2016(02)

■まずはお前から沈めてやろうか

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「は~ああ。中学や高校はすっかり夏休みに浮かれてますよ。は~ああ、やだやだハレンチー」

 こーたがこんな感じにやさぐれているときにはパターンがある。これは弟絡みだろう。ちなみに、こーたには高2の弟と小6の妹がいる。
 こーたの弟には中3の彼女がいて、両家の公認状態だ。彼女の家の別荘にこーたを除く神崎家でお呼ばれするなど家族ぐるみの付き合いに発展している。ざまあこーた。

「先日、弟の彼女がうちに遊びに来てたんですよ。で、終業式の後にあるじゃないですか、1学期の間に表彰された人を改めて晒す式が」
「表現はともかく、確かにあるな。賞状渡したりするんだろ」
「それですよ! そこで? 弟の彼女が? 賞状をもらったと浮かれていたんです? はあああああ!? はあああああ!?」
「やァー、いい僻みっぷりスわァー」
「何も私の家でやることではないですよね! 自分の家で家族に見せればいいんじゃないですか!? はあああああ!?」

 菜月先輩と律から同時に黙れと物理的に訴えを食らったところでようやくこーたは口を閉じる。ただ、弟の彼女が自分の家でデレデレと賞状を見せて褒めて褒めてっていちゃついてたらウザい。
 それでなくても、全校生徒の前で功績を讃えるあの行事自体が謎だ。そういうのに縁がなかったからかもしれないけど、早く教室に帰りたいとしか思ったことがなかった。

「でも、そう言われたらあったな、校長から賞状もらって謎に全校生徒に向かって賞状見せて立ってる晒しイベント」
「表現はともかく、緑風エリアでもあるんですね」
「うちの高校はあまりパッとしない学校だったし、たまに個人でいいとこまで行く人がいたくらいだから表彰式の時間は短かったな」
「あー……そういやウチの高校でもたまに個人で賞状もらってた人が」

 そんなこともあったなと式典の様子を思い起こしていく。そうそう、壇上で校長から症状をもらって。誰が何の競技でどんな結果を出したとかって言われて。そうそうあったあった。
 個人でやってる空手の形で何かいいトコまで行ったとか、あったあった。テニス部に1人だけいつも表彰されてる人がいた。あったあった。あとは水泳部にもそんな人が……そうそう、って…!

「ナ、ナンダッテー!?」
「どうしたんですか野坂さん」
「ノサカ、急に叫ぶな!」
「いてっ! 申し訳ありません、例の晒しイベントを思い出していたら衝撃の事実が発覚したところでついうっかり驚きが声に出てしまいました」

 ローキックを頂いた足をさすりつつ、改めて脳内で衝撃の事実を再確認する。うん、間違いないはずだ。

「で、衝撃の事実って何なんだ」
「そう言えば水泳部に表彰常連の人がいたなあと思い返していたら、恐らく大石先輩だったんですよ」
「大石ってあの大石か。へえ、同じ高校だったのか」
「まあ、その程度の認識であったことから高校での絡みはお察しですが」
「そう言えば大石は今でもプールに通ってるって言ってたな」
「表彰常連だったくらいですから、水泳で緑ヶ丘に行けそうな物ですが。しかし部活で結果を出しつつ星大に現役で合格するとは……文武両道とはまさしくこのことか…!」

 どこかのほほんとしてるイメージの強い大石先輩だけど、実は結構凄い人だったんじゃないかという疑惑が沸々と湧いて来るぜ!

「ですが青浪南だったら星大にだってまあまあ行くんじゃないですか? まあ、どこかの誰かさんみたく保険をかけまくって向島ーとかいう人もいるでしょうけど?」
「こーたお前誰の事を言ってる」
「さーあ、誰の事でしょうね~? 別に野坂さんだなんて言ってませんしぃー」
「弟と彼女がいちゃついてる声が襖の向こうから漏れて来るのにイライラして爆発しろウザドル」
「妙にリアルなのはやめなさい!」


end.


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久々に神崎の妬み僻みをやれてとても楽しかったのだけど、本題はちーちゃんの存在にびっくりしてナンダッテーってなってるノサカ。
のほほんとしてるとか言っときながら、文武両道で実は結構すごい人なんじゃないかと明らかになった瞬間手のひらがくるっくるになるノサカは安定よ
多分神崎は自分の家の中とか襖1枚で仕切られてるだけの壁の向こうでいちゃいちゃされてるのにムカついてるだけで、外でやってればまだマシだったんだろうなあ

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