2016
■わずかに見える空の向こう
++++
「もうちょい上ー!」
「ヒデさん、もうちょい左お願いします」
「こう?」
「あーちょうどっすパねえっす! ツルさーん! どっすかー!?」
「オッケー!」
緑が生い茂る木の枝に赤い風船を括りつければ、準備完了。カメラを構えたツルさんがそれを撮影すればひとつのカットになる。
ただ、風船をずっと木の枝につけっぱなしなのは良くない。どうせすぐ外さなきゃいけないし、位置の微調整があるかもしれない。だから俺はずっとヒデさんに肩車してもらったまま。
外でのヒデさんは“もじゃ”と呼ばれている。それがもじゃもじゃの髪質から来ているそうだけど。確かにこれは“もじゃ”な髪質。
「ハマちゃんやっぱもうちょっと紐短くなんない?」
「どんくらいっすかねー。あ、ヒデさん風船の下にお願いします」
「もう気持ちさあ」
「こんなもんすか」
「手ぇ放して。風で変わるじゃんなー、イメージって」
ツルさんの手元には、入院中のヒロさんが病床で書いた絵コンテ。ヒデさんがお見舞いに行ったときに受け取って来たらしい。マジパねえ。
ヒロさんはこのノートを煮るなり焼くなり好きにしろって言ってたみたいだけど、まあ作るっすよね。映像制作がAKBCの活動の本丸なんすから。
「ちょっと待てよ」
「どうかしたすかツルさん。もっと短くします?」
「いや、逆に。ハマちゃんの視点で行ける?」
「えっ、俺すか」
「今目線高いじゃんね」
そう言われてみれば、今の俺は視点がいつもよりぐんと高い。元が165あるかないかくらいだし、183あるヒデさんに肩車をしてもらっているというのもある。
見上げれば、一面が緑。木漏れ日がちょっとキラキラしている。もうすっかり夏だなあ。赤い風船が風に泳いでいる。
「まっつん、ハマちゃんに撮らしてみてよ」
「わかった。はいハマちゃん」
カメラを受け取って構えてみると、その難しさを実感する。普段俺はヒロさんと一緒にあーだこーだ言いながら企画したり映る方で、こっち側にはあまり来ないから。
映したい物がなかなか枠の中に入ってくれない。ヒデさんの頭の上であーでもないこーでもないと言いながらカメラと格闘。マジパねえ。
機材の使い方自体はわかるけど、それを使ってどう撮るかっていうところに手腕ってのが出るんだろうな。それが作品の構成じゃないトコにも出ることを学ぶ。
「うーん、こんな感じっすかねー」
「ハマちゃーん、声入れちゃダメよー」
「すんませーん」
声を入れないように撮り直して、カメラをツルさんに渡す。さっそくチェックを入れてもらって、必要があればまた撮り直さなきゃだから俺はまだヒデさんの上。
って言うかヒデさんさっきからずーっと俺のこと担いでるけど疲れないのかな、マジパねえ。そのまんま撮った物のチェックもしてるし。
「うん、いい感じだ」
「マジすか! よかったっす!」
「ハマちゃん、そこってどんな感じ? やっぱ見えるものって違う?」
「すっげー遠くまで見えるっすよ」
「パない?」
「マジパねえっす」
「千鶴も乗ってみる?」
「いや、アタシはいい」
撮りたい物が撮れたら、片付けを忘れずに。木の枝に括りつけたままの風船を取らなくっちゃ。ロケ地はちゃんと元に戻しておかないと。
「ヒデさーん、もうちょい左にお願いしますー」
「こう?」
「いい感じっすー」
end.
