2016

■最も遠い太陽

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「ノサカ、夏至やよ」
「そうだな」
「ボクの誕生日でもあるよ」
「それがどうした。お前の誕生日は今度の日曜日につばめの誕生日と一緒に祝う会を開くじゃないか」
「ボク誕生日なんやけど」

 周りからは、カタカタとキーボードを叩く音が聞こえる。そう、何を隠そう今現在はまさに授業中。講義自体はもう終わって、今は課題をやる時間。これを片付ければ教室から出てもいいというシステムのヤツだ。
 学部固有の授業だけあって、ヒロも同じ講義を受けている。ただ、さっきからちょいちょい話しかけてくるのが何ともなあ。教室に響くキーボードを叩く音だけど、隣からは聞こえてこないんだよなあ。

「ボク、ノサカからしかもらえんプレゼントが欲しいんやけど」
「意味がわからない」

 俺は普段から普通に講義を受けているからヒロが邪魔をしてきたところでそれを受け流しつつ課題をこなすことは出来る。だけど、ヒロの手が動いていないのは明らかに日頃の行いだ。来ないんだから出来るはずもない。
 で、ヒロの言う「ノサカからしかもらえんプレゼント」とやら? そもそも俺に金品を要求したところで出せる財力がないのはヒロもよく知っているはずだ。物質的なモノではないプレゼントとやら。あー、わかってても助けたくない。

「夏至って太陽にちなむ日やん? つまり夏至の日に生まれたボクが太陽であって奉られる、崇められる存在であってもいいはずなんやよね」
「意味がわからない」
「ほら、ノサカ根暗でジメジメしとるしボクみたくカラッとしとる人に助けられたりもするやん? 気の持ちようって意味で。というワケで課題手伝って」

 その蛇足さえなければ、「はー、確かに俺はヒロに気持ちの上で助けられることだってあっただろうし、これからもそういう機会があるかもしれないなあ」という感じで納得してたかもしれないんだけどなあ。
 俺が根暗でジメジメしているのは事実だから反論の余地はない。それは認めよう。ヒロに言われると腹は立つけどしょうがない、事実だから。でもってヒロがカラッとしているのもまあ、半分くらいは。残りの半分はネチネチもしている。
 課題に対する往生際の悪さを見ていると、どこがどうカラッとしているのかと。後先考えずにサボるのと楽観的なのは違うじゃないかどう考えたって。……と、MMPでは先輩も含めるとあと3人ほどに言わなければならないのだけど。

「ノサカいつも昼放送は電車で寝過ごして終点で折り返したりするんにどーして授業はマトモに来れるん? 理解出来んのやけど」
「うっ…! それは考えたことがなかった…!」
「授業には来れるんに昼放送は来れんとか、サークルと菜月先輩を蔑ろにしとるとしか思えんわ。これやからノサカはアカンのやよ」
「そんなことあるワケないじゃないか! 俺が菜月先輩を蔑ろに? 冗談は顔だけにしろよ」
「ボクがこーゆー風に言ったら、多分ボクの味方になってくれると思うんやよね菜月先輩」

 それは否定できない。3・4年生の先輩は何故かヒロに甘いのだ。コイツがどんな悪党かを知る由もないんだろうけど、日頃の悪行を包み隠さず言ったところで俺がボコボコにされることは数知れず。
 自分がいかに先輩方から甘やかされているのかを知ってか知らずか、それを利用して俺を脅そうだなんてやっぱりヒロは根っからの悪党だぜ! ああ、課題は教えたくないし手伝いたくもない。でも先輩からの評価も落としたくない…!

「ノサカもっぺん言うよ。ボク今日誕生日やよ。あっ、火曜日やん。食堂行けば菜月先輩に会えるわ。昼放聴きに行こっかなー」
「くっ…! オ、オンエアの準備があるから、5分前までには終われよ」
「ありがとノサカ。最初からそーしとればよかったんやよ」
「うるせえ」

 脅しに屈する俺も俺、か。きょ、今日のところはこのくらいにしておいてやるぜ! もし何かあったら俺を助けろよ!


end.


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急遽書き上げたヒロ誕のお話。例によってノサカが残念なことになってるパターンのヤツ。
夏至を踊って祝うとかっていう話はやったように思うのだけど、太陽にちなむんやよ、という件ははじめてなような気がして。
ただ、何がどう間違ってもヒロを奉ったり崇めたりするようなノサカじゃあないんだよなあ……

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