2016(02)

■闇の中から出ずる星

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 とある昼休み。授業で一緒になった果林先輩と食堂へと向かう道中。気付けば、学内の人もかなり減っているなと思う。一人、また一人と脱落していった結果がこうなのかと。ただ、7月だからそろそろ戻ってくるだろうねとは果林先輩。

「タカちゃん、何食べようか」
「俺は何でも」
「何でもは禁止」
「えっと……揚げ鶏丼は昨日食べたしな。あっ、食堂でミートソーススパゲティってありましたっけ」
「あるよ。バジーナだね」
「バジーナ?」
「第1食堂の2階にあるパスタとカレーのお店」
「2階は量り売りの印象が強かったです」

 食べたいものは決まったし、第1学食に向けて歩こうとしていたときのこと。果林先輩がビュッと駆け出す。そんなに急がなくてもこの時期なら座れそうだけど、そこまで人気の店なのか。
 果林先輩がビュッと掛けていったその後を、別の影がビュッと追っている、ように見える。俺は何が何だかわからずに、恐る恐る小走りで追う。ええ…? って言うか何だろう、怖いなあ。

「りんりーん」
「いやああああ」
「何で逃げるのー!」
「追ってくるからですよねー!」

 果林先輩が、黒くてチャラチャラした雰囲気の人に追われている。そう俺はこの状況を理解した。第1学食の前にはいくらか植え込みがあって、そこを縫うようにして繰り広げられる追いかけっこ。
 果林先輩は話によれば陸上短距離の元インハイ選手で、走るのがすごく速いはずだ。その果林先輩を追っているこの人もつまりは相当速いということなのだろう。うーん、異次元の戦いだ。

「あれっ、タカティ。何やってるの?」
「あ、岡崎先輩おはようございます。果林先輩とご飯を食べることになってるんですけど、何か変な人に追いかけられてるみたくて」

 果林先輩が逃げている方角を示せば、眼鏡越しでもわかる岡崎先輩の怪訝な目。果林先輩は相変わらず素早いフットワークで追っ手から逃れている。ただ、じりじりと迫られているようにも見える。

「タカティ、あれには関わらない方がいいよ」
「あっ、ユノ先輩助けてくださーい!」
「おっと。りんりんつーかまーえたっ! 勝利のちゅーっ」

 その黒い人は果林先輩を捕まえると、おもむろに頬に口付けた。やっぱり男の人だから、小柄な果林先輩がバタバタと暴れてもびくともしない。文字通りちゅーっとされた果林先輩は、うへーとうなだれながら思いっきり頬を擦っている。

「りーんりん、ごちそうさま」
「ナルミー先輩しばらく目の前に現れないで下さい」
「鳴海、通報すればいい?」
「ちょっ、よしのん酷いなあ!」

 前髪は短いけど襟足が長く、グレーかシルバーのメッシュを入れた髪。ブルーのカラーコンタクト。チョーカーにその他諸々黒基調で細身の服に身を包んだ、かなり派手なその人はどうやら果林先輩と岡崎先輩の知り合いらしい。

「あの、果林先輩この人は」
「ナルミー先輩って言って、MBCCの3年生の先輩」
「えっ、じゃあ岡崎先輩とは同期ってことですか」
「俺は同期とも思いたくないけど」
「よしのん俺への愛の裏返しだよね」
「黙れ2Pカラー」

 そう吐き捨てる岡崎先輩がいつになく怖い。いつもは穏やかな感じで優しい先輩だと思ってたけど。

「ナルミー先輩ってこんなだから3年生の先輩全員から邪険にされてるよね。他の人の「黙れ2Pカラー」は半分ノリだけどユノ先輩のはガチ」
「俺はみんなのことが大好きなのにね。もしかしてこの子MBCCの1年生? よろしくねー」
「タカティ、金輪際会わないから忘れていいよ」
「大丈夫会う会う! あっ、久々にサークル顔出そうか!?」
「永遠にサイバー空間から出てくるな」
「あっタカちゃんご飯食べる時間なくなっちゃう! ユノ先輩はご飯1階ですもんね。それじゃあお疲れでーす」
「お疲れ。俺もご飯食べないとな」
「よしのん一緒に食べ」
「寄るな」

 階段を上りながら思ったのは、3年生の先輩には高崎先輩と武藤先輩の確執の話があったけど、岡崎先輩と鳴海先輩のそれの方が酷いんじゃないかと。伊東先輩に聞けば何かわかるだろうか。

「タカちゃん、バジーナも最初に食券買うんだよ」
「そうなんですね。えーと、ミートソースは……」


end.


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果林がナルミーに追っかけられてちゅーっとされてうへーってなる件は何気にやりたかったヤツ。ナルミーは果林の天敵なのです。
そして思いがけず降ってわいたユノ先輩とのナルミーのあれこれ。何気にいろいろありそうだぞここは
何気にMBCCの3年生が全員揃ったことはないので、いつか全員揃うと楽しいんだろうなとは思うけど、なかなか難しそうなヤツ。

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