2016(02)

■catch the new wave!

++++

 サークル室の鍵を開けて、やってきたその人を通す。活動日ではなく閑散とした部屋に足を踏み入れ、ぐるりと見渡して変わらないねえとその人はいつものようにミキサー席に陣取った。
 僕たちが1年生の頃の4年生で、現在は通信端末の販売員をしながら結婚式の司会やイベントMC、そして冬にはスキー場のDJとして活躍中の水沢祐大さん、通称ダイさんだ。

「本当にいつも急ですよねダイさん」
「ゴメンね、マーから聞いてなかった?」
「村井おじちゃん今テスト期間前の追い込み時期でさっ」
「4年生にも関わらず追い込まなければならないとは、さすが村井サン」

 マイクスタンドを立てて、ダイさんは本格的にやる気のようだ。トークとミキサーを同時に行う、所謂“マルチ”と呼ばれるセットが出来上がっている。

「ねえ圭斗、何か同録ってある?」
「同録ですか……僕たちの作品出展は今作っている最中ですし。何かあったかな」
「作品出展?」
「そう言えばダイさんが現役の時には作品出展をやってませんでしたね」

 作品出展というのは向島インターフェイス放送委員会に属する7大学が月ごとに持ち回りで作品を出し合って、モニターをするという企画だ。
 僕たち向島や緑ヶ丘ならラジオ番組が主だし、青女さんが出して来たのは植物園ステージの様子を撮影した映像。青敬のような映像系大学になると本格的なドラマだったりする。

「へえ、今ってそんなことやってんだね。いーじゃん面白そうじゃん」
「そう言えば、先月の緑ヶ丘の物がありますね。よければどうぞ」
「ありがとね」

 ダイさんが作品出展に食いついたということもあって、先月もらっていた緑ヶ丘のそれを手渡す。べっ、別に僕たちのぐだぐだっぷりを知られずに済んだだなんて思ってないんだからねッ!
 緑ヶ丘の作品には村井サンも興味があるのか、「俺も聞こーっと」とスピーカー前の席に陣取った。ジャコンとデッキにディスクが飲み込まれ、再生が始まる。
 まずは僕たちもコメントに困った高崎と伊東の番組。これにはさすがのダイさんと村井サンも少しコメントに困ったようで、3年生の安定っぷりを見たねと落ち着いた。

「三井はいちゃもんを付けてましたけど、それと言って文句はないですよね」
「次のは?」
「次の番組は果林と1年生の高木君という子の番組です」
「この時期にもう1年を出してくんのか。高崎も思い切ったことすんなー」
「ちなみにこの高木君は夏合宿で菜月さんとペアを組むことが決定しています」

 3年生の番組が終われば、次は1・2年生の番組が始まる。コメントに困るくらいポイントのなかった3年生番組の後だからか、この番組のインパクトが強調されるのだ。

「あーなるほど、こう来るか。開始1分でもう面白いね」
「圭斗、これ伊東の指図とか入ってんのか」
「この番組に3年生は一切手出ししていないそうです」
「へぇー、面白い1年が出て来たなあ。こりゃウチの2年もうかうかしてらんねーぞ」
「2年生に関しては村井サンが指導してくれれば何の問題もありませんよ」
「圭斗お前、いないおじちゃんに頼ってどうすんのよ」

 ダイさんはミキサーに挿していたヘッドホンを手に取り、より詳しく音の流れを読み込もうとしている。どうやら、インターフェイスではイレギュラーな構成をした番組が気になるらしい。

「いやあ、今のインターフェイスも面白いね! 圭斗、よくやってるじゃん!」
「ありがとうございます」
「お前が何をしてるっつーんだ」
「お言葉ですが村井サン、僕も三井の暴走の後始末をしたりなど、議長として忙しくしてるんですよ」
「いや、それは議長の仕事じゃなくてMMPの仕事だろ?」
「それは言わない約束じゃないですか」
「圭斗、今のインターフェイスの話とかもうちょっと聞かせてよ」
「ええ、ダイさんの気が済むまで」


end.


++++

去年くらいにやった話でダイさんが緑ヶ丘の作品出展MDを聞いていたという件があったなあと思ったらこんなことになった。大先輩がいらっしゃるとさすがの圭村も若干大人しめか。
きっと“あの頃”のダイさんも、プロ志向でバリバリやってた当時からいろんな見方の出来る人だったのではないかと思ってみる。下の子との繋がりが深いしね。
そして圭斗さんの議長としてのお仕事(?)である……うん、村井おじちゃんの言うように議長としてではなくMMP代表会計の仕事だけどIFの平和も守ってるから問題なし

.
20/100ページ