2016(02)

■マルチタスクと窓枠

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「うーん、うー、むぎぎぎぎーっ!」
「あら浦和さん、どうしたの。そんなに頭を掻き毟って」
「あっ」

 思わず、ネタ帳をファイルの下に隠してしまった。インターフェイスの夏合宿に出ることにしたのは宇部さんにも言ってあるのに。悪いことをしてるワケじゃないんだから隠す必要はなかったよね。

「何を隠したの」
「うう……」
「言えないようなことかしら」
「……夏合宿でやる番組のネタ帳です」
「そう言えば、合宿に出るのよね。どう? 調子は。とは言ってもステージとは勝手が違うから、大変でしょう。ラジオのことは誰も教えたことがなかったわよね」
「ラジオのことに関しては班長から教えてもらってて。でも、やっぱり勝手が違って難しいです」

 夏合宿に出ようと思ったのは、そうすればつばめ先輩と話すきっかけになるかなと思ったから。つばめ先輩はすっごくカッコいい。ズバズバと物を言うところもそうだし、ディレクターとしても素敵。
 合宿に出ると宇部さんに言ったら、怒られるか、最悪班を追い出されるかもしれないっていう覚悟はしていた。インターフェイスのイベントに幹部の班から出るなんて、そうそうないことみたいだし。
 私は宇部さんみたいなプロデューサーになりたくて、今は宇部さんの後ろにくっついてプロデューサー見習いみたいなことをしている。部活での立場とか役職とか、そういうのはどうでもいいけど、部活の空気とか雰囲気とかもあるし。
 だけど宇部さんは「出たいなら出たらいいんじゃないかしら」と背中を押してくれた。知見を広げることは今後のステージにもきっと役に立つでしょう、と。役に立たせることが出来るかは、今後の私次第。

「教えてもらっているのね。それなら良かったわ」
「それで番組のトークを考えてるんですけど、これがもーう難しくて!」
「あなたはアナウンサーで出ているのね」
「はい。Pならアナウンサーで出ることが多いって聞いたので」

 星ヶ丘からインターフェイスの活動に出る場合、アナウンサーやプロデューサーならアナウンサー、ミキサーやディレクターならミキサーで出ることが多いって聞いた。ただ、それは絶対ではないとも。

「そう。相手のミキサーはどこの誰と組むことになったの?」
「向島の野坂先輩です。班長の」
「向島のミキサーならある程度はやってくれそうね。でも浦和さん、思うように番組が出来なくても「コロスですー!」とかいつものノリで言わないのよ」
「言いませんよ、朝霞とか日高と違って嫌いじゃないですし! ラジオのことも教えてもらってますけどまあまあわかりやすいですし。マリンっていうちょっとかわいいDJネームもつけてもらいました」

 かわいい名前を付けてもらえてよかったわね、と宇部さんは微笑みかけてくれる。ステージには厳しいけど、宇部さん本人はとても優しい人だと思う。そういうところがとても大好き。

「インターフェイスの活動も手を抜いたらいけないけど、その前には私たちのステージがあるのを忘れちゃダメよ」
「もちろん忘れてないですよ! それはそれ、これはこれでちゃんと分けてます!」

 ラジオのネタ帳とは別にある、ちょっと汚れてくたくたになってきたステージ用の見習いノートを掲げる。それはそれ、これはこれとしてちゃんと区別してどっちもちゃんとやる。やるからにはちゃんとやりたい。

「浦和さんがどんなトークをするのか聞いてみたいわ。少しだけやってみてくれる?」
「えっ」
「ここでやるのが恥ずかしいようなら部室に行きましょうか。それとも機材をセットして本格的に」
「ムリですムリムリムリーッ! まだ出来ません!」
「冗談よ」
「なんでそんなイジワルするですかー! もー!」


end.


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マリンもおそらく思いついたときに作業をしないとキーッてなるタイプだと思われるのですが、丸の池直前である。
宇部Pは他の幹部さんとは少しインターフェイスに対する感情も違うらしい。外の世界に出てみるというのと同時に、外から星ヶ丘を見るとどう見えるのか。それもちょいちょい気になる。
そして何気に宇部Pはマリンを結構可愛がってますね。最後はちょっとイジワルなんかもして。宇部Pなりの茶目っ気だったのかしら。

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