2016(02)

■揺れる五感

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「沙都子、ミラの様子どう?」
「Kちゃん。ううん、厳しそう」
「そっか」

 夏合宿2日目、夕食の時間。青白い顔をしたミラは、夕飯の時間になっても食堂に行くことが出来ずにロビーのソファで休んでいた。夕飯が終われば番組のモニター会が始まる。極度の緊張に襲われているようだった。
 ミラの隣には沙都子についてもらっている。班は違うけど同じ大学だし、何より“さとかーさん”と呼ばれるだけの空気感を持つ沙都子が側にいればミラも少しは安心するかなと思って。

「啓子さん、これ」
「つばめ、アンタどこ行ってたの。食堂じゃなかったの?」
「部屋。こんなこともあろうかと思って持って来といた」

 つばめはアタシにゼリー飲料を手渡した。こんなこともあろうかと思える班の状態というのは壮絶としか言い様がない。曰く、理由は違うけど本番前に食べない人を知っているからこれくらいはDとしての基本、だそうだ。
 今のミラに自分の顔を見せると番組のことを想像してパニックになりかねない。だからこれは青女勢から渡してあげてほしい、とつばめは頭を下げる。それが今の自分に出来る、ミラを守るための最善の策なのだと。

「何も食べないのは良くないし、これがダメでも水分はあげて欲しい」
「つばめ、もし回復しないようならどうすればいい」
「無理はしなくていいよって伝えて。番組はアタシが何とかする」
「わかった」
「啓子さん、ゴメン。アイツを止めきれなかった」

 アイツ――あの人が夏合宿の班でも好き放題しているという話は対策委員の会議でも報告されていたし、いろいろな場所から噂として伝わってきていた。いつしか、「つばめ班はヤバい」というのがインターフェイスに知れ渡ることとなっていた。

「それはつばめが悪いんじゃない。みんなわかってる」
「ううん、それよりミラのケアが不十分だった。三井なんかよりミラが大事ってLとも言ってたんだけど、やっぱアタシダメだわ。ああいうの見てると頭に来て」
「気持ちはわかる」
「だけど、アイツは今もミラが具合悪いのすら叩く材料にするからね。緊張感を持ってれば番組前に具合が悪くなるなんてあり得ない~そんなんじゃ通用しない~とか何とかって」
「さすがにそれは」
「班練習でミラが何かする度に攻撃してたんだよ。ミキサー席に座るだけでもお小言だし」

 つばめの話を聞いていくと、ミラは1人ですべての圧に耐えていたのだとわかる。あの人はミラを通して青女全体を悪く言っていたとか、自信がなくてどうして自分と組めると思ったのかなどと言われ続ける日々。ミスなんかしようものなら。
 あの人のことをつばめと話していると、沙都子が何か話したそうにこっちに近付いてくる。アタシたちはよほど険しい顔をしていたのか、近付き難い雰囲気だったよと沙都子も少し困り顔。

「沙都子、ミラはどう?」
「ご飯は食べられないみたいだけど、さっきよりは少し落ち着いたみたい」
「ああそうだ、これ。つばめから」
「さとちゃん、ミラに飲ませてあげて」
「うん、ありがとうつばちゃん。……つばちゃん、ミラね、怖いけどやりたいって。多分、あたしが思ってる以上にいろんなことを考えてる。ミラの想い、つばちゃんは知ってるべきだと思うの」
「わかった。行くよ」
「沙都子、つばめ。アタシ1班だし準備あるからそろそろご飯食べに行くけど」
「うん、ありがとう啓子さん」

 あとは、沙都子とつばめに託して。今後のことはどう転ぶかわからないけど、ミラにとっていい風になるよう祈るしかない。言いたい奴には言わせとけと言うけれど、それでいいのは聴覚と痛覚をコントロール出来てからなんだ。


end.


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3年生なんかは割と「言いたい奴には言わせとけ」というスタンスのキャラクターが多いですが、なかなかみんながみんなそうもいかないようです。
班長として守るものは何かということをつばちゃんは考えていたようですが、まだまだ感情のコントロールが上手くいかないようです。
インターフェイス全体につばめ班のヤバさが知れ渡っているようだけども、果たして番組はどうなるのか!

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