2016(02)

■陽だまりの芽

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 じりじりと太陽が照り付けて、すっかり夏になったと思う。買い物からの帰り道、しっかりと膨らんだエコバッグが手に食い込んで、あと少しの道のりも長く感じさせる。
 出来るだけ影のあるところを選んで歩く。麦わら帽子はかぶっているけど、それでも直に日差しに当たりながらだと一気に疲れちゃう。梅雨は明けてるけど、その分気温もグッと上がってるから。
 やっと家に近付いて来たなと感じるのは、公園に差し掛かったとき。あたしの家は住宅街にあって、その中には申し訳程度の公園がある。あたしも小さい頃はよく遊んだ。
 あと少し、頑張るぞ。そんな風に気合を入れ直して一歩を踏み出そうとすると、公園の中に違和感を覚える。最近じゃそんなに小さな子供もいない公園に、黒い固まり。
 しばらくその場で様子を見ていると、その黒い固まりは黒い服を着た人だとわかる。うずくまっているようにも見えるし、何をしているのかもさっぱり。あっ、でももしかしてゲームかな。
 正直に言えば少し怖い。だけど、もしも具合が悪くて倒れてるんだとしたら。この暑さだし、人が通るような時間帯でもないし、もしもがあったら。うん、ガンバレ沙都子。

「あ、あの……大丈夫、ですか? 具合が悪いなら救急車、呼びましょうか…?」
「うー……」

 よかった、生きてはいるみたい。だけど、熱中症になってる可能性があるかもしれない。年代は中学生か高校生くらいかなあ。

「もしもし、わかりますか?」
「大丈夫、生きてるから……」
「救急車呼びます?」
「……いい。少し休めば、大丈夫だから」

 そうは言っても、その人は顔色がとても悪いし、そのままほっとくことも出来ないし。どうしよう。このまま置いて行って、後で倒れてても怖いし。
 日光が直に当たる地べたから木陰のベンチに移動して、少し休んでもらうことにした。本人が少し休めば大丈夫だと言うその言葉を信じて。

「それ、もらえる?」
「ええと、どれですか?」
「お茶、入ってるでしょ。元気になったらお金返すし」
「いえいえっ、そんな。お金の事なら気にしないでくださいお茶1本ですしっ」
「ごめん、ありがと」

 そう言ってその人はお茶のペットボトルの封を切ろうとする。だけど、なかなか蓋が開いたような音が聞こえてこない。

「……ごめん、開けてくれる?」
「大丈夫ですか? はい、どうぞ。でも、やっぱり病院に行った方が」
「そもそもが病み上がりなんだよね。退院したてで。今日は調子いいし行けるかなーと思ったらこうだよ」
「大変でしたね。でも、今は何をしてたんですか?」
「植物の観察」

 そう言ってその人が見せてくれたノートには、いろいろな角度から見た植物の絵が描かれていた。とても繊細で、綺麗な絵。ああやってうずくまるような体勢でいたのは、きっと近いところで観察していたのかも。

「生死の淵を彷徨って、水がおいしいとか歩けるとかそういうことが嬉しくって。そしたら、何となく植物に興味が湧いてさ」
「植物って、いいですよね。瑞々しいし、生き生きとしてるって言うか。この絵もそういうところが捉えられてて、いいなって」
「だけど、それも運じゃないかな」
「運?」
「どんなに綺麗な花でも、そこに至るまでに踏まれたり、食べられたり。ちゃんと花を咲かすことの出来る花ばかりじゃないでしょ」
「そう、ですね」
「ごめんね、見ず知らずの子にこんなこと言って。お茶ありがと。お金か実物返したいし、この辺に来ればまた会える?」

 パッと見変わった人だし、これ以上この人と関わっちゃいけないのかもしれない。だけど、何となく気になって。

「あの、お茶のことだったら気にしないでください」
「それはそれで俺の気が済まないんだよね」
「体はもう大丈夫そうですか?」
「もう少し休めば大丈夫じゃないかな。あ、もう遅いかもしれないけど、買い物、ダメにする前に帰った方がいいよ」

 確かに、結構な時間そこで話し込んでしまった。具合の悪そうな人を放っておけなくって。冷凍食品なんかは買ってないから大丈夫だけど、生ものはそろそろアブナイかも。

「それじゃあ、私はこれで」
「うん。またいつかがあるといいね」


end.


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さとちゃんが謎の黒い人と出会ったようです。これを書いたころはまだでしたが、これを上げるころには公園に人がわんさかいてもおかしくないんですね……
さとちゃんは怪しい人には声をかけられない(近付けない)タイプだろうけど、困ってる人や苦しんでる人は助けたいタイプだろうなあ。
そして黒い人もとい長野っち。こんな暑い日に黒い服を着て出かけちゃいかん。この出会いはこれからどうなるのやら。

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