2017

■Top of the Own World

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「やっぱりさ、僕って最先端過ぎてちょっとまだみんなには早いんだよね」

 三井が負け惜しんでいる。負け惜しむ原因については授業中に筆談で聞いたし、会話をしていたルーズリーフも証拠物件として保存してある。しかしまあ、負け惜しませたら右に出る者がないな。

「……菜月、三井はどうしたんだ」
「何か、オトそうとしてた子に部活が忙しくなるからってフラれたのと、FMむかいじまでやってたラジオパーソナリティーコンテストで惨敗したってのが主な原因だな」
「本当に外さないな」

 こうなった三井に圭斗は関わろうとしない。いや、元々圭斗は三井に関わろうとしないんだけど。「AB型の奴は宇宙人だ」と言って避けるんだ。三井にせよ、石川にせよ。例外がいるとすれば、美奈くらいか。
 2年生たちもまーたいつものが始まったぞーと、場合によっては全力で冷やかすためのスタンバイをしつつ、必死で強がる三井のフォローをする体で話を聞いているのだ。

「大体さ、星ヶ丘の放送部なんてタカが知れてるじゃない。インターフェイスに出て来る人のレベル見たらお察しじゃん。それに比べて放送の技術を持ってるよ僕は。僕と付き合うことで部活に生きるって考えないのかなあ」
「三井、ウチと星ヶ丘じゃ活動が違うんだぞ。比べる物でもないし、お前の持ってる技術とやらがそのままステージに通用するとでも思ってるのか」
「菜月、もしかして妬いてる?」
「意味が分からない」

 何が悲しくてうちが三井にそれなりの好意を持っている前提で話を進めなきゃいけないんだ。圭斗はそんなうちを見てくすくすと笑っているし、何かもういろいろと腹が立つ。

「大体さ、仮にステージだろうと星ヶ丘でやってたってプロになれっこないんだから素直に僕の誘いを受けてさあ、それで――」
「あの、三井先輩ッ! 星ヶ丘の放送部からプロの人、出てますッ!」
「奈々、悪い冗談言わないで。まだインターフェイスに出てないのにどこから聞いたの、騙されてるんだよ」

 自分に酔って演説を続ける三井にきょとんとした顔で口を挟んだのは、待望の1年生、春風の似合う(略)岡島奈々。“ゲッティング☆ガールプロジェクト”の結果MMPに加入してくれた子だ。
 奈々の言った「星ヶ丘から放送のプロが輩出されている」という情報にわかりやすく三井はうろたえ、うちと圭斗、それから2年生たちがアップを始めた。圧倒的な力量を持つ事実を突きつけることが三井を黙らせる手段なのだ。

「うちのお姉ちゃんが星ヶ丘の放送部なんですけど、この春からタレント事務所に所属して、テレビのお仕事も始めてるんですッ! 現役女子大生っていう箔があるうちにスタートダッシュだって言ってミーちゃん頑張ってるんですよーッ!」
「えっ、奈々の……お姉、ちゃん…?」
「くっ……ぷっ……」
「菜月、笑いたいなら哂えばいい」
「……だーっはっはっは! だっさー! 三井ダセー!」
「やァー、井の中の蛙ってヤツすわァー!」

 これがうちのお姉ちゃんですッ、と奈々は写真や事務所のタレント紹介ページを見せてくれる。それは純粋にタレントとして頑張り始めているお姉さんが誇りで、自慢なんだと思う。奈々の家は姉妹仲がとてもいいそうだから。しかし呆然とする三井がウケる。ひー、苦しい。

「ん、背が高くてスレンダーな美人だね」
「うちの身長取られちゃってるんですー」
「圭斗、美人にすぐ目を付けるのやめろ」
「圭斗先輩うちのミーちゃんはダメですよー、同じ部活の雄平さんって人に好き好きーっていつもアタックしててーッ。うちがMMPに入ったのも菜月先輩が素敵だったのと、ミーちゃんがその雄平さんづてに向島のサークルは楽しいし機材扱うの上手くなるぞーって話を聞いてくれててーッ」
「ん? もしかして、その雄平さんというのは越谷さんのことかな?」
「名字は知らないんですッ! ミーちゃんの話では頭が良くて筋肉すごくて優しくていい人なんですよーッ」
「……これはちょっと、然るべきところに報告の必要が出てきたね」

 そして気付けば誰も三井の話には耳を貸さなくなった。奈々を中心にサークルが回っていて、それがとても平和で楽しいし、何よりも奈々が可愛いのでなんでもいいです。女の子最高!


end.


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ゲッティング☆ガールプロジェクトのその後。奈々が今期初登場。そして何やら越谷コロス隊がアップを始めそうですね……
今年の三井サンはそこまで悪い人じゃないんだけどなあっていうフォロー回がまだないので現時点で単なるイタイ人みたいになっているのが残念だけど事実だからしょうがない
しかし2年生が静かだけど、菜月さんが大笑いしている裏でりっちゃんもケラケラ笑っているのはお察し。

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