2016(02)
■さよならうさこちゃん
++++
「おはよー。あれっ、高ピー来てないんだ」
「いっちー先輩おはよーございまーす。高ピー先輩だったら3限終わりに8号館で寝てるのは見ましたけど、その後は見てないですよねー」
「ありゃ、寝てたかー。自然起床に期待したいなあ」
高ピーと言えば、三度の飯より寝るのが好きっていうタイプの人だ。寝具に対するこだわりは強く、ベッドを聖域と呼んで決して他人を上がらせたりはしない。そもそも高ピーは部屋にもあまり人を上げない。
そんな高ピーが学内で寝床にしているのが8号館のロビーに設置されたソファ。そこではよく体育会系の人が寝てるし、学内屈指の昼寝スポットとして賑わって? うん、静かだけど賑わっていて、高ピーの指定席はL字ソファだ。
「でも金曜にロビーって珍しいね」
「ですよねー。木曜日のイメージが強いですし」
「睡眠のリズムでも狂ったかな」
「えっ、やめてくださいよそんなの絶対高ピー先輩不機嫌じゃないですか!」
果林が不機嫌な高ピーに怯えていると、のそりと人影がやってくる。高ピーかと思ったけど、違った。サークル室にやってきたのはL。高ピーだったらさすがにもうちょっとシャキッと歩くよなー。
「おざーす。あれっ、高崎先輩まだなんすね」
「あっL、昨日高ピーの部屋に変わった様子あった?」
「昨日すか? あー、高崎先輩の他に人がいたような雰囲気はあったっす。あと、早朝すね。バイクの音で目覚めて、外見たら女の人と2ケツで坂下ってくの見ました。あっ、部屋の話は暗黙の了解なんでオフレコでお願いします」
Lからの話で思わず果林と目が合う。明らかにおかしい。と言うか高ピーらしくない。まず、部屋に人を入れるということからしてそう。そして、早朝から高ピーが動いてるということが天変地異の前触れとしか言いようがなくて。
「うん、これクロだ! 今聞いたことは俺も果林も喋んない! だって俺たちも命が惜しい!」
「えっ、いっちー先輩アタシもお口ミッフィーですか?」
「果林、高ピーの“プライベートでの”なっちさん関連のことに触れて無事でいられる自信ある?」
「あーあーあー絶対無理! 死ぬヤツですよねー! 喋んない喋んない!」
サークル室に走る激震。震源地は俺と果林。だって怖すぎる。高ピーにとってなっちさん関連のことは言うなれば誰にも触れさせない聖域なんだ。それこそ、ベッドよりも。
何かもう今日は高ピーにずっと寝ててもらった方が平和なんじゃないかっていう気さえする。助けろ圭斗! 向島ではどーなってんだ今現在!
俺と果林の様子を見てLもある程度察したのか、昨日から今朝にかけてのことは触れない決心をしたようだ。同じアパートに住んでるとこういうときの反応に少し困るということもあるんだな。ひとつ賢くなったぜ!
「うん、高ピーが来ても平常心ね果林」
「はい」
「……何やってんの?」
「うわあああっ! ……何だヨシ、ビビらせんなって」
「ユノ先輩おはよーございまーす」
いつの間にか現れていたヨシに、どうしてそんな怪しいことになってんだと事情を聞かれれば雰囲気に飲まれて答えざるを得ず。ヨシが最後の1人と誓って口を割る。さよならミッフィー。
「なるほどね。確かに昨日高崎と会ったけど、菜月とご飯行くって言ってた」
「新証言出たよ、しかもかなり核心に迫るヤツ」
「あと昼放後にも話したよ。昨日はどうだったって聞いた」
「ユノ先輩高ピー先輩の口割りすぎですよねー!」
「ヨシはそーゆーのめちゃ上手いんだって。それでなくたって高ピーとヨシはスモーカー仲間で仲いいしさ」
「結論から言うと何もないし高崎と菜月の関係は何も変わってない。ただ、高崎は腕枕をして寝ていた。これは確定情報。きっと自分もベッドで寝つつ、菜月を受け止めたんだろうね」
ナ、ナンダッテーとどこかで聞いたような声が果林から上がると、俺もパクパクと口が開いて塞がらない。いや、スるシないはともかく腕枕する距離感なのにどうして関係が何も変わってねーんだよ! ちょっ高ピーどーゆーコト!?
「いや、ホントおかしいだろ……」
「距離感なんて人それぞれだしね。恋愛関係になくたってスキンシップをすることもあるし。俺とイクなんか典型的でしょ」
「うん、まあ、ヨシが言うと謎の説得力がある」
「それじゃあ、今からみんなお口はミッフィー。いいね」
「はーい」
end.
