2018
■妖怪菓子配りの凱旋
++++
「うーい、テメーら! 芹サンのお帰りだぞー!」
情報センターの受付越しに、春山さんの威勢のいい声がする。それを俺と林原さんが事務所の中から迎えるけれど、一向に事務所のドアが開く気配がない。
「……手が塞がってるんですね」
「開けてくれ、リン」
「どうぞ」
「ふー。よっこいしょーいちー」
林原さんの助けでようやく事務所の中に入ることの出来た春山さんは、それこそドサッという音がしそうなくらいに荷物を抱えていた。段ボール箱や紙袋がいっぱい。こんなにたくさんどうやって持ってきたんだろうっていうくらいには。
「よーしテメーら、配給するぞー」
「待ってました、妖怪菓子配り」
「えっと、配給?」
「川北、この人は空港で土産を爆買いするという話はしただろう。その配給だ」
「わ、わー、いいんですかー」
ゴールデンウィークで実家に戻っていた春山さんが、大量のお土産と一緒に戻ってきた。両手を塞いでいたのはぜーんぶ、お土産なんだとか。北の大地は食べ物が美味しいと言うし、本州とは品揃えもちょっと違うとは聞いたことはあるけれど。
それでも、これってセンターだけに配る用なの? というような量なんだよなあ……。明らかに片手で足りる人数に配るお土産じゃないんだよなあ。いくら使っているのかは聞かないでおいた方がいいかもしれない。
「川北ァー、お前にはメロンゼリーがあるぞー」
「わーっ! 本当にいいんですかー!」
「そんな高いモンでもないしな。たーんと食えよー」
「ありがとうございまーす!」
「仮にここの冷蔵庫に入れるなら名前を書いておけ。そうでなければ土田に食われるからな」
「……そうしますー」
こないだ北辰の物産展で買った20個入りのメロンゼリー、それが俺の手元に帰ってきた。こないだは事故でほとんど冴さんに食べられてしまったけど、今回は俺も心おきなく食べることが出来そうで本当に嬉しい。
「ほらリン、屯屯おかき」
「ありがとうございます」
「めんどくさかったからエビもホタテも買ってきた」
「春山さんにしてはいい仕事ですね」
「春山さん、とんとんおかきって」
「やめられないとまらない魅惑のおかきだ」
「間違いありませんね」
「リンはこれが好きでよ、目を離すと全部食われてるからな」
「本当に止め時がわからないので」
そこまで言われると気になりますよね。やめられないとまらないなんて。他にもお土産袋の中には見たことのない物がいっぱい入ってるんですよね。俺みたいな素人の選ぶお土産じゃなくて、プロの選ぶ北辰土産みたいな。
そうこうしている間に林原さんはさっそくとんとんおかきの袋を開けているし、繁忙期は過ぎたから多少はと言い訳をしているのがよほど食べたかったんだとわかる。あ~、俺も食べてみたい、気になる~!
「あれっ、今日のシフトってリンと川北だけだっけか」
「ですね、放課は」
「冴はいないのかー」
「そのうち来るんじゃないですか、動物的カンで」
「おざーす。春山さんが帰って来てる頃かなァーと思って来ヤしたァー」
「うわっ、マジで来た」
「ほら見たことか」
どうやら冴さんには動物的カンがあるらしく、いい予感がするときはシフトに入ってなくてもセンターに来るし、悪い予感がするときはシフトに入っていても「休みまーす」と言ってセンターに近寄らないらしい。
今みたく、春山さんがお土産を配ってるだろうなーっていうのを嗅ぎ付けたようなタイミングで現れて、さすがですよね冴さん。結構こういうパターンがあったのか、林原さんは驚いてないですよね。
「春山さん春山さん、バターケーキありヤすか」
「あるぞ。ほら」
「あざーす。自分これ好きなンすよ」
「バターサンドもあるぞ」
「サンドはいースわ。ケーキの気分なンで」
「川北、バターサンド食うか?」
「あっ、いただきまーす。美味しいですか?」
「土産の定番ではある」
冴さんは黄色い包みのバターケーキをかじりながら、紙袋や段ボール箱を漁って好きな物があるかなーと物色している。机に置いてた俺のメロンゼリーも一瞬狙われたけど、林原さんが制止してくれた。なるほど、こういう感じで前回は食べられたんだ。
そして俺は春山さんがくれた銀の包みのバターサンドを一口、ぱくり。するとどうだろう。口の中に広がる何とも言えない味。なにこれ、おいしい。ふわふわ、ほろほろ、ほのかな洋酒の風味にレーズンがマッチして。んー、おいしい!
「春山さん!」
「どうした」
「バターサンドが美味しすぎます!」
「じゃあ箱ごと持ってけ」
「えーっ!? ダメです……これは人をダメにします……」
「大袈裟だな」
これが妖怪お菓子配り……恐るべし!
end.
++++
情報センターに大量のお土産を持って春山さんが帰ってきました。ミドリには先日食べられてしまったメロンゼリーもある様子。よかったね!
