2016(02)

■飛んで火にいる

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「朝霞サン来たよー」
「遅くなりました」
「よし、全員揃ったな。機材使用の手続きはしてあるし、通し練行くぞ」
「は~い」

 星ヶ丘大学放送部は夏の一大イベント、丸の池ステージに向けて日々準備を進めている。それは鎌ヶ谷班も例外ではなく。ただ、ステージの前には春学期のテストがある。
 部活はあくまで課外活動であって、学生の本分っちゃ本分と言えるテストにも本腰を入れなければいけないのは至極当然のこと。ただ、この部に伝統的に受け継がれる罠にかかる部員もちらほら。

「こんなとき、朝霞班の人数の少なさって有利ですよねヒビさん。全員揃いやすいっすし」
「ううん、頭数の問題ではないね」
「そーすか?」
「頭数が少ないと、1人コケたらそれこそ致命的だよね」
「あー、それもそっすね」

 4人揃って練習に行ってしまった朝霞班を眺めつつ、まだ全員揃わない鎌ヶ谷班は各々の作業をやることになっている。ゲンゴローは元気そうで何よりだけど、自分の班も心配だ。

「トラさん、例によってすか」
「シゲトラは毎年だからね」

 ウチの班は班長のトラさんがまだ来ていないのだ。何を隠そう、放送部に受け継がれる罠にかかっているのは他でもなくこのトラさんのこと。
 テスト期間とステージの準備期間がカブっていると、学業そっちのけで部活の方に専念してしまう部員が毎年何割か出てしまうそうだ。その結果、単位がアレなことになったり進級や卒業が危なくなったり。

「今年に限っては、部長もだからあまり白い目では見られないとは思うけど」
「まあ、部長はぶっちゃけいてもいなくても」
「白河、聞こえるとめんどいよ」
「ついうっかりっす」
「あと、日高は部活に入れ込んでるというより単に単位落としてるだけだから」
「ええー…? でも、冗談抜きで朝霞さんにトラさんを助けてもらえるようにお願いしたいくらいっすよ。同じ学部でしたよね確か」
「確かにシゲトラを助けて欲しいし俺が助けられるなら助けたいけど、今の朝霞には話しかけたくないなあ。ステージの邪魔をしたと見なされて殺されるかもしれない」
「そうっすよねー」

 大体の班ではプロデューサーが班長として班を仕切っているのだけど、ウチの班は少し違う。プロデューサーのヒビさんではなくミキサーのトラさんが班を仕切っている。
 ミキサーが1人いないくらいなら俺とベルもいるから大した問題じゃない。何が問題って、班長の3年生がテストをたくさん残してるという事実。

「逆に、朝霞さんてどうしてステージにああなのにきっちりやれてんすかねー。洋平さんは器用だし、何でも上手くやりそうっすけど」
「シゲトラ曰く、越谷さんに「文系なら1・2年のうちにちゃんとやっとけば3年で余裕を持てる」って言われてて、3年前期の授業も出席かレポートの授業ばっかり取ってるんだって。ステージ前にテストなんかやってられるかって言って」
「そこまで徹底してると逆に引くっす」
「まあ、朝霞だし」
「トラさんに越谷さんの教えを説いてくれる先輩はいなかったんすかねー」
「ウチの場合水鈴さんだね」
「ああー……期待した俺が間違ってたっす」

 俺がいろいろなことにドン引きしていると、ヒビさんはパン、と両の手を打つ。ベルが来たら、シゲトラは措いといて今いるメンバーで出来ることをやろうと。
 何て言うか、びっくりした。何がって、ヒビさんがこんな風に班員の前で仕切るって言うか、何をしようっていう方向性をはっきりと示しているということに。

「シゲトラには後で俺がみっちりと補講しとくし」
「ヒビさんが補講って言うと怖いっす」
「マロ、今日ドン引きしすぎじゃない? 大丈夫?」


end.


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テスト期間になるといろいろなことに迫られる星ヶ丘放送部であった。決して成績が良くはない朝霞Pですら文武両道と言われるレベルの部活である。
そしてこっしーさんの教えに関しては去年とかもちょいちょい言われていたのですが、他班にも知られてたのね。って言うか1・2年のうちに取るだけ取っとけは割と普通よね
さて、鎌ヶ谷班は班長が不在ですが、こんなときはさすがに大人しいかまひびが頑張ってくれるんだろうね!

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