2016(02)

■これが私の生きる道

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「よし、あと100メートル」

 炎天下の中、前の方に見えるのは白衣を着た集団。何か実験をしているようだ。実験と言っても化学実験ではなく、何やら肉体に装置を付けた被験者が歩いているように見える。
 恐らくデータを採取しているのであろう機材群は申し訳程度に保護されているが、その他がじりじりと太陽に焼かれている。これもまた実験の条件なのだろうか。
 見てるだけで倒れそうだよと、水鈴は冷たい物でも買いに行こうよと誘ってくる。元々用事があったのは図書館で、十分涼しい場所ではある。ただ、先に冷たい物を飲むのも悪くない。

「あっ、雄平だ」
「これは雄平のゼミの研究か」

 こう言っては怒られるかもしれないが、本人曰く“脳筋”の雄平は意外にもゴリゴリの理系で、偏差値だけで言えば俺と水鈴よりも遥かに上だ。
 今やっている研究は筋肉と神経に関係する義肢または補助装置について。高校の頃、部活動で大きな怪我をして選手生命どころか日常生活にも支障が出るようになった友人がいたそうだ。
 雄平本人もウエイトトレーニングは好きでよくやっているが、筋肉の付け方以外の人体の仕組みにより強い興味関心を持つようになったのはそれがきっかけだと聞いた。

「雄平はすごいなー」
「そうだな」
「何か、世のため人のため! 的な? はー、かっこいい。ホントかっこいい」

 そう言う水鈴の言い方が、いつもの感じとは違っていたのが少し気になった。いつもならこのまま雄平に飛び付きに行きそうな雰囲気だが、今は落ち着いていると言うか。

「そりゃ、比べてもしょうがないけど、卒論も書かずにさっさと今の事務所に就職決めちゃってさ。大学生としてはどーなのよって」
「水鈴が決めた水鈴の生き方なのだから、人と比べてもしょうがないだろう」
「裕貴に聞いたアタシがバカでした」
「比べてもしょうがないと先に言ったのは水鈴だろ。それに、文系のゼミであれば卒論が必須でないところもある。必須でないなら書かないのも選択肢だろう」
「でも裕貴は書いてるんでしょ?」
「まあな」
「ほらー」

 水鈴は部活を引退してからも個人で公募されていたステージMCなどの仕事をしていた。地道に芸能活動を続け、少し前に正式に所属事務所が決まったところだ。
 本人はイベントやステージのMCの仕事を主にやりたいそうだ。今はもらえる仕事は積極的にこなしている状態で、テレビのリポーターなどにも対応出来るようになれと言われているとか。

「テレビの方が顔と名前を売れるんじゃないか?」
「8K放送とかになるとメイクだけじゃごまかしきれないし。とかいう冗談は措いといて、単にアタシがライブの方が好きなだけだよ」
「そうか」
「雄平みたく世のため人のためっていう仕事には見えないかもしれないけど、人を楽しませるってすっごい難しい、だけどやりがいがある仕事なんだよ裕貴」
「その生き方を見つけたのは大学での活動がきっかけなのだがら、ある意味健全で真っ当な大学生活だと俺は思うぞ」
「ありがと」

 冷たいものを買いに行こうと進路を自販機の方に取ろうとすると、こちらの存在に気付いたのか雄平がひらひらと手を振っている。
 俺はそれにひらひらと手を振り返しつつ、水鈴にもそれを伝える。水鈴は先程までの真面目な顔が一転、一瞬で笑顔になり、ひらひらと雄平に手を振った。

「すごい顔の変わり方だな」
「アタシくらいになればこれくらい朝飯前。さあ裕貴、冷たい物飲んで図書館行こっ」
「ああ、そうだな」
「は~……でも反則だよね裕貴、雄平のタンクオン白衣、そんでもって腕まくり。体格の良さが外科っぽさを感じてきゃー抱いてーって感じ!」
「確かに、滅多に見られないし遭遇出来てよかったな」


end.


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こっしーさん理系説を採用して、このような感じになりました。星ヶ丘の4年生トリオが好きです。押せ押せの水鈴さんに引き気味のこっしーさん、そして部活外では抜けてる萩さんのトリオ。
水鈴さんは就活を早めに切り上げて今の事務所に落ち着きました。駆け出しとは言えお金をもらってイベントで司会などをしているプロの人です。現役大学生というのもある種の箔かもしれない。
萩さんのこっしーさんと水鈴さんに対する見方じゃないけど、立ち位置みたいなものが結構好き。3年生以下(特に宇部P)に対するキッチリカッチリした感でないのが。でも久々にバリバリの萩さんもやりたい。

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