2016

■夏季のジャガイモ流星群

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 ゴスッと背中に鈍い衝撃が。振り向けば、床にジャガイモが転がっている。握り拳ほどある芋だ。ただ、これは情報センターではよくある光景だ。オレに芋を投げつけた犯人はわかっている。

「春山さん、芋を投げるなと前のシーズンに言ったはずだが」
「いやー、ちょうどよかったんでつい」

 春山さんの関係者はきっとイカれた連中ばかりなのだろう。この芋は、春山さんの親族が送ってきた物だ。春山さんは芋の一大産地である北辰エリアの出で、シーズンになると芋が送られてくると言う。ただ、その量が尋常でない。
 最初の頃は春山さんにお裾分けしてもらっていた芋の量も常識の範囲内だった。ただ、学年が上がりそれがエスカレートしてくると、オレ1人に押しつけられる芋の量がとんでもないことになっていた。

「つっても、これは北辰モノじゃねーんだ」
「違うのか」
「ちょっと早いはずだ。これを送って来たおっさんがまた手広くやってる人でなー、いとこを派遣して南の方にも手を出し始めた」
「ほう」
「――というワケで、季節だョ、全員集合!」

 自習室にいた川北と非番だったはずの土田も召集され、粗方人員が揃ったところで芋の配給が始まる。そもそも、配給するための無数の芋をこの人は事前にここに運んでいたというワケで、常軌を逸している。

「何が始まるんですかー?」
「一人暮らしには嬉しい物だぞー」
「わー、なんだろうなー、怖いですねー」

 一人暮らしには嬉しい。個数が少なければその表現に間違いはないだろう。ただ、オレが押しつけられる量は3人家族にその知り合いを含めてもどうしたものかと頭を抱える量だ。常識で考えろと。

「川北は10個くらいから始めるか」
「わーっ、ジャガイモですかー? えっ、いいんですか春山さん!」
「ああ。親戚から大量に送られて来て、私も一人じゃ処理出来ないんだ」
「ひゃー、嬉しいなー、ありがとうございます!」
「どんどん食えよ川北」
「自分もいースか?」
「冴も持ってけ持ってけ!」
「自分は15個で。さーて、リツに何作らせるかなー。ポテトグラタンかなー、ジャーマンポテトかなァー」
「弟イジメはほどほどにしてやれな」
「やァー、イジメだなンて。リツがヤサシーだけスわァー、何言ッても聞いてくれヤすしィー」

 ……と、希望個数の自己申告が許されるのはここまでだ。ニタァと悪い笑みを浮かべるこの人が、オレを1・2年生と同じように扱うはずもない。そもそも、先に背中にぶつけられた芋もすでに押しつけられているのだ。

「さーて、天才サマ。何十個にする?」
「百歩譲って2だ」
「2? そんなまさか。ゼミ室に非常食は必要だろ。そうだ、ご家族の皆様にも食べてもらわないとなあ。そうかそうか、20+20で40か。それだけもらってくれるなんてリンは優しいなー、おまけにあと9個つけてやろう」
「ふざけるな」
「なあリン、別にお前が全部食えっつってるワケじゃァねーんだよ。配るのを手伝えっつってんだ」

 ひとーつ、ふたーつと数えて、問答無用で押しつけられる49個の芋だ。先に投げつけられた分を含めて50個の芋。
 春山さんも大概だが、春山さんに物を送ってくる関係者も大概だ。芋が美味いのが余計腹が立つポイントだ。美味いからこそ無駄には出来ん。勿体ないという意識が働くのだ。
 決して芋は嫌いでない。むしろ好きだ。10個程度なら一言礼を言って喜んで持って帰った。ゼミ室で美奈に蒸かしてもらうなり、家で母親にポテトサラダを作ってもらうなりしていれば消費は容易い。
 ただ、50個となると配るか長期保存の方法を調べなければならないだろう。何度でも言うが、常軌を逸している。

「春山さーん、オススメの食べ方ってありますかー?」
「蒸かして塩辛だ。騙されたと思ってやってみてくれ」


end.


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久々に芋ネタ。情報センターでは最近冴さんが弟(りっちゃん)をいじめてるみたいな感じになってる。
きっと圭希クンはこの芋がゼミ室に持ち込まれたのを見て大祭シーズンになるとわあわあ言い始めるんだろうなあ。そら期待するわ。
そして例によって芋が投擲用になっているのが春山さんのアレなところだけど、リン様が美味しくいただくはずなので大丈夫なはず……

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