2016(02)

■スタンダードとガラパゴス

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「アプリアプリって。はあ、本当に困った世の中だ」

 夏合宿の打ち合わせで話すようなことでないとはわかっていた。だけど、せっかく街に出てきたのだからとついでに買い物をしようとするだろ。生きにくい。実に生きにくい世の中じゃないか。

「この時代に未だに携帯電話を使っているうちが悪いのか、それとも携帯電話、すなわちガラケーユーザーをないがしろにする企業サマに文句を言うべきか」
「そう言えば奥村先輩はスマートフォンユーザーではありませんでしたね」
「そうなんだ」
「スマホユーザーの方が圧倒的に多いと思いますけど、変える予定はないんですか?」
「今のところはないぞ」

 こうやって班で集まって話していても、テーブルの上にはスマートフォン。まあ、かく言ううちもケータイをテーブルの上に置いているのだからこの点に関して人のことは言えない。
 確かに、授業なんかを受けていてもスマホユーザーが増えてるよ、若い人だと大体がスマホになってるよ、とかいう話を聞く。講義のミニレポートでも「1日の中でスマートフォンを利用している時間と、それで何をしているのか」というテーマが出た。
 そのレポートは担当の教授に「ガラケーだからそのテーマでのレポートは書けません」と正直に申告したらじゃあパソコンのインターネットでと言われたけど、家にネット環境ないよと言ったら出席だけカウントしてもらってパスすることが出来た。

「やァー、でも菜月先輩はスマホユーザーじャなくたッて事実を捏造、歪曲してレポート書くのなンか楽勝じゃないスかァー」
「確かに、ノサカみたくずーっと遊んでる奴の動きを参考にして書くことは出来なくもないとは思う。買い物先でだってアプリありますかって聞かれまくるし」
「ああ、ありますよねー。レジで提示したら割引出来たりするサービス」
「それどころかポイントサービスすらスマホアプリの時代だ。紙のカードでいいじゃないか」

 久々に下着を買おうとしたら、いつの間にか紙のポイントカードの制度が廃止されていてすべてをスマホアプリで一元化するようになっていたらしい。これにはさすがに衝撃を受けた。
 めんどいし慣れてるから同じ店を使い続けるだろうけど、ポイント何倍とか来店ポイントの恩恵がないのは辛い。誕生月はポイント5倍! だからどうした! ……的な?

「あたしはいいなって思った雑貨とかをスマホで撮って、そのままスマホでレポート書きますよー」
「ユキちゃん進んでるねー」
「スマホオンリーで書くのか?」
「オンリーのこともあります」
「俺はネットやゲームもそうですけど、画像や動画の共有ですかね。朝霞先輩が練習の動画を撮ってくれて、それを見ながら次の通し練習までに各々課題と向き合う、みたいな」
「へー、星ヶ丘はそんなこともやってるんだな」

 動画の共有はともかく、今の子はスマホでレポートを書くのかと衝撃を受けている。持っている道具が違うだけなのに、うちはすっかり昔の人間になってしまったかのような気さえする。
 確かに、スマホにしないのかとはよく言われる。ただ、まだそこまで困ってもないし、今までは1年ちょっとで壊れてきた歴代ケータイに比べて頑丈な今のケータイに愛着もあるからなかなか替えられずにいる。

「まあ、うちはCD買うのに使ってるオンラインショップが使えてる以上、替えなくてもまだ――」
「ところで菜月先輩。悪いお知らせがあるンすけどいースか」
「ああ……そう言えば俺もそのメールを受け取ってました」
「どうしたんだりっちゃん、高木。何の知らせだ」
「そろそろ例のオンラインショップが一部ガラケー端末でのサービスを終えるっつーお知らせメールが」
「ナ、ナンダッテー!?」
「やァー、いい野坂スわ。でも、菜月先輩、知ってヤすよね?」
「嘘だ! 何も聞こえないぞ!」
「信じたくないのはわかりヤすけど、現実なンすわ」

 家に引きこもりながらにしてポチッと出来なくなるだなんて! これは本格的に困るぞ…! でもなんかこう、ここまできたらガラケーのままでいたいんだ逆に!


end.


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例のオンラインショップにもお世話になってる組が菜月さんに絶望的な死刑宣告を突きつけるだけの回。
スマホだけでレポートを書くこともあるユキちゃんが進んでるし(レポート消えた話とかやりたい)、ゲンゴローは朝霞班マジ朝霞班というだけのヤツ。
菜月さんのガラケーちゃん、いつから使ってるんだろう……今の大学生だったら高校の時からでも普通にスマホ普及してないかな? わからんけど

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