2016(02)

■地固める雨降らせ

公式学年+1年</b>

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 オープンキャンパスもテスト期間も過ぎれば夏休み……だけど、夏休みでもゼミの活動は容赦なく入ってくる。夏を制する者はゼミを制す、そんな感じだろうか。
 佐藤ゼミの2年生は、班の課題として音声作品を作ることになっている。発表するのは秋だけど、先生が「早いうちからちゃんと素材集めときなさいよ、秋は主に編集の期間だからね~」と言っていた。
 その言葉を忠実に守り、集まれるメンバーは集まってフィールドワーク。ICレコーダーを手にインタビューに次ぐインタビュー。急いでいるからとフられることも数知れず。

「あっつー、死ぬし!」
「これくらいで死ぬか! さっさと日陰から出てこい安曇野!」
「アタシはアンタみたいな波乗り野郎とは違うし!」

 サングラスに黒のつば広帽。腕には紫外線カット加工がされた長い手袋。安曇野さんの日焼け対策は万全。だけど、暑いものは暑いらしく、なかなか日陰から出てこようとはしない。
 さっきから鵠さんが安曇野さんをどうにか日陰から出そうとしているけど、効果ゼロ。腕を取って無理矢理引きずり出す作戦に出たようだけど、抵抗は激しい。

「放せしこの筋肉バカ! 変質者っつって叫ぶし!」
「ジャージと黒尽くめだったらど~う見たって黒尽くめの方が怪しいじゃん!?」

 鵠さんと安曇野さんがわあわあと戦っている様子を眺めつつ、俺と佐竹さんはどうしたらよいやら困っていた。2人がこの調子で、インタビューを始められるのはいつになるやら。

「……と言うか、鵠さんも安曇野さんもこの暑いのによくやるよね」
「ホントだよね。雲一つないのに。その元気を分けてほしいよ」
「でも由香里さんだって焼けたらコスに響くっしょ!?」
「まあね。対策はしてるよ」

 ――と言う佐竹さんは、白い長袖パーカーに帽子。首にも一応薄手のストールを巻いている。全体的に白っぽい服装で、季節の割に布面積は大きいけど、見た目にはさわやかだ。

「黒いか白いかでこうも怪しさが変わるか」
「あーもう暑い! 太陽隠れるまで表に出ない!」
「雲ひとつねーんだからいい加減諦めろ安曇野」

 相変わらず鵠さんと安曇野さんの戦いは続いている。って言うか体育会系で力もある鵠さんが引っ張るのにも耐えれるって安曇野さんもすごい踏ん張りだなあ。
 埒が開かないなと思い始めたころ、佐竹さんが俺に一つ提案をしてきた。安曇野さんは鵠さんに任せて、2人でインタビューに行かないかと。俺はそれに迷うことなく頷いた。

「唯香さん、アタシ高木クンとインタビュー行ってくるからレコーダー貸して」
「はい」
「高木クンが動けば、雲ひとつない青空でもひょっとするかもしれないしね」
「えっ」
「もしかしちゃったら、2人で雨宿りがてらいちゃいちゃしてればいいと思うんだ。アタシは傘持ってるし」

 佐竹さんが賭けたのは、俺の雨男パワー。そしてその表現の悪さにそれまで戦っていた2人も急に大人しくなって、スイマセンデシタと一段落。結局4人で動き出すことに。
 その脅しに2人が屈しなくても、安曇野さんには元々インタビューより編集で頑張ってもらうつもりだったとは佐竹さん談。さすが、班長は先を見ながらいろいろなことを考えているらしい。

「って言うか、唯香さんのナリで普通の人が足を止めるかって言ったら、ねえ。今日だって通気性を無視したエナメルのパンツだし」
「それを言ったら鵠さんも結構怖いね」
「でしょ? だから、一見普通のアタシたちがインタビュー頑張らなきゃとは思ってたんだよね」

 これはさすがにちょっとヒドいと思ったけど、本人たちを見てもうんうんと頷いて、納得しているらしい。どうやら自分たちが厳ついという自覚はあるようだ。
 いつの間にか、インタビューを頑張る一見普通の人に選ばれた俺が、人見知りをどうやって克服していくのかというところが鍵になっていた。さあ頑張れと厳つい人たちからの後押しを得て。

「人に声かけるの、辛いなあ」
「そんなときこそ雨神様の本領発揮だし!」
「無理だよ」


end.


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きっとあずみんは想像以上に厳ついんだろうな。前髪も赤いしさ。鵠さんの厳つさは顔ね。一見普通のTKGか。
と言うか、雨が降ったら降ったでインタビューは中断することになるので、本当に由香里さんの賭けだったと思われる。タカちゃんは諸刃の剣か……
ここまできたらタカちゃんの降られっぷりを大々的にやりたいなあとも思ったりなど。そして実はこの話、2年前からストックの肥やしになってたのをようやく公開。

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