2016(02)
■Mallet of Luck
++++
「菜月ー、見て見てー」
菜月の前に置かれたのは、何やらご丁寧にラッピングされた青い包み。なるほど、これは春の終わりで住み慣れた場所に帰って来たというワケだね。
「またロクでもないネタなんじゃないだろうな」
「今回は菜月にも気に入ってもらえると思うよ!」
野坂の視線が人知れず鋭くなっている。サプライズプレゼントをめぐる2人のやり取りが……厳密には三井の下心を本能の方がより過敏に察知したのだろう。
三井が何の気なく菜月に贈り物をするのはMMPじゃよくある光景とは言え、野坂にとっては三井が何をやっても地雷か。
「ったく」
「いいから開けてよ」
お。と、菜月は今までのそれと比べればまだ悪くない反応を見せる。中から出て来たのはボディケア用品。水色のジェルらしき物と、何やらケースに、繊毛か何かを拡大して象ったようなスポンジめいた物。
「足の指を広げるのが健康にいいんだって。ほら、現代人って靴を履い過ごすことが多いでしょ?」
三井の演説をよそに、菜月はもらったそれの説明書きを黙々と読んでいる。時折、容器の蓋を開けて匂いを確かめると、ミントのような香りが隣にいる僕にも届く。
菜月の読み上げた説明書きによれば、ジェルはボディソープとしても使える物。ケースの中身は足を塩のスクラブで洗い上げる洗浄剤。そしてスポンジは物理的に足の指を開く物だそうだ。
「お前にしてはまあまあじゃないか。どうしたんだ」
「そうでしょ」
しかしまあ、相変わらず菜月の貢がれ属性と、三井の貢ぎ体質がいい具合にマッチしていると思うよ。2人のこれに関しては別に今に始まったことでもないしね。
「野坂。……おい、野坂」
「はっ」
「どうした、考え込んで」
「あっ、いやー……大したことではないんですが。しかし、三井先輩は他の女性にもこんな風に貢物をしているのかなと思うと凄い財力ですね」
「実際三井の財力なんてタカが知れてるけどね」
以前、三井は月のバイト代の半分を菜月に注ぎ込んだことがある。ポツリ、たまには焼き肉が食べたいと彼女が呟いたのだ。すると、舞い上がった三井が金は出すと言って焼肉へ。
90分だか120分だかの食べ放題コース、3つあるうち2番目に高いクラスのそれに飲み放題もつけて、掛けること2人分なら結構な金額が飛んだはずだ。極端なんだ。見栄なのか知らないけど。
「どれだけ課金しても手に入らないのがわからないんでしょうか」
「すでにそれが彼女を繋ぎとめる術になっている気がしないでもない。また菜月の集り方がエグいね」
「菜月先輩が逆恨みされなければいいんですが」
「菜月にアピールしてるのは、他に春をもたらす存在がないということの証明でもあるんだけどね」
ブーツとニーハイソックスを脱いで露わになった菜月の脚は、白い。そこへ、三井が健康法と称してふくらはぎのマッサージ法やなんかをレクチャーしている。
「菜月、足を机にかけるのはお行儀が良くないよ」
「この時間は脚がむくんで大変なんだ」
「それなら、多大な負荷がかかりそうなそのブーツをどうにかしたらいいんじゃないかな」
「それは譲れない」
三井の貢物も数を打てば当たったようだ。だけど、3年目の付き合いになる菜月でこの的中率の低さなんだから、他の女の子相手だともっと空気の読めないことをしでかしてくれてるんだろうね。
三井の恋愛事情に興味はないし、僕に関係のないところでなら好きにしてくれていて一向に構わない。ただ、インターフェイスでこれ以上のやらかしだけはしないでいてくれるとありがたいね。
end.
