2016(03)
■溶け込むダイアログ
++++
「うわっちゃあ~」
「どうしましょう春山さん。これ、元に戻せませんか?」
「いや~、すぐには戻せねえなあ」
「本当にごめんなさいっ!」
縁起でもないエラー音に、カナコさんの叫び。春山さんの嘆きの声が折り重なれば、あ~あという視線が受付マシンに突き刺さる。
林原さんの言葉を借りれば、“スタッフでもないのにセンターに居座っている”カナコさんは今現在、春山さんの下でA番の仕事をしている。ちなみにまだ正式なセンタースタッフではない。
林原さんはカナコさんの顔を見る度苦虫を噛み潰したような顔をするけれど、春山さんはその辺のことには大らかだ。「やりたいって言ってるんだからやらせりゃいいじゃねーか。責任は私が取る。バイトリーダーナメんな」と現在に至る、んだけど。
「カナコ、お前これ何をどう触った」
「この青いボタンをクリックしたつもりなんですけど、手が滑って隣の緑色の方をクリックしちゃったかもしれません」
「うーわっ、全消しボタンじゃねーか! いや、でも全消しの前にはダイアログ出るよな? もしかして勢いよく行ったか?」
「行った、んですかね…?」
「まあ、幸い今日はリンが非番だ。明日までには私が誤魔化しとく」
「すみません~!」
「カナコ、コーヒーを淹れてくれ。で、私の肩を揉んでくれ~」
春山さんが受付システムの何かを復旧する作業に入った。幸い今は忙しくてバタバタするという程でもないからまったりと作業が出来そうだ。うん、林原さんが非番で本当に良かった。
自称・情報センタースタッフ研修生のカナコさんは、お茶汲みや行事予定をホワイトボードに書くといったセンターの業務に直接関係ないお仕事をしている。無賃金だし実質ボランティア。
だけど、春山さんがいるときは実際にA番の業務をやることもある。カナコさんが受付の席に座っていると、ぱあっと花が咲いてるようで何かこう、いいなあって。おっと別に春山さんが怖いとかじゃないですよー。
「はい、ミドリ君もお茶どうぞ」
「あっ、ありがとうございますー」
「春山さーん、コーヒーですー」
「おー、サンキュー」
「今肩揉みますね~」
「あ~、いいねえ。やっぱかわいこちゃんに肩を揉んでもらうと格別だ」
春山さんがどこかおじさんっぽいのは措いといて、馴染んでるなあと。カナコさんがどうして情報センターに居着くようになったのかはよくわからないけど、何だかんだみんなから受け入れられてる感じがする。
林原さんは認めてないって言うけど、それも挨拶のような感じに見えるのは俺だけかな。ミルクティーの淹れ方に対するこだわりも教えてたし、これからも淹れるならちゃんと覚えろって言ってるみたいだ。時間の問題なのかな。
「春山さん、パソコンや機械が使えないとセンターのスタッフにはしてもらえないんですよね」
「基本的にはな。採用するのもほぼ理系だし。私は例外だけど」
「私、実は機械音痴なんですよ。厳しいですか?」
「そんな気がしてたけど、やっぱりか。こないだ和泉のmp3プレイヤー壊してたな」
「ワザとじゃないんです! だからドラムや春山さんのペースには触らせてもらいましたけど、雄介さんのキーボードには触りませんでした。ピアノは弾けます、でも機械だってわかってたから」
……うん、賢明かも。林原さんのキーボードを壊そうものならとんでもないことになりそうな気がする。こわいこわい。そんな話をしつつ春山さんの肩を揉むカナコさんは、くにゃりとうなだれている。
「情報センターのスタッフで機械音痴はなかなかの致命傷だぞ」
「頑張ります、頑張るのでこれからも教えて下さい」
「よし、腰のくびれを両の手でホールドさせてもらおう。それで手を打とうじゃねーか」
「お主も悪よのう」
「どんな男がお前の腰をホールドするのかな~、うぇっへっへ」
「いやですね春山さん、私は身も心も先輩の物ですよ。先輩にしかホールドされてませんよ」
「お主、好き者よのう」
「いやん」
……って言うか、いやんはこっちのセリフですからー! 真っ昼間からなんて話をしてるんですかこの人たち! 言ってる意味くらいわかりますからー!
「ミドリ君も肩揉もうか? 疲れてない?」
「いやっ、そのっ、大丈夫です!」
「真っ赤になっちゃってー、川北はかわいいなー」
end.
