2016(02)

■おわれるリアル

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「テストが終わったら夏本番、真っ盛りだね高ピー!」
「お前夏合宿にも出て定例会で向舞祭にも出るんだろ。定例会は既に何人か死んだって聞いたけど、お前は元気だな」
「俺なんてカオルとちーちゃんに比べたら全然! 大体PAは日陰にいられる時間もMCより長いしね」

 同じミキサーのはずが、Lはすっかり向舞祭のハードさを引き摺っている。その茹だった視線が伊東は化け物だと無言で伝える中、奴は謙遜を続ける。
 伊東は夏男の印象が強い。いや、それまでがぐだぐだ過ぎた。鼻風邪の冬、花粉症の春先。そしてベランダとバイクでの自由を奪われた梅雨。それを乗り越えた伊東は強い。

「今から夏休みは何をしようかって楽しみで。あっ、オリンピックも見なきゃだし忙しいなー」
「活気があって結構なこった」
「高ピーは夏休みどーすんの? あっ、やっぱバイト?」
「夏は酒代と光熱費がかさむからな」
「えっ、でも高ピーってクーラーあんま入れてなくなかったっけ」
「それは日中の話な。夜はガッツリクーラー入れて布団をかぶって寝る。それが幸せなのは常識だろ」
「冬で言うおこたにアイスみたいなことね」

 夏の伊東はインターフェイスの活動にも参加することになっているし、それ以外のプライベートなところでも充実した休みにするつもりなのだろう。
 宮ちゃんこそ夏に戦争があるが、その前後でなければ隙を見てデートをすることも出来るだろう。リアルが充実とはまさにこのことか。

「高ピーはどっか遊びに行ったりしないの?」
「特に予定はねえな」
「えっ、じゃあどっか行こうよバイクでー、涼しいとことか良くない? 高原とか滝とか」
「悪かねえな」
「じゃあいつにする?」
「――って早速日程決めるのかよ」
「早く決めとかないと夏合宿の打ち合わせとか他にも予定入ってきちゃうから」
「ホント、忙しい奴だな。……あー、でも、この週だけは勘弁してくれ」

 思い出したのは、盆頃の週。確かこの辺りには外せない、外したくない用事がある。それこそ、伊東よりも先に入っていた約束というヤツだ。

「わかった、お盆の週は回避ねー。えっ実家? それともバイト?」
「万里が帰って来るっつってんだ」
「えっ、こっしー帰ってくんの!?」
「つっても何か向こうで予定パツパツらしいしすぐ帰るっつってたけどな」
「へー、じゃあ高ピーこっしーによろしく言っといてー」

 大学進学を機に向島を出た高校の同級生から、盆頃に帰るという連絡が入っていた。そうそう進んで会いたい奴もいねえが、この知らせには純粋に「日程はお前に任せる」と返信できた。
 今のところ、それが夏休みに入っている唯一の予定だ。まあ、これから伊東にいくつか捻じ込まれるのだろうが。その他には課題のための図書館籠りとバイト、あと学祭関係の打ち合わせか。

「……おい、思い出したぞ伊東。お前、大祭実行とも打ち合わせあんだぞ」
「あー、忘れてた! ……向舞祭終わってからじゃダメ?」
「あんま大祭実行に貸し作りたくねえけど、よっぽど無理ならしゃあねえ。掛け合うだけ掛け合うけど期待すんなよ」

 大祭実行との契約で、MBCCは大学祭のステージを手伝うことになっている。俺と伊東は夏休みだろうと関係なくその打ち合わせをしなくてはならない。
 ただ、大祭実行のお偉いさんを脅すならテスト期間というタイミングはベストだ。それは、組織を脅すと言うより個人をピンポイントで狙うと言う方が正しい。

「ったく。忙しいのも結構なことで」
「ホントゴメン、学祭のことすっかり忘れてた!」
「えっと、明日のノートはーっと。あ、ねえ。そういや貸してたな。伊東、今すぐ宮ちゃん呼び出せ」


end.


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ナノスパの私大組がテスト期間に入りました。ということで今回は緑ヶ丘。ただ、今日の2人はコマ数も少ないので割と余裕だと思われます。
夏休みにも大学関係でいろいろ予定が入って来るんだろうけど、高崎からすれば稼ぎ時なのでわーってバイトにも入るんだろうなあ。
いち氏は夏男。と言うかそれまでがグダグダ過ぎたのでようやく解放されてひゃっほーってな具合。アクティブになるぞ!

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