++++
夏でもブーツがデフォなのが菜月さんである。菜月さんも人並みに足がむくむのね。
三井サンの貢ぎ属性と菜月さんの貢がれ属性がうまくマッチしているからこそ笑い話だけども、本当に逆恨みされなければいいね
三井サンが菜月さんに貢物をしているのは、圭斗さんでいう「薬指がお留守になってる」と同義なのかもしれない。
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「菜月ー、見て見てー」
菜月の前に置かれたのは、何やらご丁寧にラッピングされた青い包み。なるほど、これは春の終わりで住み慣れた場所に帰って来たというワケだね。
「またロクでもないネタなんじゃないだろうな」
「今回は菜月にも気に入ってもらえると思うよ!」
野坂の視線が人知れず鋭くなっている。サプライズプレゼントをめぐる2人のやり取りが……厳密には三井の下心を本能の方がより過敏に察知したのだろう。
三井が何の気なく菜月に贈り物をするのはMMPじゃよくある光景とは言え、野坂にとっては三井が何をやっても地雷か。
「ったく」
「いいから開けてよ」
お。と、菜月は今までのそれと比べればまだ悪くない反応を見せる。中から出て来たのはボディケア用品。水色のジェルらしき物と、何やらケースに、繊毛か何かを拡大して象ったようなスポンジめいた物。
「足の指を広げるのが健康にいいんだって。ほら、現代人って靴を履い過ごすことが多いでしょ?」
三井の演説をよそに、菜月はもらったそれの説明書きを黙々と読んでいる。時折、容器の蓋を開けて匂いを確かめると、ミントのような香りが隣にいる僕にも届く。
菜月の読み上げた説明書きによれば、ジェルはボディソープとしても使える物。ケースの中身は足を塩のスクラブで洗い上げる洗浄剤。そしてスポンジは物理的に足の指を開く物だそうだ。
「お前にしてはまあまあじゃないか。どうしたんだ」
「そうでしょ」
しかしまあ、相変わらず菜月の貢がれ属性と、三井の貢ぎ体質がいい具合にマッチしていると思うよ。2人のこれに関しては別に今に始まったことでもないしね。
「野坂。……おい、野坂」
「はっ」
「どうした、考え込んで」
「あっ、いやー……大したことではないんですが。しかし、三井先輩は他の女性にもこんな風に貢物をしているのかなと思うと凄い財力ですね」
「実際三井の財力なんてタカが知れてるけどね」
以前、三井は月のバイト代の半分を菜月に注ぎ込んだことがある。ポツリ、たまには焼き肉が食べたいと彼女が呟いたのだ。すると、舞い上がった三井が金は出すと言って焼肉へ。
90分だか120分だかの食べ放題コース、3つあるうち2番目に高いクラスのそれに飲み放題もつけて、掛けること2人分なら結構な金額が飛んだはずだ。極端なんだ。見栄なのか知らないけど。
「どれだけ課金しても手に入らないのがわからないんでしょうか」
「すでにそれが彼女を繋ぎとめる術になっている気がしないでもない。また菜月の集り方がエグいね」
「菜月先輩が逆恨みされなければいいんですが」
「菜月にアピールしてるのは、他に春をもたらす存在がないということの証明でもあるんだけどね」
ブーツとニーハイソックスを脱いで露わになった菜月の脚は、白い。そこへ、三井が健康法と称してふくらはぎのマッサージ法やなんかをレクチャーしている。
「菜月、足を机にかけるのはお行儀が良くないよ」
「この時間は脚がむくんで大変なんだ」
「それなら、多大な負荷がかかりそうなそのブーツをどうにかしたらいいんじゃないかな」
「それは譲れない」
三井の貢物も数を打てば当たったようだ。だけど、3年目の付き合いになる菜月でこの的中率の低さなんだから、他の女の子相手だともっと空気の読めないことをしでかしてくれてるんだろうね。
三井の恋愛事情に興味はないし、僕に関係のないところでなら好きにしてくれていて一向に構わない。ただ、インターフェイスでこれ以上のやらかしだけはしないでいてくれるとありがたいね。
end.
++++
夏でもブーツがデフォなのが菜月さんである。菜月さんも人並みに足がむくむのね。
三井サンの貢ぎ属性と菜月さんの貢がれ属性がうまくマッチしているからこそ笑い話だけども、本当に逆恨みされなければいいね
三井サンが菜月さんに貢物をしているのは、圭斗さんでいう「薬指がお留守になってる」と同義なのかもしれない。
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