2016

■How to crush of death flag

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「けほっ」

 咳がひとつ。その方向を見れば、菜月先輩。じーっと見ていると、何見てるんだとローキック。うん、相変わらず素晴らしい威力だ。くっそめっちゃいってぇ!

「ところでノサカ君」
「はい」
「明日はファンフェスの打ち上げだけど、昼放送の収録はいつも通りやるからな」
「はい」
「何が言いたいか、わかるな」

 言葉だけで感じる圧は、さすが菜月先輩。菜月先輩が何を言いたいか、そんなことはよくわかっている。つまりは、そういうことだろう。

「打ち上げの集合時間は花栄(はなえ)駅の地下の本屋に午後6時、つまりそれに遅れることなく集合するためにはバス時間などを考慮すると最悪でも4時半にはここを出ている必要がある。以下逆算に逆算を積み重ねると、1分たりとも遅刻は許されない。そういうことですね」
「またやらかしでもしたら、定例会議長サマがウルサイからな」

 そう言って菜月先輩がチラリと隣を窺えば、定例会議長……もとい、圭斗先輩が笑みを浮かべている。ファンフェス当日のやらかしで圭斗先輩から落とされた雷の衝撃は、思い出しただけで脳天から痺れそうだ。

「ここを発つ時間に関しては菜月がいるから心配してないけど、野坂がここに来る時間に関してはまだ信用出来ないからね。最悪収録日をずらすことも考えた方がいいかもね」
「前回は15分だったんだぞ」
「15分でケロリとしているなんて。菜月も丸くなったね。昔は1分1秒の遅刻だって切り捨ててたのに」
「これに慣れてしまったんだ」

 15分の遅刻でケロリとされてしまうくらいには俺の遅刻が悪質だということだ。まあ、なあ。菜月先輩はこれまで俺に何時間待たされたのか。それを思えば15分なんて。
 いや、俺が悪いのは当然だし反省をした上で改善したんだぞ、俺もやれば出来るんだぞというところを見せなければいけないのだけどそれが難しい。誰だ、電車をあんなに寝心地のいい構造にしたのは!
 はっ、そうか。乗り過ごしや終点での折り返しがある電車だからいけないんじゃないか! どうしてこんな初歩的な事に気付かなかった!

「な、何を見てるんですか野坂さん」
「こーた、お前明日バイトじゃないだろ」
「まさか野坂さんあなた」
「こーたが大学まで俺を送ってくれれば万事解決じゃないか! これだ、これで行こう」
「何を勝手に解決した気でいるんですか! 大体、家の車だって借りられる日はそう多くないんですから無茶を言わないでください!」

 だけど、電車で寝過ごさないためには最初から電車を使わないのが一番確実なワケで。それなら車を運転出来るこーたに頼むのがいいんじゃないかと、そう思ってしまった。
 こーたは2年に上がってからは週に何度か家の車を借りて通学するようになった。借りられる日の方が少ないから電車の定期は持っているけど、それでも車を動かせるのは免許なしの俺からすればすごい。

「神崎、僕からもお願いするよ。既に野坂の遅刻はIFじゃ暗黙の了解とは言え、またやらかされるとさすがにそろそろ。菜月の話では2時間クラスのヤツをやらかさないとも限らないようだし」
「カンザキ、お前も時間にはルーズだけどそれでもノサカよりはマシだし常識もまあある。何とかノサカを2時までにここに連れて来てくれないか」
「ああもう仕方ないですね! 車を借りられるかどうか聞くだけ聞きますけど、借りられなかった場合のことは知りませんからね! まったくもう困っちゃうわ!」

 これで勝てる。車が借りられなかった場合の事は知らね。もちろん戦いは起きる段階から始まっているワケで。いつかやらかした待ち合わせ時間になって起床、なんてことにならないようにしなければ。

「けほっけほっ」
「菜月、大丈夫か」
「問題ない」
「そろそろ時期なんだ。場合によっては昼放送の収録中止も検討――」
「明日は大丈夫だ」


end.


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インターフェイスでも既に常識のノサカのアレですが、さすがにそう毎回毎回向島がやらかしたぞー、となると、圭斗さんもさすがにちょっとアレらしい。
しかしナツノサの昼放送の収録は土曜日に行われるのが基本なワケで。時間との闘いである。主にノサカが。
先輩たちからもお願いされるとさすがの神崎でも考えて見ざるを得なかったらしい。ウザドルはわかりやすくわざとらしさ満点のぷんすこ模様。

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