2016(02)

■機は突然にドレミファソラシド

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 合宿までの時間もかなり短くなってきた。というワケで、今日はいつものコーヒーチェーン店を飛び出して、有志の面々で買い出しにやってきた。合宿にはいろいろな道具がいる。予算を上手くやりくりして調達しなければならない。

「ここでこないだやった抜き打ちの会計クイズが役に立つってワケだ」
「でも、つばめがいるならぶっちゃけレジとか任せていい気がするんだけど」

 今日の買い出しはドライバーのゴティに会計のつばめ、そしてバイトも何もなく基本的にヒマな議長の俺が駆り出されている。買い出しリストはつばめがまとめてくれているし、ぶっちゃけ俺は荷物持ちだ。
 ただ、買い出しは出来るだけ少人数がいいというのはつばめ談。あまり人数を増やしすぎると要らぬ物まで買ってしまうんだそうだ。それに、途中で絶対に脱線する。だから、買い出しは必要最低限の人員で行うべき仕事。

「ホントはアタシとゴティだけでもよかったくらいだけど、そこはまあ、一応議長だし。それにヒマそうだからね」
「ヒマで悪かったな」
「悪いとは言ってないじゃん。合宿も近くなったこの時期に、相手の都合を気にせず連絡出来る人間がいることのありがたみよ」
「そう言われると辛いですね!」

 俺が特に用事もなく家でごろごろしていたのは事実だからあまり強く反論は出来ないのだ。むしろ家でぐだぐだになって溶けそうになっていたところに買い出しに出てこいとお誘いがあったのは嬉しくもあり。

「つばめ、まずどこ行く」
「首提げのカードホルダーはアタシカタログで注文したの部室にこっそり置いてあるしそれは最後に取りに行ってもらって、あとは画用紙と同録のMD。あと、リクエスト用紙とモニター用紙コピーしなきゃだから」
「そっか、そういうのもあったな」
「他にもあるよ」

 ――と、つばめが今日のスケジュールを読み上げていく。時間に限りこそ今のところないものの、それでも最後に回る予定になっている星ヶ丘の部室が未知数だと。それなら先に回ったらいいんじゃないかと思わないこともない。
 ただ、現在時刻が正午過ぎ。どれだけ買い出しに時間がかかっても部室が閉まるような時間になることはないだろうという読み。変な時間になると、それこそ欲しい物がなかった場合に探す時間がなくなってしまうから、と。

「なあつばめ」
「ん?」
「名札用の画用紙って、名刺サイズの紙を買うんじゃダメなのか。その大きさに揃えて切るのめんどくさい」
「現場で値段比較してからね。対策はお金ないんだからかけれる手間はかける! これ以上合宿の参加費高くしたらブーイングの嵐だよ」

 厳しいのは対策委員の台所事情。夏合宿の参加費をボッタクった分で1年間やりくりしているということを俺はつい最近知った。だから画用紙を切るくらいの手間が何だと言われてしまえばすみませんでしたと頭を下げるしかない。
 今気付いたんだけど、買い出しのフィールドが星ヶ丘大学周辺なのはつばめのホームだからとかそんなようなことなのだろうか。勝手知ったるホームで1円でも多く切り詰めるための戦いとか、そんなようなことか。

「野坂、領収証のもらい方は?」
「向島インターフェイス放送委員会の名前で」
「たまには野坂にも働いてもらっちゃおっかなー」
「はい!?」

 つばめの不敵な笑みに、ゴティもケラケラと笑っている。そりゃ面白そうだと。俺らは後ろの方でこっそり見守ってよーぜとまるではじめてのおつかいか何かじゃないか。心配しなくても事件は起きませんし!

「よーし、買い物リストと会計カバンを野坂に預けてー」
「わーっ、ちょっと待てつばめホント頼む一人は勘弁してくれ!」


end.


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ノサカのはじめてのおつかい。対策委員のミキサー陣はつばちゃんとゴティ先輩からノサカがきゃいきゃいとイジられてると可愛いと思う。
朝霞班でも買い出しに関しては敏腕っぷりを発揮してくれているのですが、それは対策委員でも健在なつばちゃんである。
対策委員の収入源の事情を知ってしまえば少々お高めの合宿参加費にも不思議と「仕方ない」と頷いてしまう不思議。

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