2016

■生み出すのは、ならではの味

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 先日、リンが大量にジャガイモの入った箱を抱えてゼミ室にやってきた。好きに持って行けと一言添えて。情報センターの先輩から譲り受けた物のようで、その日のうちにここで何個か蒸かして食べたけど、とても美味しかった。
 今日もリンはもらったジャガイモの消費に忙しくしている。リンの席にはポテトサラダの入ったタッパー。結構大きな容量の容器だけど、それいっぱいにサラダが入っている。

「美奈、少し摘まんか」
「その、ポテトサラダを…?」
「要らんのならいいが」
「食べさせてもらって、いい…?」

 リンのお母さんが作ってくれたポテトサラダ。カレーや肉じゃが、ハンバーグなどでよく聞くいわゆる「お袋の味」という物。正直に言えば、かなり気になっている。リンはこのサラダの何をどう好きなのかが。
 ポテトサラダと一言で言っても、作る人によって全く違うメニューになる。きっと、リンはこれからもジャガイモをもらうことがあると思う。私がこのサラダを食べることで盗める物は盗んで、ここでそれを再現することが出来たなら。

「あまり、しっかりは、潰してない…?」
「そうだな。多少は潰すがあまり潰しすぎず、芋の食感や塊を残してある」
「なるほど……」

 私のそれとは違う点を手帳に書き留めて、家で練習してみるための資料にする。芋の食感や、塊、を……残、す……っと。話を聞くと、林原家はカレーも具が大きめとのこと。これもいい情報。メモしなきゃ。
 マヨネーズの味は薄め。味のベースは塩コショウ。コショウ少し強め。具はタマネギ、キュウリ、千切りのハム。しっとりとしつつ、ほくほくとした雰囲気は残っている。だけど、それだけじゃない何かがありそう。隠し味か、何かが……。

「美奈、随分と研究熱心だな」
「興味深い……」
「そう言えばお前はオムライスにしてみてもいろいろな種類のオムライスを作れたな。ある程度出来るからと満足せんのはいいことだ」
「でも、味付けが少し、わからない……コショウが少し強めだけど、マスタードが使われてるわけでもなさそう……」
「そう言えば、味付けにはコンソメを使っていると聞いたな」
「……コンソメ…! なるほど……」

 私はポテトサラダにコンソメを使ったことはなかったから、これはとても新しい発見。コンソメをどのタイミングで、どれだけの量を、どのように入れているのかも気になるけど、そこまではリンも知らないそう。残念。
 あとは家に持ち帰って練習してみる。あらゆるケースを試してみなければ、最良の物は生まれない。いかにこれに近付けるか。そのためにはこのポテトサラダの味を舌に刻みつけなくては。

「……リン、ジャガイモ、もう少しもらっても大丈夫…?」
「ああ。好きなだけ持って行け」
「ありがとう」
「しかし、どうするんだ?」
「練習する……ポテトサラダにもいろいろあるって、勉強になったから……」
「ほう。出来た暁には試食するぞ」
「是非……」
「お前の現状のポテトサラダも美味いが、より美味くなるなら言うことはない。そうだ、ポテトサラダと蒸かし芋以外に芋を使った料理は何かないか。良ければ今日の晩飯として作ってくれんか」

 ポテトサラダでなければ、私の味で覚えてくれるだろうか。私と言えば、というメニューがひとつでも増えて、思い出した頃にあれが食べたいなと思ってもらえるような味を生み出せたら。そう思う。
 練習はするけど、下手にお母さんのポテトサラダを再現しようとするのはやめた。越えることは出来なくても、肩を並べるジャガイモメニューを生み出せたら。比較対照になく、どちらも美味しいというようなメニュー。研究に余念はない。

「何系がいい…?」
「系?」
「和とか、洋とか……」


end.


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ジャガイモの末路。リン様がポテサラ好きというのはたまーに言われることですが、今回はそれをフィーチャー。
春山さんから押し付けられたジャガイモだけど、美奈がいい感じに使ってくれているのでリン様的には助かっているのかもしれない。早く食べなきゃ悪くなるし。
美奈がリン様好みのポテサラに近づこうとしているのはそらアレよ

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