 聞きやすいBGMとトークしやすいBGMという概念が出てくると、どっちを優先しようかなかなか難しい。アナウンサーさんからするとトークしやすい方がいいんだろうけど、うーん、難しい。どうしようかなあ。

「高崎が昼放送やる上で一番気にしてることって知ってる?」
「えっ、何ですか」
「昼放送に限った話じゃないけど、“ノイズにならない番組”っていうのを一番気にしてやってるんだよ、高崎は」
「そうだったんですね」

 ラジオ、特にこういった場の館内放送では聞く人がチャンネルを決めることが出来ない。ON AIRと言うだけあって、場の空気に関わること。だからこそ、誰の耳にもノイズにならない、その場にいる人を不快にさせない番組作りを心がけるのだそうだ。
 高崎先輩からの講評と、岡崎先輩からの感想をすり合わせて自分なりに次に生かすべきことを考えていく。これが結構難しい。こうしてくれと入る注文をこなすだけならどんなに難しいことでも練習すれば出来る。だけど、自分で考えるのは重労働だ。

「岡崎先輩」
「なに?」
「ノイズにならない番組っていうと、構成も基本形にした方が無難ですかね」
「うーん、必ずしもそうとは言えないかな」
「そうなんですね」
「タカティが得意にしてる奇抜な構成は、確かに音の波を見る限りでは派手だよ。でも、フェードでの音の重なり方とか、BGMとアナの声が合ってるとか、そういうちょっとのことで聞こえ方が自然になる。逆に言えば構成が基本形だろうと聞けない番組は聞けない。そもそも、俺たちが基本って言ってる構成がどうかなんて、聞いてる人には関係ない」
「なるほど」
「高崎は、自分が本当に番組でやりたいことを言わないんだ。どんなに冒険がしたいと思っていても、内に押し込めて、閉じ込めて、それが不信の産物になる。タカティ、機材の扱いだけじゃなくて、アナウンサーがやりたいと思うことを引き出すのもミキサーの腕の見せ所だよ。それを引き出したら、実現させてあげられるように練習するんだ」

 岡崎先輩の話で、俺はミキサーとして高崎先輩の本当にやりたい番組を全く引き出せていないのだと知った。作品出展にしても夏合宿にしても、いかにアナウンサーさんに甘えてきたかが浮き彫りになる。ただ、相手が高崎先輩だけにそれを引き出すのはかなり難しそうだ。

「岡崎先輩、ありがとうございました」
「うん。タカティも、ツンデレの扱いは大変だろうけど頑張ってね」


end.


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今年の高タカは例年とはすこーしだけ違うような気がしないでもない。どちらもより相手に向き合おうという動きが見られ……るのか? 結果が伴うとは言っていない
というワケでぼっち席のユノ先輩。高崎は昼放送のリスナーという点ではユノ先輩のことを最も信頼しているんじゃないかと思う。でなければ岡崎に聞いて来いとは言わないだろうし
そして高崎を紐解くキーワード(?)、不信の産物。果たして高崎はこれからもそれを自分一人で形にしてしまうのか、どうか。

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