2016(02)

■排他的風土と好奇心

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 打ち合わせで何回か来ているうちに、緑ヶ丘の部室の風景も目に慣れてきた。機材の壁が出来上がっていて、一見物置みたい。実際、広い部屋を借りて活動をすることもあるらしい。
 だけど、星ヶ丘の部室ほど“物置”と化しているワケでもなく、少人数であれば普通に練習をしたり駄弁ったり出来る空間。逆に、程よい狭さ。アタシからすれば2畳より広ければ住みよい。

「でもさー」
「あ?」
「緑ヶ丘でやるのが悪いってワケじゃないけどさー、普通は班長が自分の学校を開放するよね」

 はー、まーたロクでもない口挟んできやがって三井の奴。班長が自分の学校を解放しろ? あの部室を? アホみたいなこと言ってんじゃねーぞぶっ飛ばすぞ。

「まあまあ三井サン、夏の星ヶ丘はバタバタしますし、ウチでやるくらいがちょうどだと思いますよ」
「そうそう、Lはわかってる!」
「そうだけどさ~、それでもつばちゃんが班長としての気概を見せるべきだと思うよ俺は」

 星ヶ丘の部室を使わせることとアタシの班長としての気概がどう関係すんのかは謎だけど、ウチの部室をそう簡単に使えない理由がこの木偶の棒に理解できるとも思わないんだよね。
 今回緑ヶ丘の部室にお世話になるに当たって、緑ヶ丘でアタマ張ってる高崎サンと一度話をさせてもらっている。練習で使うだけならいい。ただ、関係ない場所を触ってくれるなと。
 それっくらい別に念を押されなくたって他所の部室は触んないけど、そういう常識と言うか暗黙が通じない男がウチの班にいるそうなのだ。他でもない三井がそう。
 他校の部室だろうと関係なく自分のホームであるかのように好き放題してくれるそうだ。あまり大きな声では言えない事件も引き起こされているとかナントカ。

「言っても星ヶ丘大学は星港市内だよ? 交通網があるし便利じゃない」
「ミッツさん、班のメンツ的に言うほどじゃないすか? ミッツさんもL先輩も星港市内に行くには遠いっすし、俺も定期ないからめんどいっていう。ミラもだべな。うん、そうだ。むしろ緑ヶ丘に一番遠いつばめサンがこっちに来てくれてることに気概を感じるっていう」
「エージ、アンタわかってんじゃん」

 そうそう、何気に緑ヶ丘から一番遠いのってアタシだったりする。交通費はバカになんないから原付で行ってるけど(星港市内からでも頑張れば行けるって果林が言ってたし)。

「別に、絶対ウチの部室が使えないワケじゃないんだけどね」
「ほら、じゃあつばちゃん次星ヶ丘で練習しようよ」
「どこの誰が、何人、何年何月何日何時何分から何年何月何日何時何分までどんな目的で部室に立ち入って、どこの誰が、何人、何年何月何日何時何分から何年何月何日何時何分まで部のどの備品を借りてっていうのを事前に申請した上で当日は申請した人数分のバッヂを幹部の目の前で付けて誓約書に署名してもらって帰りも幹部の目の前でバッヂを外して」

 ウンタラカンタラ。まだまだ続きはある。それが、インターフェイスの活動で人を入れたり機材を使うときに取らなければならない手続き。ぶっちゃけクッソめんどくさい。
 それでいて、絶対に予約優先というワケでもない。IFの活動で使うって何日も先から言っていても、ふらりと気まぐれで来た部員が優先される。

「三井サン、アンタ星ヶ丘が定例会と仲良くないの知ってるっしょ? ちょっとでも妙な動き見せたら監査サマから定例会と向島のトップ……つってもどっちも圭斗サンか。即通報行くからね。それでも良ければ手続きは取るけどドタキャンとか遅刻とか延長とか出来ないからね。事前申請以外のことも出来ないし」
「ええー……めんどくさー」
「でしょ? これからも緑ヶ丘の世話になろうよ。緑ヶ丘の人らに感謝っしょ、こんだけ使わせてもらってんだから」
「そうだねー、さすが星ヶ丘、めんどくさい」

 最後のが少し引っかかったけど、とりあえず三井をウチの敷地に踏み入れさせないことには成功したっぽい。しょうがないよね、大袈裟に言ったんじゃなくて全部本当に必要な申請なんだもん。

「つばめ、今の申請のってガチか」
「ガチだよ。でも今のは一般部員の話で、アタシ流刑地の人間だからもっと厳しい」
「マジかよ、星ヶ丘修羅だな」


end.


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星ヶ丘はそんなところがやたら厳格化された修羅の国らしいのですが、多分日高の朝霞P対策みたいなところも多少あるんでないかと思うの。前々から厳しかっただろうけど。
多分三井サンは好奇心から星ヶ丘に行ってみたいって言ってるんだろうけど、それを阻む規約があったという……いろいろめんどくさいんだなあ
そしてつばちゃん、高崎と顔を合わせてたのね。その件は来年度以降にやってみたいかもしれない。淡々と語ってる高崎を受信

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