2016
■至る今は名実ともに
++++
「野坂、お疲れ」
「伊東先輩、この度は講師を引き受けて下さって本当にありがとうございました。途中、ご心配とご迷惑をお掛けしてしまい、とても申し訳なく思っています」
初心者講習会が終われば、対策委員と講師の先輩方は少し残って今日の反省会。それも終わったけれど、すぐに帰る気にはなれなかった。どこかで、何かが引っかかっているんだと思う。
俺はよほどわかりやすい顔をしていたのか伊東先輩が声を掛けて下さって、今は星大近くのファストフード店にいる。伊東先輩と2人でこうして顔を合わせる機会もそうないし、これも講習会の魔法か何かだろう。
「果林から聞きました。最近、伊東先輩が少しピリピリしていたと。伊東先輩にそのようなイメージがなかったので驚きました。きっと初心者講習会に関わる一連の出来事もその要因でないかと推測されたので、対策委員の議長として――」
「その件に関しては俺の弱さだよね」
「弱さ、と言いますと」
「ミッツがウチの育ちゃんに盛大にフラれた話って知ってる?」
「何度か聞いたことがあります」
「ちゃんと話すと長いし腹立つから端折るけど、育ちゃんに近付くための踏み台にされたんだな俺は。それだったらまあ、紹介してくれとか応援してくれとか言ってくれれば良かっただけなんだけど、問題はその後だ」
三井先輩が自分age他人sageの演説を繰り広げるのは今に始まったことではない。よほど彼女のいる伊東先輩が妬ましかったのか、会ったこともない伊東先輩の彼女さんをボロクソに言い始めたそうだ。
あることないことを想像で言われ、伊東先輩は三井先輩に手を出してしまった。それは俺の知らない時代、先輩方が1年生のときのこと。その内容が、とても黙って聞いていられる内容ではなかったと。
「そんで謹慎の一歩手前、厳重注意食らって。村井サンと麻里さん、あと広瀬先輩はフォローしてくれてさ。でも咲良さんは違った。きっちり叱られたよね」
「何と」
「『放送の場で売られた喧嘩は放送で返せ』ってな。でも別に俺はアイツのためにミキサーやってるワケじゃないじゃんな。そう言ったら、『お前が黙々と前に進んでいけば、その程度の奴は淘汰されて視界から消えている』って」
「つまり、城戸女史はいかなる理由でも武力行使はダメだと」
「それもだけど、俺に受け流す心と言うか、余裕みたいなモンがなさ過ぎるって言いたかったのかもしれないね。時として、見ないことや聞かないことが必要になることもあるんだってこと」
奇しくも、それは今の対策委員に一番必要だったのもなのかもしれない。言葉の応酬で勝とうとするのではなく、脇目も振らず自分たちの信じた道を歩くこと。そして、売られた喧嘩を受け流す余裕。
そして伊東先輩はこう続けられた。お前の言葉くらいで俺は影響されませんよと態度で示さなければならなかったと。態度と結果で示して納得させなければ、聞く耳を持たず自分に都合のいい解釈しかしない奴には通じない、と。
「講師の件もそうだし他にもいろいろあってじわじわ削られてたし、まだどっかであん畜生って思ってる。でも、野坂たち対策委員のみんなが俺を信じてくれたのはすごく嬉しかったし、お礼を言わなきゃいけないのはこっちだよねって」
「いえ、そんな」
「次は夏だな」
「はい。俺たちは今度こそ自分たちの信じた道を行くと決めました。ですが、迷ったり、道を誤りそうになった場合は先輩方にご指導いただくかもしれません。その際はどうぞよろしくお願いします」
「うん。俺個人も対策の味方だし、何かあったら定例会動かすから。まずは思うようにやってみて」
「ありがとうございます!」
こう見えて結構権力持ってんだぜ俺、と伊東先輩は笑った。その権力の使い方はともかく、そういう地位にあるということはこれまで伊東先輩がどのようにして活動してこられたかが見える。
今日が終わればまた夏に向かって始まっていく。そこで俺たちはどう進んでいくのか。これまでのことを生かせるのか。その他にも不安は尽きないけど、それはひとつひとつ潰しながら行くしかない。
「そういや野坂、今日の見本番組だけど」
「はい」
「T2のBGM、レベルちょっと低くなかった?」
「あー……そのような気はしていましたがやはり伊東先輩が聞くと明らかでしたか…! あの、他にも気になった点などはありませんでしたでしょうか」
end.