そしてお土産の気配を察知してセンターに来る冴さんはさすが。冴さんはバターケーキが好きなようです。
リン様はおかきを食べているようだけど、きっとボリボリうるさいんだろうなあw
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「うーい、テメーら! 芹サンのお帰りだぞー!」
情報センターの受付越しに、春山さんの威勢のいい声がする。それを俺と林原さんが事務所の中から迎えるけれど、一向に事務所のドアが開く気配がない。
「……手が塞がってるんですね」
「開けてくれ、リン」
「どうぞ」
「ふー。よっこいしょーいちー」
林原さんの助けでようやく事務所の中に入ることの出来た春山さんは、それこそドサッという音がしそうなくらいに荷物を抱えていた。段ボール箱や紙袋がいっぱい。こんなにたくさんどうやって持ってきたんだろうっていうくらいには。
「よーしテメーら、配給するぞー」
「待ってました、妖怪菓子配り」
「えっと、配給?」
「川北、この人は空港で土産を爆買いするという話はしただろう。その配給だ」
「わ、わー、いいんですかー」
ゴールデンウィークで実家に戻っていた春山さんが、大量のお土産と一緒に戻ってきた。両手を塞いでいたのはぜーんぶ、お土産なんだとか。北の大地は食べ物が美味しいと言うし、本州とは品揃えもちょっと違うとは聞いたことはあるけれど。
それでも、これってセンターだけに配る用なの? というような量なんだよなあ……。明らかに片手で足りる人数に配るお土産じゃないんだよなあ。いくら使っているのかは聞かないでおいた方がいいかもしれない。
「川北ァー、お前にはメロンゼリーがあるぞー」
「わーっ! 本当にいいんですかー!」
「そんな高いモンでもないしな。たーんと食えよー」
「ありがとうございまーす!」
「仮にここの冷蔵庫に入れるなら名前を書いておけ。そうでなければ土田に食われるからな」
「……そうしますー」
こないだ北辰の物産展で買った20個入りのメロンゼリー、それが俺の手元に帰ってきた。こないだは事故でほとんど冴さんに食べられてしまったけど、今回は俺も心おきなく食べることが出来そうで本当に嬉しい。
「ほらリン、屯屯おかき」
「ありがとうございます」
「めんどくさかったからエビもホタテも買ってきた」
「春山さんにしてはいい仕事ですね」
「春山さん、とんとんおかきって」
「やめられないとまらない魅惑のおかきだ」
「間違いありませんね」
「リンはこれが好きでよ、目を離すと全部食われてるからな」
「本当に止め時がわからないので」
そこまで言われると気になりますよね。やめられないとまらないなんて。他にもお土産袋の中には見たことのない物がいっぱい入ってるんですよね。俺みたいな素人の選ぶお土産じゃなくて、プロの選ぶ北辰土産みたいな。
そうこうしている間に林原さんはさっそくとんとんおかきの袋を開けているし、繁忙期は過ぎたから多少はと言い訳をしているのがよほど食べたかったんだとわかる。あ~、俺も食べてみたい、気になる~!
「あれっ、今日のシフトってリンと川北だけだっけか」
「ですね、放課は」
「冴はいないのかー」
「そのうち来るんじゃないですか、動物的カンで」
「おざーす。春山さんが帰って来てる頃かなァーと思って来ヤしたァー」
「うわっ、マジで来た」
「ほら見たことか」
どうやら冴さんには動物的カンがあるらしく、いい予感がするときはシフトに入ってなくてもセンターに来るし、悪い予感がするときはシフトに入っていても「休みまーす」と言ってセンターに近寄らないらしい。
今みたく、春山さんがお土産を配ってるだろうなーっていうのを嗅ぎ付けたようなタイミングで現れて、さすがですよね冴さん。結構こういうパターンがあったのか、林原さんは驚いてないですよね。
「春山さん春山さん、バターケーキありヤすか」
「あるぞ。ほら」
「あざーす。自分これ好きなンすよ」
「バターサンドもあるぞ」
「サンドはいースわ。ケーキの気分なンで」
「川北、バターサンド食うか?」
「あっ、いただきまーす。美味しいですか?」
「土産の定番ではある」
冴さんは黄色い包みのバターケーキをかじりながら、紙袋や段ボール箱を漁って好きな物があるかなーと物色している。机に置いてた俺のメロンゼリーも一瞬狙われたけど、林原さんが制止してくれた。なるほど、こういう感じで前回は食べられたんだ。
そして俺は春山さんがくれた銀の包みのバターサンドを一口、ぱくり。するとどうだろう。口の中に広がる何とも言えない味。なにこれ、おいしい。ふわふわ、ほろほろ、ほのかな洋酒の風味にレーズンがマッチして。んー、おいしい!
「春山さん!」
「どうした」
「バターサンドが美味しすぎます!」
「じゃあ箱ごと持ってけ」
「えーっ!? ダメです……これは人をダメにします……」
「大袈裟だな」
これが妖怪お菓子配り……恐るべし!
end.
++++
情報センターに大量のお土産を持って春山さんが帰ってきました。ミドリには先日食べられてしまったメロンゼリーもある様子。よかったね!
そしてお土産の気配を察知してセンターに来る冴さんはさすが。冴さんはバターケーキが好きなようです。
リン様はおかきを食べているようだけど、きっとボリボリうるさいんだろうなあw
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