2016(02)

■疼く腕は止められない(はず)

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 うーみーはーひろいーな、大きーいなー。
 何を間違えたのか、彼女様が好きなアニメのイベントがあるというのでやってきました海水浴場。海の家には作品とのコラボメニューなんかがあったりして、うん、理由はどうあれよくやったイベント。

「カーズー、荷物置いてきたよー」

 イベントを満喫した慧梨夏は、目的は果たしたから普通に遊ぼうと気合十分。俺の手を引いて浜辺に駆けていく。ポニーテールが揺れて、パレオがたなびく。これこれ、これですよ。ビキニ最高。
 俺の水着はどうでもいいんだよ。高ピーとかちーちゃんとかなら絵になるだろうけど、俺は焼けたくないワケでもないのにパーカー羽織ってましたよね。だけど女の子の、つか慧梨夏の水着は素晴らしすぎて生きてたことを感謝するレベルだ。

「たまちゃーん!」
「あっ、アヤちゃーん!」

 知り合いか友達か、こちらに手を振って近付いてくる女の子。慧梨夏が反応している名前には触れたらダメなヤツだきっと。まあ、ここに来た目的がそれだから、同士の1人や2人いたっておかしくないけどなあ。
 しかしすっげー美人だなあ。目鼻立ちがはっきりしてて、腰ほどまである綺麗な黒髪。体も美しすぎる。出るとこ出て引っ込むところ引っ込んで、それでいて痩せすぎでない完璧さ。
 男も女の子もみんなガン見してて、完全にビーチは彼女の物になっている。彼女はそんな視線を浴びていることを知っていて笑顔を絶やさない女優のような。でも同類さんなんだよな?

「アヤちゃん今日どうしたの!?」
「星港学院大学のイベントあるって聞いて来てみたけど、外れたから一人で遊んでる。たまちゃんは? ――って彼氏さんと一緒とか! てか彼氏さんイケメン! これは惚気るのもわかる」
「あ、えーと慧梨夏、察したけど彼女は」
「あっゴメンカズ。オンでお世話になってる玉置アヤちゃん。アヤちゃん本業はレイヤーさんだけど、たまにイベントで売り子さんやってくれててー」
「たまちゃんにはお世話になってますー」

 何でお前は“たまちゃん”なんだってこそっと聞いたら、ハンドルネームが雨宮珠希だからだよと返ってきた。ちなみにアヤさんとはコミフェにも一緒に出陣するとかで、道中のこともお願いしておいた。

「ああ、星学にも先輩さんいなかったんだ」
「あの台本は違った。向島って大学多すぎだよー星ナントカ大学何校あるのー」
「慧梨夏、どうしたのアヤさん」
「アヤちゃんは、高校の頃付き合ってた先輩さんに創作者として心酔しててねー。向島の星ナントカ大学にいるっていう情報だけを頼りに先輩さんを探してるんだって」
「そんなに想われてんのかその先輩さん」
「なんでもその先輩さん、演劇の台本やら小説やら、漫才やステージ台本までとにかくすっごい物を書く人で、今も絶対何か書いてるはずだからって。ああ、アヤちゃんも今演劇部でー」
「それで、星ナントカ大学の関わるイベントを全部回ってる、みたいなこと?」

 先輩の消息を誰かに聞けばいいのにと思ってしまう俺は無粋なのだろうか。アヤさんが言うには、人からの情報を入れてしまうとそれは運命ではなくなってしまうから、どうしても自分の五感と第六感だけで先輩さんに出会いたいのだと言う。
 でも、星ナントカ大学って向島には本当に腐るほどあるし、そもそもその先輩さんが本当に今も何か物を書いているとも限らない。何より、彼女がすごいのは先輩さんを追いかけて星ナントカ大学の最高峰である国立星港大学に入学したことだ。

「でも、先輩さんがいるって舞台とかイベントって見たらわかるの?」
「わかります。こう、本に先輩の血流を感じるんです! 魂にガツンと訴えかけてくるんです!」
「そ、そう。見つかるといいね。星ナントカっていうと、最近だと星ヶ丘の丸の池ステージとか?」
「えっ、そんなのあったんですか!? うそー盲点だった…!」

 俺はそういう演劇の台本とか小説とかっていうのはよくわからないけれど、わかる人にはわかるんだろう。それに、周りのいろんな人を見て書く人は書き続ける物なのだとアヤさんは信じているのかもしれない。

「あっ、たまちゃんデート中だよね、邪魔してゴメン! 私そろそろ帰ろっかな。じゃあまた今度ー」
「また今度ねー」


end.


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慧梨夏がいち氏と外に出ているとかいう奇跡回。この時期は忙しそうなのに……はっ、もしや今後の放置へのもにゃもにゃもにゃ
片桐さんに続いて慧梨夏のオン友・アヤちゃんが登場。すっげー美人らしい。もちろんアヤちゃんはHNなので本名はまた別にある。でもどこか奇人変人の香りが……
今回のいち氏はむっつりっちーのはずが、慧梨夏の水着ににこにこしてたのは話の序盤だけだったなあ。いや、話にかかってないところでにこにこしてるんだろうなあ!w

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