2016(02)

■実質的昇給への道

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「おい、極悪非道のリン様」
「何ですか、私利私欲の春山さん」
「たった3日だぞ、たった3日休暇を申請しただけでどうしてペナルティなんだ」
「その休暇の取り方が唐突なのと、理由が冠婚葬祭や帰省などでなく映画を見るためだけの休暇申請だったからです」
「バイトリーダーは私だぞ。何でお前が私に罰を科す」
「バイトリーダーがそれでは示しがつかん。身を削れ」
「毎日働けというのか!」
「レイトショーなどではやっとらんのか。ただでさえ人もおらんこの時期にだな」

 夏休みに入って、情報センターの繁忙期も過ぎた。日によっては座っているだけで給料が入ってくる給料泥棒のモードに入っている。さすがに夏期休暇中はセンターの開放時間も通常よりやや短く設定されているが、日給の上限に変わりはない。
 先述の理由でペナルティを科せられた春山さんは、いつもよりも凶悪な目つきで受付のマシンを触っている。とは言え、何をするでもなくタンタンタタンと無駄にキーボードを叩くだけだ。
 閑散期だけあって、普段なら自習室にいることの多いオレも利用者が来るまではここで待機している。本格的にセンター業務が済んでしまえば、洋食屋でのバイトの準備など、やること自体はある。

「おっ、それは洋食屋でやるヤツか」
「そうですね」
「給料泥棒ー、今日はタダ働きをさせられている私に謝れー」
「ヤなこった」
「チッ。しかし本格的にヒマだなー、ヒマすぎて死にそうだ。何か面白いことねーかな。リン、ケツを出せ。揉ませろ」
「どうしてそうなる」

 隙あらば人の尻に手を伸ばしてくるこの痴女だ。油断も隙もあったモンじゃない。オレは尻と譜面を死守しつつ、それとなく距離をとる。それでいて、この人の退屈を紛らわす出来事が起きないものかと密かに願うのだ。
 何を与えればこの人が大人しくなるのかは未だに謎だ。嫌いな物を与えるとわあわあ騒いで話にならんし、好きな物を与えるとそれはそれでウルサイのだ。勝手に電池が切れるのを待つしかないのだろうが、切れる素振りもない。

「そうだリン」
「何ですか」
「センターのスタッフ募集の張り紙の掲示場所を増やそうと思うんだが、お前はどう思う」
「いいんじゃないですか。現状のまま募集していたところで人が来るとは思えませんし。春山さんにビビッて逃げる者も後を絶たないのが現実ですから」

 春山さんの目つきにビビッて面談まで辿り着かなかった者も何人かいた。面談に辿り着いてもセンター業務に最低限必要な技能がなかったり、講義コマの都合で不採用になることもある。面談数を増やしていかねばならんのは事実だ。
 情報センターは現在ギリギリの人数でやっている。オレと春山さんがヌシと呼ばれるほどにここに居着いているのは、組めるシフトの都合もあるのだ。日給の上限などカンストすること数知れず。実質的な時給は規定の1000円に満たない。

「ホントなんなんだよー、芹サン優しいぞ!?」
「アンタのどこが優しいんだ。おい、人の乳首をこねくり回すな」
「ケツを出さないからだろ」
「出すか! 土田じゃあるまいし」
「冴も一応ケツは出さないぞ。アイツが出すのは胸までだ。ああ、冴パイが恋しい」
「それもどうかと思うがな。ったく。センタースタッフを募集するなら、変人か変態だけでなく常識人が来ないものか」

 今日もこのまま利用者が来ることなく1日を過ごすのだろうか。まあ、センターは涼しいし飲み物もあるから暑さ対策という意味では言うことはないのだが。ただ、これなら春山さんにペナルティを与えず一人で業務にあたってもよかったと思う。

「おい、いつまでやっている」
「手元に冴パイがないのが悪い! はっ、雄介パイで略して雄(お)っぱいというのはどうだろう。やわらかくもないし鷲掴みにすることもできねーけど。あっでも脱ぐと案外イケる可能性…? よーしそうとなったら脱げリン」
「脱ぐか」


end.


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春山さんがヒマすぎて暴れたい衝動をどうにかしていたっぽい回。春山さんならこれくらい余裕だろう……
本当はこの話で青山さんが湧いてくる予定でしたがブルースプリングの話にはまだ早いなあと思った。焦りすぎよエコさん
最近のリン様は丸くなった丸くなったと言われていますが、何に対しても動じないのはやっぱりさすがなのである

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