++++
いち氏の口から少しだけ語られた“あの頃”の話。先にMBCC3年生がいち氏だけはキレさせちゃいけないと言っていた理由となった出来事について。
いち氏、しれっと職権の話w うん、まあ、定例会のナンバーツーだし権力はあるんだけどね実際w 大事な場面での使い方は知ってるはずだから信じろ
そしてノサカにとっては貴重も貴重、3年生のミキサーの先輩から技術指導を受けられるという機会でもあったようです。
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「野坂、お疲れ」
「伊東先輩、この度は講師を引き受けて下さって本当にありがとうございました。途中、ご心配とご迷惑をお掛けしてしまい、とても申し訳なく思っています」
初心者講習会が終われば、対策委員と講師の先輩方は少し残って今日の反省会。それも終わったけれど、すぐに帰る気にはなれなかった。どこかで、何かが引っかかっているんだと思う。
俺はよほどわかりやすい顔をしていたのか伊東先輩が声を掛けて下さって、今は星大近くのファストフード店にいる。伊東先輩と2人でこうして顔を合わせる機会もそうないし、これも講習会の魔法か何かだろう。
「果林から聞きました。最近、伊東先輩が少しピリピリしていたと。伊東先輩にそのようなイメージがなかったので驚きました。きっと初心者講習会に関わる一連の出来事もその要因でないかと推測されたので、対策委員の議長として――」
「その件に関しては俺の弱さだよね」
「弱さ、と言いますと」
「ミッツがウチの育ちゃんに盛大にフラれた話って知ってる?」
「何度か聞いたことがあります」
「ちゃんと話すと長いし腹立つから端折るけど、育ちゃんに近付くための踏み台にされたんだな俺は。それだったらまあ、紹介してくれとか応援してくれとか言ってくれれば良かっただけなんだけど、問題はその後だ」
三井先輩が自分age他人sageの演説を繰り広げるのは今に始まったことではない。よほど彼女のいる伊東先輩が妬ましかったのか、会ったこともない伊東先輩の彼女さんをボロクソに言い始めたそうだ。
あることないことを想像で言われ、伊東先輩は三井先輩に手を出してしまった。それは俺の知らない時代、先輩方が1年生のときのこと。その内容が、とても黙って聞いていられる内容ではなかったと。
「そんで謹慎の一歩手前、厳重注意食らって。村井サンと麻里さん、あと広瀬先輩はフォローしてくれてさ。でも咲良さんは違った。きっちり叱られたよね」
「何と」
「『放送の場で売られた喧嘩は放送で返せ』ってな。でも別に俺はアイツのためにミキサーやってるワケじゃないじゃんな。そう言ったら、『お前が黙々と前に進んでいけば、その程度の奴は淘汰されて視界から消えている』って」
「つまり、城戸女史はいかなる理由でも武力行使はダメだと」
「それもだけど、俺に受け流す心と言うか、余裕みたいなモンがなさ過ぎるって言いたかったのかもしれないね。時として、見ないことや聞かないことが必要になることもあるんだってこと」
奇しくも、それは今の対策委員に一番必要だったのもなのかもしれない。言葉の応酬で勝とうとするのではなく、脇目も振らず自分たちの信じた道を歩くこと。そして、売られた喧嘩を受け流す余裕。
そして伊東先輩はこう続けられた。お前の言葉くらいで俺は影響されませんよと態度で示さなければならなかったと。態度と結果で示して納得させなければ、聞く耳を持たず自分に都合のいい解釈しかしない奴には通じない、と。
「講師の件もそうだし他にもいろいろあってじわじわ削られてたし、まだどっかであん畜生って思ってる。でも、野坂たち対策委員のみんなが俺を信じてくれたのはすごく嬉しかったし、お礼を言わなきゃいけないのはこっちだよねって」
「いえ、そんな」
「次は夏だな」
「はい。俺たちは今度こそ自分たちの信じた道を行くと決めました。ですが、迷ったり、道を誤りそうになった場合は先輩方にご指導いただくかもしれません。その際はどうぞよろしくお願いします」
「うん。俺個人も対策の味方だし、何かあったら定例会動かすから。まずは思うようにやってみて」
「ありがとうございます!」
こう見えて結構権力持ってんだぜ俺、と伊東先輩は笑った。その権力の使い方はともかく、そういう地位にあるということはこれまで伊東先輩がどのようにして活動してこられたかが見える。
今日が終わればまた夏に向かって始まっていく。そこで俺たちはどう進んでいくのか。これまでのことを生かせるのか。その他にも不安は尽きないけど、それはひとつひとつ潰しながら行くしかない。
「そういや野坂、今日の見本番組だけど」
「はい」
「T2のBGM、レベルちょっと低くなかった?」
「あー……そのような気はしていましたがやはり伊東先輩が聞くと明らかでしたか…! あの、他にも気になった点などはありませんでしたでしょうか」
end.
++++
いち氏の口から少しだけ語られた“あの頃”の話。先にMBCC3年生がいち氏だけはキレさせちゃいけないと言っていた理由となった出来事について。
いち氏、しれっと職権の話w うん、まあ、定例会のナンバーツーだし権力はあるんだけどね実際w 大事な場面での使い方は知ってるはずだから信じろ
そしてノサカにとっては貴重も貴重、3年生のミキサーの先輩から技術指導を受けられるという機会でもあったようです。
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