++++
いつの間にかユノ先輩が主導権を持ってってるヤツ。しょうがないよね、ユノ先輩そーゆーのめちゃ上手いそうだから。
先の話の緑ヶ丘サイド。向島よりコトが大きくなっているような気がするのもそれを受ける人たちの経験値か、はたまた当事者が高崎だからか……
すごくアンタッチャブルな扱いになっているので何かもう緑ヶ丘ではここでこの話はなかったことになるんだろうね! はーこわいこわい
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「おはよー。あれっ、高ピー来てないんだ」
「いっちー先輩おはよーございまーす。高ピー先輩だったら3限終わりに8号館で寝てるのは見ましたけど、その後は見てないですよねー」
「ありゃ、寝てたかー。自然起床に期待したいなあ」
高ピーと言えば、三度の飯より寝るのが好きっていうタイプの人だ。寝具に対するこだわりは強く、ベッドを聖域と呼んで決して他人を上がらせたりはしない。そもそも高ピーは部屋にもあまり人を上げない。
そんな高ピーが学内で寝床にしているのが8号館のロビーに設置されたソファ。そこではよく体育会系の人が寝てるし、学内屈指の昼寝スポットとして賑わって? うん、静かだけど賑わっていて、高ピーの指定席はL字ソファだ。
「でも金曜にロビーって珍しいね」
「ですよねー。木曜日のイメージが強いですし」
「睡眠のリズムでも狂ったかな」
「えっ、やめてくださいよそんなの絶対高ピー先輩不機嫌じゃないですか!」
果林が不機嫌な高ピーに怯えていると、のそりと人影がやってくる。高ピーかと思ったけど、違った。サークル室にやってきたのはL。高ピーだったらさすがにもうちょっとシャキッと歩くよなー。
「おざーす。あれっ、高崎先輩まだなんすね」
「あっL、昨日高ピーの部屋に変わった様子あった?」
「昨日すか? あー、高崎先輩の他に人がいたような雰囲気はあったっす。あと、早朝すね。バイクの音で目覚めて、外見たら女の人と2ケツで坂下ってくの見ました。あっ、部屋の話は暗黙の了解なんでオフレコでお願いします」
Lからの話で思わず果林と目が合う。明らかにおかしい。と言うか高ピーらしくない。まず、部屋に人を入れるということからしてそう。そして、早朝から高ピーが動いてるということが天変地異の前触れとしか言いようがなくて。
「うん、これクロだ! 今聞いたことは俺も果林も喋んない! だって俺たちも命が惜しい!」
「えっ、いっちー先輩アタシもお口ミッフィーですか?」
「果林、高ピーの“プライベートでの”なっちさん関連のことに触れて無事でいられる自信ある?」
「あーあーあー絶対無理! 死ぬヤツですよねー! 喋んない喋んない!」
サークル室に走る激震。震源地は俺と果林。だって怖すぎる。高ピーにとってなっちさん関連のことは言うなれば誰にも触れさせない聖域なんだ。それこそ、ベッドよりも。
何かもう今日は高ピーにずっと寝ててもらった方が平和なんじゃないかっていう気さえする。助けろ圭斗! 向島ではどーなってんだ今現在!
俺と果林の様子を見てLもある程度察したのか、昨日から今朝にかけてのことは触れない決心をしたようだ。同じアパートに住んでるとこういうときの反応に少し困るということもあるんだな。ひとつ賢くなったぜ!
「うん、高ピーが来ても平常心ね果林」
「はい」
「……何やってんの?」
「うわあああっ! ……何だヨシ、ビビらせんなって」
「ユノ先輩おはよーございまーす」
いつの間にか現れていたヨシに、どうしてそんな怪しいことになってんだと事情を聞かれれば雰囲気に飲まれて答えざるを得ず。ヨシが最後の1人と誓って口を割る。さよならミッフィー。
「なるほどね。確かに昨日高崎と会ったけど、菜月とご飯行くって言ってた」
「新証言出たよ、しかもかなり核心に迫るヤツ」
「あと昼放後にも話したよ。昨日はどうだったって聞いた」
「ユノ先輩高ピー先輩の口割りすぎですよねー!」
「ヨシはそーゆーのめちゃ上手いんだって。それでなくたって高ピーとヨシはスモーカー仲間で仲いいしさ」
「結論から言うと何もないし高崎と菜月の関係は何も変わってない。ただ、高崎は腕枕をして寝ていた。これは確定情報。きっと自分もベッドで寝つつ、菜月を受け止めたんだろうね」
ナ、ナンダッテーとどこかで聞いたような声が果林から上がると、俺もパクパクと口が開いて塞がらない。いや、スるシないはともかく腕枕する距離感なのにどうして関係が何も変わってねーんだよ! ちょっ高ピーどーゆーコト!?
「いや、ホントおかしいだろ……」
「距離感なんて人それぞれだしね。恋愛関係になくたってスキンシップをすることもあるし。俺とイクなんか典型的でしょ」
「うん、まあ、ヨシが言うと謎の説得力がある」
「それじゃあ、今からみんなお口はミッフィー。いいね」
「はーい」
end.
++++
いつの間にかユノ先輩が主導権を持ってってるヤツ。しょうがないよね、ユノ先輩そーゆーのめちゃ上手いそうだから。
先の話の緑ヶ丘サイド。向島よりコトが大きくなっているような気がするのもそれを受ける人たちの経験値か、はたまた当事者が高崎だからか……
すごくアンタッチャブルな扱いになっているので何かもう緑ヶ丘ではここでこの話はなかったことになるんだろうね! はーこわいこわい
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