2016(02)

■ミライコネクト

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「あっ、マリンまた読んでる。ラジオの時は、何だっけ」
「えーっと、一言一句読み上げる台本は作らない、っと。キーッ、難しすぎるですよ!」
「少しずつでいいよ。ラジオの場合、下向いて台本を読んでるとどうしてもピッチが上がって来るしマイクに声入らないから」
「ムーッ、次ですよ次! 次を教えやがれくださいですよ!」

 今現在、夏合宿5班の班打ち合わせの真っ最中。ここで何が行われているのかと言うと、野坂の簡易版初心者講習会だ。野坂とペアを組むのは星ヶ丘のマリンという1年生だ。
 マリンはインターフェイスの活動に出るつもりはなかったそうで、初心者講習会に参加していなかった。だけど現在に至っているので、ラジオの基礎を少しでも教えておこうという試み。

「ネタ帳はあくまでネタ帳な。着地点だけはしっかり決めておく必要があるけど、生放送の場合は途中で何がどうなるかわからないからトークのネタは単語とか、一文レベルにまで落としておくこと。そうしたらどこでも飛べるから」
「なるほどです」
「トークは生ものなんだ。一言一句決め切った内容よりも喋ってる中でより良いトークになるかもしれないし」

 しかし、講師・野坂というのもなかなか板についているね。普段ペアを組んでいるのが菜月さんだからか、彼女の教えや放送観というのが既にしっかりと受け継がれているという印象。野坂本人のマメさも講師向きなのだろう。
 星ヶ丘大学はステージメインの大学で、ラジオに関する活動はほとんど行っていない。それこそインターフェイスの活動に参加するときくらいだろう。そんな事情で、一から始めているのだ。
 そして、僕の相方ミキサーに決まったこちらも1年生のアオが、一見ちゃんとした自分のキューシートを前に頭を抱えている。脇には“模範例”とする野坂のそれがある。理想とするのは、1秒単位で刻まれた番組進行計画。

「うーん……」
「あっ。アオ、圭斗先輩相手に1秒単位は無理だって言っただろ、せめて5秒から10秒くらいで頑張ってみよう」
「圭斗先輩のトークタイムが枠のプラスマイナス5秒以内で収まらなくても番組の進行を完璧にするには――」
「残念ながら圭斗先輩相手の場合は俺でも無理だ。それこそトークは生ものというのを地で行かれる方だから。圭斗先輩にそれを期待するくらいなら巻いた分の時間をどうやって取り戻すかを考えた方がいい。まあ、合宿ならインフォメーションが入って来るしそれでプラマイ0にはなりそうだけど」

 ボロクソな言いようだけど事実なので反論しない。と言うか出来ない。何だかんだウチの2年生ミキサーは有能なのだ。アナウンサーとしての僕が普段からどれだけの迷惑をミキサーにかけているのか考えればこれくらいは言われて当然だ。

「トークが巻き気味になるならBGMも3分半くらいで大丈夫ですかね」
「いや、それは長めの方がいい。最低4分は欲しいところかな」

 しかし、野坂はここまでしっかりするようになっていたのか。普段がどこか頼りない印象だったけど、班長としてはとてもよく頑張っているように思う。おかげで僕がいち3年生でいられているし。
 本来ならマリンに対しては僕もある程度アナウンサーとしてのあれこれを教えるべきだろう。ただ、恥ずかしながら僕はいい加減なことしか言えない。だからここはこのまま野坂に講師を務めてもらった方がいい。

「野坂、僕はどうしたらいい?」
「あーっと、圭斗先輩にも合宿での番組に関してはミキサーとしてお願いがありまして――」

 この様子を見ていると、来年のMMPはきっと安泰だよ。いい育て方をしているね、菜月さん。


end.


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そうだね! 何故か圭斗さんでなくノサカがマリンにアナウンサーとしてのあれこれを教えている謎回だね!!!
そしてノサカのしっかりきっかりしたキューシートをお手本にしたい蒼希もなかなか苦戦している模様。仕方ないね、圭斗さん相手じゃ無理なんだそんなの
ノサカマリンに関してはもうちょっとやりたいことが出来たので間に合えば今年度、間に合わなければ来年度頑張ろう

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