2016(02)

■キコキコキロ

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「やァー、ヒマすわァー。なンで自分がこんな日に突っ込まれてるンすかねェー」
「文句なら春山さんに言え」

 本格的な夏季休業に入ると、情報センターは閑散期に入る。センターの開放時間もやや短くなり、利用者もそれまでと比べるとグッと減る。スタッフの負担もそれに比例する。
 8月のシフト表を見てみると、心なしか土田がA番に入る日が多いように見える。春山さんと川北が盆休みで実家に帰ることもやや影響しているのだろう。陸続きの川北はともかく、海を越える春山さんの帰省はある程度長い目で見なければならん。
 厳密には、現在アクティブなスタッフメンバーで向島エリアに実家があるのはオレだけだ。土田は北隣の山浪エリアの山間部から出てきて一人暮らしをしている。しかし、決して通えない距離ではないのだ。
 それどころか、隙あらば実家に転がり込んで堕落を極めていると言うではないか。この夏のシフトにしてもいつもの調子で「自分帰省するンで」などと言っていたが、シフト表を見る限り春山さんは土田の帰省申請を無視したらしい。

「ヒマすわァー」
「書類仕事もシステム管理も片付けてあるのなら、利用者を待つのも仕事の内だ。利用者が来るまで読書でもしていればいい」
「読書ねェー、なんか面白い本ありャすか林原サン」
「生憎、俺は活字よりもコミックの方をよく読む。小説やなんかの活字を望むならオレよりも春山さんに聞いた方がいい。建造物や風景などの写真集などであれば川北だな」
「林原サンてマンガ読むンすね」
「それがどうかしたか」
「ヤ、何か意外だと思ッて」

 土田にはどんな堅物だと思われているのかはわからんが、オレも人並みにはマンガを読みゲームもする。いや、ゲームはそこそこやりこんでいる。ここは職場故に端末を持ち込まんだけであって。

「まァーぶっちゃけ本のコトだったらリツに聞くのが早いンすわァー、ジャンル問わないンでアイツ」
「双子の弟か」
「ソーっす。でも、今すぐ手元に欲しいンすよねェー、図書館とか本屋に行くのもめんどいジャないスか」
「それならば、Officeの本でも読んでいればよかろう。そこにHTMLやSQLの参考書もある」
「そーゆーのは結構ス」

 土田の口からは事あれば弟の名前が出てくる気がするが、今回の場合は暇潰しをよこせ、さもなくば帰らせろという訴えだろう。閑散期に入ったとは言え集中講義やテスト期間の残り火がある以上、二人体制を崩すわけにはいかん。
 大股を開いて逆向きに座った土田は、椅子の背もたれに両の腕をかけてヒマだヒマだと椅子をキコキコ軋ませる。駄々っ子か。春山さんが休みだと思ったら次はお前か。もう相手にしとれん。ネサフでも何でも勝手にしろ。

「人も来ないスしー、ヒマすわァー」
「それがどうした」
「何かすることないスかねェー」
「ロッカーの整理でもしたらどうだ。それでなくてもお前は着替えを大量に詰め込むんだ」
「あー、そりゃイーすね! そーとなったら掃除しやショ。あっ、置きファブ買ってきたいス。生協ってやってヤすかネ」
「知らん。営業中なのではないか」
「行ってきていースか。センターの公共衛生の向上って体ス。これも大事な仕事スよ、林原サンがやれって言ったンすしー」

 今の時刻を確認して、人の流れを予測。残り火があるとは言え閑散期だ。まあ、多少の外出なら問題なかろう。

「生協に行くのは構わんが、15分以内で戻って来い。あと、ミルクティーを買って来てくれ。金は後で渡す」
「雑用じャないスか!」
「これも立派な仕事だ。そういう体で外出すればよかろう、実際は暇潰しなのだから」


end.


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土田双子の誕生日なので急遽冴さんのお話を……お相手がまさかのリン様! つっても冴さんの話って人が限られるからなあ
テスト期間が過ぎればヒマーってな具合に椅子をキコキコ鳴らしていても大丈夫なくらいにヒマな時間帯が出来るようで、暇潰しの手段があるといいんだろうね!
冴さんが帰省帰省ーってわーわー言ってたのを無視してる春山さんの様子が目に浮かぶ……そういうところは一応ちゃんとしてるのね春山さん

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