++++
いやん。カナコの致命傷は機械音痴。多分ケータイとかも必要最低限の機能しか使わないしパソコンも家でネットを見る分には辛うじて大丈夫だろうけどなかなか……
ブルースプリングの方にも出入りしているカナコ、メンバーの楽器に触らせてもらっていたようだけど、キーボードだけは辞退していたらしい。なるほど、わかっていたからか
情報センターは何かミドリ頑張れっていう空気になりつつあるけれども、ミドリはミドリで処世術のようなものを編み出していくからあざといのである。あざといカマトトマスコットである。
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「うわっちゃあ~」
「どうしましょう春山さん。これ、元に戻せませんか?」
「いや~、すぐには戻せねえなあ」
「本当にごめんなさいっ!」
縁起でもないエラー音に、カナコさんの叫び。春山さんの嘆きの声が折り重なれば、あ~あという視線が受付マシンに突き刺さる。
林原さんの言葉を借りれば、“スタッフでもないのにセンターに居座っている”カナコさんは今現在、春山さんの下でA番の仕事をしている。ちなみにまだ正式なセンタースタッフではない。
林原さんはカナコさんの顔を見る度苦虫を噛み潰したような顔をするけれど、春山さんはその辺のことには大らかだ。「やりたいって言ってるんだからやらせりゃいいじゃねーか。責任は私が取る。バイトリーダーナメんな」と現在に至る、んだけど。
「カナコ、お前これ何をどう触った」
「この青いボタンをクリックしたつもりなんですけど、手が滑って隣の緑色の方をクリックしちゃったかもしれません」
「うーわっ、全消しボタンじゃねーか! いや、でも全消しの前にはダイアログ出るよな? もしかして勢いよく行ったか?」
「行った、んですかね…?」
「まあ、幸い今日はリンが非番だ。明日までには私が誤魔化しとく」
「すみません~!」
「カナコ、コーヒーを淹れてくれ。で、私の肩を揉んでくれ~」
春山さんが受付システムの何かを復旧する作業に入った。幸い今は忙しくてバタバタするという程でもないからまったりと作業が出来そうだ。うん、林原さんが非番で本当に良かった。
自称・情報センタースタッフ研修生のカナコさんは、お茶汲みや行事予定をホワイトボードに書くといったセンターの業務に直接関係ないお仕事をしている。無賃金だし実質ボランティア。
だけど、春山さんがいるときは実際にA番の業務をやることもある。カナコさんが受付の席に座っていると、ぱあっと花が咲いてるようで何かこう、いいなあって。おっと別に春山さんが怖いとかじゃないですよー。
「はい、ミドリ君もお茶どうぞ」
「あっ、ありがとうございますー」
「春山さーん、コーヒーですー」
「おー、サンキュー」
「今肩揉みますね~」
「あ~、いいねえ。やっぱかわいこちゃんに肩を揉んでもらうと格別だ」
春山さんがどこかおじさんっぽいのは措いといて、馴染んでるなあと。カナコさんがどうして情報センターに居着くようになったのかはよくわからないけど、何だかんだみんなから受け入れられてる感じがする。
林原さんは認めてないって言うけど、それも挨拶のような感じに見えるのは俺だけかな。ミルクティーの淹れ方に対するこだわりも教えてたし、これからも淹れるならちゃんと覚えろって言ってるみたいだ。時間の問題なのかな。
「春山さん、パソコンや機械が使えないとセンターのスタッフにはしてもらえないんですよね」
「基本的にはな。採用するのもほぼ理系だし。私は例外だけど」
「私、実は機械音痴なんですよ。厳しいですか?」
「そんな気がしてたけど、やっぱりか。こないだ和泉のmp3プレイヤー壊してたな」
「ワザとじゃないんです! だからドラムや春山さんのペースには触らせてもらいましたけど、雄介さんのキーボードには触りませんでした。ピアノは弾けます、でも機械だってわかってたから」
……うん、賢明かも。林原さんのキーボードを壊そうものならとんでもないことになりそうな気がする。こわいこわい。そんな話をしつつ春山さんの肩を揉むカナコさんは、くにゃりとうなだれている。
「情報センターのスタッフで機械音痴はなかなかの致命傷だぞ」
「頑張ります、頑張るのでこれからも教えて下さい」
「よし、腰のくびれを両の手でホールドさせてもらおう。それで手を打とうじゃねーか」
「お主も悪よのう」
「どんな男がお前の腰をホールドするのかな~、うぇっへっへ」
「いやですね春山さん、私は身も心も先輩の物ですよ。先輩にしかホールドされてませんよ」
「お主、好き者よのう」
「いやん」
……って言うか、いやんはこっちのセリフですからー! 真っ昼間からなんて話をしてるんですかこの人たち! 言ってる意味くらいわかりますからー!
「ミドリ君も肩揉もうか? 疲れてない?」
「いやっ、そのっ、大丈夫です!」
「真っ赤になっちゃってー、川北はかわいいなー」
end.
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いやん。カナコの致命傷は機械音痴。多分ケータイとかも必要最低限の機能しか使わないしパソコンも家でネットを見る分には辛うじて大丈夫だろうけどなかなか……
ブルースプリングの方にも出入りしているカナコ、メンバーの楽器に触らせてもらっていたようだけど、キーボードだけは辞退していたらしい。なるほど、わかっていたからか
情報センターは何かミドリ頑張れっていう空気になりつつあるけれども、ミドリはミドリで処世術のようなものを編み出していくからあざといのである。あざといカマトトマスコットである。
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