2016(02)

■実在フレンズ

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 ここがサークル棟ではないとすれば、実に珍しい顔を見たなと思う。確かに、文系の人とはあまり会わないのだけど、それを抜きにしたところで事務所でなく“食堂”で彼女の顔を見るというのは非常に珍しい出来事だ。
 冷静になって考えれば向島大学でもテストが近付いていて、授業出席率を後輩に窘められる彼女も大学に来る必要性に駆られているということだ。それでなくても夏風邪の影響で間が抜けている。授業への出席は出席数とテスト情報確保のためだろう。

「菜月さん、相席をいいかい?」
「圭斗じゃないか。どうしたんだ」
「ご覧の通り。席が見つからないんだよ」
「そうは言っても、友達が来るぞ」
「ナ、ナンダッテー!?」
「うちにも友達はいるからな」
「失礼。でも、菜月さんは学内では単独で行動する印象が強いからね」
「あっ、来た来た」

 菜月さんが迎え入れたのは、金髪のショートカットをした女の子。結構ふくよかな体格だ。ふくよかと一言で言っても、ボトムスから覗くふくらはぎを見れば、スポーツをする人だろうと窺える。
 僕との相席について菜月さんが彼女と交渉してくれる。すんなり交渉が成立すれば、改めて目の前の4人席へ腰掛けた。僕はざるそば、菜月さんは塩ラーメンという“いつもの”メニュー。

「うちと同じゼミの羽広真希。で、こっちがうちのサークルの同期の松岡圭斗」
「菜月さんがお世話になってます」

 真希ちゃんのトレーは大盛りのサラダにテリマヨ丼、それにひじきの小鉢と漬け物。デザートの果物というボリュームに溢れたランチが彩る。と言うか夏にこれだけ食べられるとは……まあ、見た目のイメージには違わないけれども。

「菜月さんにまさかランチを共にする友達がいるとは思わなくて驚いているよ」
「そもそも菜月は学校に来ないし一匹狼って言うかマイペースすぎるから」
「ぐっ」
「菜月さん、図星かい? でも、今更だね」

 菜月さんが図星を突かれて噎せているのをよそに、僕と真希ちゃんの間で会話は続いた。菜月さんは行動が自由すぎて学内での動きを追うのを諦めたこと、ゼミでは麻里さんに可愛がられていることなんかを。
 確かに、よくよく思い起こせば菜月さんは麻里さんと同じゼミだった。真希ちゃんは麻里さんから化粧品を勧めてもらったこともあるそうだ。文系の人が学内でどんな過ごし方をしているのかは結構謎だったけど、案外普通なようだ。

「菜月さん、塩ラーメンはうまーだったかい?」
「実にうまーでした」

 ラーメンを食べ終えて菜月さんが話す口を開いた頃、真希ちゃんはまだ丼の半分を残していた。確かにサラダが凄い量ではあったから、妥当と言えば妥当ではある。菜月さん曰く真希ちゃんは食べるのが少し遅いらしい。

「真希は最初にサラダを大盛りにして食べるから、サラダが終わる頃には丼が冷めないのかなっていつも不思議に思ってる」
「熱すぎず、ぬるすぎず」
「――だ、そうだよ。でも、こうして見るとバランスは悪くなさそうだね。野菜も食べてるしね、菜月さんと違って」
「ウルサイ、黙れ。お前なんて食べなさすぎで倒れるんだ」
「割と洒落にならないことを言ってくれるね。向舞祭の練習ですでに死にそうだよ」
「圭斗さん向舞祭出るの?」
「いや、僕はMCとして」
「え、真希は向舞祭に踊る方で出るのか?」
「出る出る。この後も練習入ってるから食べないともたないもたない」

 そう言えば、僕の周りでも量を食べる奴は元気だったなあといくつかの顔が思い起こされる。
 しかし、真希ちゃんは菜月さんの友達にしてはアクティブ過ぎないか、向舞祭にも踊る方で参加するだなんてアウトドア過ぎる。友達のタイプというのもわからないものだね。

「うーん、やっぱり夏を乗り越えるには量を食べるのか……僕には苦行だな」
「食べれない動けない不健康な痩せよりも、食べて動ける健康的なデブでありたい。まきを」
「うっ」
「圭斗、真希の名言らしき物が刺さったか」


end.


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今夏向島が変わるシリーズその1。菜月さんの友人・真希ちゃんの登場。前々からその存在は匂わせていたけれど、満を持して登場。
菜月さんには数が少ないなりに信頼できる友達が何人かいるのですが、菜月さんが自由すぎるため友達の方も菜月さんと行動を共にすることは期待していません。会えればラッキーくらいの。
男子でもちもちしてるのは神崎とかがいるのですが、女子でふくよか体系だと言及されているのは真希ちゃんが初めてかしら。慧梨夏はむちむちだけども。

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