2016(03)

■僻地の暗躍と揺るがぬ日常

公式学年+1年

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 祝日で世間的には休みだろうと、大学は割と平常通りに授業が行われている。今日の体育の日にしても例外ではなく、今日も普通に授業を受けて、その合間に大学祭に向けた準備をしたり、サークルに顔を出したりとなかなか忙しい。
 昼休み、偶然鉢合わせた果林先輩とご飯を食べることになった。俺は寝坊でついさっき出てきたばかり。そこまで食欲もなかったからポテトだけつまもうと思ったけど、果林先輩がそれを許さない。まともな食事だ。

「いいなあタカちゃんは試食会に出れて」
「3年生の方は違うんですか」
「アタシに試食させたらなくなるって手ぇ出させてもらえないの」
「うーん、えっと」
「ほら。タカちゃんもはっきり否定してくれないっていうことは、そういうことなんだよ」

 今日はゼミの方で出すぜんざいの試食会がある。中身は白玉にするのか、それとも餅にするのか。いろんなパターンが考えられるだけに、いろいろ試して味やコストについて考えようという会。
 3年生は山浪エリアの郷土料理とされる鶏肉の炒め物を出すそうだ。小田先輩が山浪の人で、レシピ監修などに気合が入っていたなあと思う。小田先輩本人曰く「屋台のおじさん」ルックは結構似合っていた。
 一口サイズにした鶏肉をタレに漬け込んで、それを野菜と一緒に炒めるという料理らしい。果林先輩が言うにはごはんやうどんとの相性が抜群。うん、それは試食会に果林先輩は参加できないなと納得。

「別に全部食べ尽くすワケじゃないのにー。ちゃんと味を見た上でついでに白いご飯を食べるだけなのにー! ねえタカちゃんひどいよねえ桃華も小田ちゃんも!」
「まあ、何とも言えませんけど」

 そう言いながら、Lサイズのカツ丼をかきこむ果林先輩の姿を見ていると説得力というものを疑わざるを得ないのだ。ただでさえMサイズでも量が多い緑大の学食で、Lサイズの丼に汁物という体のうどんを付けるというさすがの食べっぷり。

「おい、バカリン。相席いいか」
「んー? あっ、ナギアンタナニやってんの」
「席が埋まってやがるんだよ。どいつもこいつも学食で会議しやがって」

 突然現れた長身で緑大指定のジャージの男の人は、どうやら果林先輩の知り合いらしい。L先輩よりも背が高くて、体もしっかりしている。中高からの腐れ縁で今は体育学部、陸上部なんだよと紹介を受ければ、その姿にも合点がいく。

「あー、確かに書類広げてる人多いね。みんな考えることは一緒かー」
「学祭が近いとこうだからな。俺には理解できない」
「来ればいいのに」
「トラックまで音がバリバリ聞こえてうるさすぎる。練習にならない」
「練習しに来いって言ったワケじゃないっつーの。お祭りもいいもんだよ。中学の時一緒に回ろうって言ってたのにすっぽかされた恨みは忘れてないからね」
「そんな昔の話」

 市川先輩は特に大学祭で何をするわけでもなく、時間があればトレーニングに打ち込むスタンスの人らしい。果林先輩は、アタシも本来なら学祭を羨みつつトレーニングしてる側だったかもねーと笑う。そっか、確か緑大の体育学部にも推薦で行けたんだっけ。

「あ、そうだナギ。今もアタシの番組聞いてる? MBCCの方」
「ああ、たまにな。秋からは金曜になったのか」
「この子がその秋からの番組の相棒。あと、学祭でも2日目はまる1日ゼミのラジオブースに監禁されて一緒に番組やることになってるから。ナギ、いい? ゼミの食品ブース潰されるとかいう偏見で僻地に押し込められてかわいそうなアタシを慰めに来なきゃ許さないからね」

 すると、市川先輩はふう、とわざとらしく大きく息を吐いた。

「お前ホント馬鹿だな、バカリン」
「バカリン言うな」
「お前、どうせ僻地に押し込められたところで暗躍するつもりだろ。そんな奴を慰める必要がどこにある」
「果林先輩、バレてますね」
「ぐっ、バカナギ!」
「ま、腐れ縁だからな。お前の暗躍に付き合わされる相棒の応援になら来てもいいけど。さーて、暗躍するバカリンはどんないい顔見せてくれんのかね」

 バチンと果林先輩にデコピンをして、ごっそーさんでしたと市川先輩は空の丼の乗ったトレーを持って立ち上がってしまった。果林先輩は悔しそうに唇を噛み締め、ヒゲもナギもぎゃふんと言わせてやるーと気合十分。

「って言うかデコ痛い! ナギアイツ爪クリーンヒットさせやがった!」
「大丈夫ですか」
「腹立つわ~!」
「まあ、でも市川先輩も学祭に興味を持ってくれたみたいですし」
「うう、デコいたい」


end.


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オリンピックイヤーのモブキャラに終わらせるつもりのなかったナギをここで投入。お祭りよりもトレーニング、練習の方が好きなタイプらしい。
果林が試食会に参加させてもらえない、というか食べたいように食べさせてもらえないのは桃華嬢の睨みがかかっているような感じ。焼きうどんにしてもうまーらしいぜ!
ここからタカりんとナギはどういう関係になっていくのやら。しかし中学時代の果林とナギがやいやい言ってるのも見てみたい

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