2016(02)

■Damage and Kiss

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「いやー、暑いねえ」
「とか何とか言いながら人の部屋に転がり込むからには、何かないの?」
「はいどうぞお麻里様、アセロラローズヒップティーでございます」
「ありがと」

 春夏のダイは、仕事が落ち着いているから割とふらふらしている。秋冬は通信端末の仕事の他にやってる司会業やDJ業がメインになってくるから、それはそれでふらふらしている。
 ふらふらしながらアタシの部屋によく転がり込んで来ているから、アタシとダイのことを知っている人からはヒモだなんだとよく言われる。ただ、本当にヒモだったらとっくに切ってるよね。
 仕事(端末販売の方)から帰ってきて、さっそく駅地下で買ったお茶を淹れる。そのグラスをアタシに手渡すと、ダイはまた慌ただしく鞄を開け閉めして忙しそうにしている。なんだかんだゆっくりとはしない人だから、別に珍しくも何とも。

「麻里、この後ちょっと出かけてくる」
「わかった。鍵閉めとくね」
「開けといてよーそこは。日付変わる前には絶対帰ってくるし」
「晩ご飯は?」
「食べてくる」

 バサバサと資料を広げているから、何かの打ち合わせかな。だけど、番組もらったとか司会の仕事もらったとかだったら嬉しそうにマリちゃんマリちゃんてニヤニヤしてつっついてほしそうにするから、仕事ではないな。

「あ、誰かから聞いてる?」
「なにが」
「夏合宿の講師やらせてもらうことになったんだー」
「へー、そうなんだ」
「――ってもうちょっと何かない?」
「ない。順当っちゃ順当だし、ヒマそうだから声はかかりそうじゃん」
「お麻里様、例によって手厳しいですね」
「あ、強いて言えば三井が調子乗ってるから、シメるトコでシメて欲しい」

 ダイが夏合宿の講師になったことは聞いてなかったけど、三井が初心者講習会だけにとどまらず、合宿でも調子に乗りまくっているという話は圭斗さんから聞いた。プロがどうのこうのと他校の1年生を泣かせてるとか。
 三井がやたら意識高い系を目指してるのは、昔の空気を引きずってるんだと思う。アタシらの1コ上の代までの。当時は本当にプロを目指す人もいたし、その中から本当にプロになった人もいる。(本人はセミプロって言ってるけど)ダイ然りで。
 だけど明らかに今と昔じゃ何を目的にしてるサークルなのかは違う。プロになる手段にしてもそう。ラジオのプロを養成するためのサークルとかインターフェイスではないんだから、それを余所様に強要するのはお門違い。

「大体三井の何が嫌って、前はスルーだったのにダイが仕事でDJとか司会やるようになってからすり寄るようになってんじゃん。コネ狙いもいいとこだよね」
「俺はミッツの考え方が間違ってるとは思わないし嫌いでもないんだけどね。コネも使い方さえ間違わなければ立派な力だし。ただ、今の時代と俺には合わないなーとは思うよね」
「アンタ昔から浮いてたもんね」
「あいたたた、あいたたたたお麻里様イタイイタイ」
「は?」
「うっ。まあでも、ちょっと浮いてたおかげで今こうやって講師なんかをやらせてもらえるんだろうから、がんばります」

 ダイはちょっと浮いてると言うか、時代を先取りしすぎたのかもしれないとアタシは思っている。ダイはプロがー、技術がーってうるさかった時代でも「ガチガチ厳しすぎるより、仲良く、楽しくやりましょうよ」っていうスタンスだったから。
 そのおかげで学年の中でもケンカは絶えなかったみたいだけど、ダイがずっとその考えを崩さずにいてくれたからこそマーさんとアタシがそれまでの空気をぶち壊すことが出来たと思っている。楽しくたって、縛らなくたって技術は伸びるのだと。

「ほらマリちゃん、がんばってのちゅーは? ほっぺたでいいから」
「は? 夜鍵閉めとくから」
「あー、ごめんごめん、謝るから鍵は開けといてお麻里様~!」


end.


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合鍵持ってそうだと思ったんですが、麻里さんの部屋で好き勝手しすぎて没収されてもいそうだなと思ったダイさんである。
ダイさんとお麻里様の話は何気に初めて。ナノスパ比でいちゃこらしてる方のお話です。まあ、カップルがまずいねえもんなあナノスパって
どうやら“あの頃”のMMPを大きく動かした村井サンと麻里さんですが、2人の中には当時から揺るがない先輩がいた模様。

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