2016(02)

■気持ちが生焼け

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「うう~」
「伏見、箸が進んでないぞ」
「あざがぐうううん」

 微妙な色の空の下、今日はゼミのバーベキュー。お肉の焼ける匂いはおいしそうだし、たまのバーベキューはすっごく楽しいよ! でも、こんなところでメールチェックをしたのがダメだった~。
 映研の監督先輩から来ていたメールを見た瞬間、お腹がキリキリしてきた。実際にお腹が痛いとかっていうより多分気持ちの問題だと思う。急にどすんって肩から何かが乗っかってきたような、そんな感じ。
 大学祭で映画研究会は「星ヶ丘映画祭」っていうブースを出す。そこに出す作品の台本を書いていたのを見ていた朝霞クンは、そんなあたしを見てくすりと笑っている。うう、他人事だと思ってえ。

「大方、部活の台本のことだろ」
「さすが朝霞センセ、お見通しで」
「お前がそんな重い顔すんのなんか台本に追われてるときくらいだからな」
「他の時は気が抜けてるって聞こえるけど」
「違うのか?」
「もー、朝霞クンもそんなこと言う! もう知らない!」
「あー、悪かったって。で、そんな顔してるってことは、台本はダメだったのか?」
「ううん、ダメじゃないよ、通った。通ったけど、この後でまた細かいところを打ち合わせするからって言われて、何をどうボロクソに言われるのかと思うと食欲が」

 食欲が湧かないって言ってるのに、朝霞クンはあたしの紙皿にぽいぽいとトウモロコシとカボチャを乗っけてくる。野菜なら肉より食いやすいだろって。確かに甘い野菜だしカボチャは柔らかいし食べやすいけどさあ。

「何でボロクソに言われること前提なんだ」
「何でって」
「お前、さては書いたモンに自信ないだろ」
「そんなことないです」
「自信があるなら、話し合いの場でも堂々としてればいい。おどおどしてたら台本を改変する隙を与えるぞ。お前が何を表現したい作品なのか、それを他人の手で根本から覆されてもいいのか」
「よくは、ないです」

 相変わらず放送部、映研に関わらず台本に関するときの朝霞クンの語り口はグサグサと痛いところを突いてくる。普段は優しいのに部活絡みの時は人が変わったようになるもんなあ。
 すると、朝霞クンはお皿を置いて語り始めるのだ。伏見は食いながらでいいから俺の話を聞け、と。その手にはウーロン茶。箸は時折あたしのお皿に焼けた物を乗っけてくれる。こうなると長くなるんだよなあ、朝霞クン。

「いいか、お前がぶれると」
「後手になる」
「むっ。それでなくてもエキストラも募集かけてるんだろ。お前と監督の間で何がやりたいかというのを共有出来てなければだな」
「現場が混乱して時間ばかりが過ぎていく~、でしょ? それ、台本書いてるときに何回も聞いたよ」
「それなら何度も言わすな。書いた物に自信を持て」

 自信を持てと言われても急に持つのは難しいのだ。書き上がったものを自分で空想する分には、いい作品になるとは思う。だけど、自分以外の人の手も加わるワケだから、空想通りの作品にはならないだろうし。
 何より、自分は面白いと思って書いているけれど、それが他の人からどう見えるかはわからない。作品が出来上がって、感想を聞くまでは手ごたえもなかなか感じられない。その“間”が怖いのかなあ。

「大体、俺も書き上がった物を読んでるんだ。俺は好きだぞ、あの作品。だから、やり通してくれ。出来上がった物を見たいんだ」
「うう、頑張ります……」
「ほら、肉を食え、肉を」
「……エビがいいです」
「自分で取れ、甘ったれんな」
「ひどーい! 鬼ー!」

 よーし、やるぞー! エビ食べるー!


end.


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変な時期にバーベキューなんてやってるんだなあ、朝霞Pとふしみんのゼミは。でも夏の1ページである。
大学祭に向けてちょいちょい動き始めたところもあります。映研のあれこれも少しずつやってみたいところであります。
そしてふしみんのお皿に焼けた物をぽいぽい乗っけていく朝霞Pよ。これ、ウーロン茶じゃなくて酒だったら大変なことになってただろうなあwww

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