++++
青敬がちゃんと映像制作をしている現場をやるのは初めてかもしれない。というワケでそんな活動風景。
今回のお話では終始ハマちゃんはもじゃに肩車をされているワケだけど、サイズ感がかわいいだろうなと思われるヤツ。
ちづちゃんは編集だけじゃなくて撮影の方もきっと腕利きなんだろうなあ。そういや学部でもそんなようなことやってるんだっけか。
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「もうちょい上ー!」
「ヒデさん、もうちょい左お願いします」
「こう?」
「あーちょうどっすパねえっす! ツルさーん! どっすかー!?」
「オッケー!」
緑が生い茂る木の枝に赤い風船を括りつければ、準備完了。カメラを構えたツルさんがそれを撮影すればひとつのカットになる。
ただ、風船をずっと木の枝につけっぱなしなのは良くない。どうせすぐ外さなきゃいけないし、位置の微調整があるかもしれない。だから俺はずっとヒデさんに肩車してもらったまま。
外でのヒデさんは“もじゃ”と呼ばれている。それがもじゃもじゃの髪質から来ているそうだけど。確かにこれは“もじゃ”な髪質。
「ハマちゃんやっぱもうちょっと紐短くなんない?」
「どんくらいっすかねー。あ、ヒデさん風船の下にお願いします」
「もう気持ちさあ」
「こんなもんすか」
「手ぇ放して。風で変わるじゃんなー、イメージって」
ツルさんの手元には、入院中のヒロさんが病床で書いた絵コンテ。ヒデさんがお見舞いに行ったときに受け取って来たらしい。マジパねえ。
ヒロさんはこのノートを煮るなり焼くなり好きにしろって言ってたみたいだけど、まあ作るっすよね。映像制作がAKBCの活動の本丸なんすから。
「ちょっと待てよ」
「どうかしたすかツルさん。もっと短くします?」
「いや、逆に。ハマちゃんの視点で行ける?」
「えっ、俺すか」
「今目線高いじゃんね」
そう言われてみれば、今の俺は視点がいつもよりぐんと高い。元が165あるかないかくらいだし、183あるヒデさんに肩車をしてもらっているというのもある。
見上げれば、一面が緑。木漏れ日がちょっとキラキラしている。もうすっかり夏だなあ。赤い風船が風に泳いでいる。
「まっつん、ハマちゃんに撮らしてみてよ」
「わかった。はいハマちゃん」
カメラを受け取って構えてみると、その難しさを実感する。普段俺はヒロさんと一緒にあーだこーだ言いながら企画したり映る方で、こっち側にはあまり来ないから。
映したい物がなかなか枠の中に入ってくれない。ヒデさんの頭の上であーでもないこーでもないと言いながらカメラと格闘。マジパねえ。
機材の使い方自体はわかるけど、それを使ってどう撮るかっていうところに手腕ってのが出るんだろうな。それが作品の構成じゃないトコにも出ることを学ぶ。
「うーん、こんな感じっすかねー」
「ハマちゃーん、声入れちゃダメよー」
「すんませーん」
声を入れないように撮り直して、カメラをツルさんに渡す。さっそくチェックを入れてもらって、必要があればまた撮り直さなきゃだから俺はまだヒデさんの上。
って言うかヒデさんさっきからずーっと俺のこと担いでるけど疲れないのかな、マジパねえ。そのまんま撮った物のチェックもしてるし。
「うん、いい感じだ」
「マジすか! よかったっす!」
「ハマちゃん、そこってどんな感じ? やっぱ見えるものって違う?」
「すっげー遠くまで見えるっすよ」
「パない?」
「マジパねえっす」
「千鶴も乗ってみる?」
「いや、アタシはいい」
撮りたい物が撮れたら、片付けを忘れずに。木の枝に括りつけたままの風船を取らなくっちゃ。ロケ地はちゃんと元に戻しておかないと。
「ヒデさーん、もうちょい左にお願いしますー」
「こう?」
「いい感じっすー」
end.
++++
青敬がちゃんと映像制作をしている現場をやるのは初めてかもしれない。というワケでそんな活動風景。
今回のお話では終始ハマちゃんはもじゃに肩車をされているワケだけど、サイズ感がかわいいだろうなと思われるヤツ。
ちづちゃんは編集だけじゃなくて撮影の方もきっと腕利きなんだろうなあ。そういや学部でもそんなようなことやってるんだっけか。
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