2016

■純白コットン100%

++++

「おはよーございまわーっ!」
「はよーごぜーやーす」
「ちょっ、冴さん服っ!」

 例によって冴さんが脱いでいる。やっぱり目のやり場には困るし、まだまだ慣れる気配がない。早く林原さんみたくクールな反応が出来るようになりたいんだけどなあ、やっぱりビックリしちゃうなあ。

「川北の叫び声にも慣れてきたな」
「本当ですね」
「最初はビビったけどなー」
「そうですね。わーとかひゃーとか、聞き慣れてきたらいきなり叫ばれても驚かなくなるものですね」

 春山さんと林原さんがまったりとお茶を飲んでいる。この光景にも実はちょっとビックリするんだけど、今は何より裸の冴さんを越えてロッカーにたどり着かなきゃいけない。スタッフジャンパーを取りに行かないと。

「うう~、冴さ~ん、まだですか~?」
「まだかかりャすよ」
「冴、お前着替えるのにそんなに時間がかかるのか」
「自分、ただ着替えるだけじャないンすよ。都度都度でベビーパウダー塗り直さネーとあせもで大変なコトになっテ」

 思い切ってよく見てみると、冴さんのロッカーには大容量のベビーパウダー。胸元や背中はうっすらと白い。話を聞いていくと、豪快に脱がなきゃ作業が大変だよなあというのはわからないでもない。

「自分、胸がムダにあるじャないスか」
「断崖絶壁の春山さん、土田が喧嘩を売ってますよ」
「ムダじゃない! 冴パイは私の癒し! ムダな肉なんて1グラムもないぞ!」
「やァー、ありがとーごぜーやす。でも、ベビーパウダー塗るのが大変なんス。谷間とか下乳とか、めんどくセーのなンのって」
「そういう悩みもあるんだな。あとリン、お前は殺す」

 そんな話をしながら丁寧にポンポンと冴さんはベビーパウダーを塗っている。こう言っちゃ失礼なのはわかってるんだけど、性格はマイペースで自由、豪快って感じなのにお肌は以外に繊細だったんだなあと思って。

「そーゆー事情なンでこまめに汗を拭いたり着替えたりしねーとそれはもう悲惨なコトになるンす。皮膚科通いも結構めんどいンすよ」
「お前にも人知れぬ苦労があったのだな」
「そーすよ」
「冴さ~ん、まだですか~?」
「もーちょっと~ッす」
「あの、そしたら俺のロッカーからジャンパーだけ取ってもらっていいですか?」
「へーい、チョイとお待ちー」

 自分でロッカーに行くことは諦めて、冴さんにジャンパーを取ってもらうことに。もっと早く気付けばよかった。今日はA番だし、事務所にいるから荷物は冴さんの用事が終わった後でササッとしまえばよかったんだ。
 冴さんから渡されたジャンパーを羽織ってようやく仕事モードに。とは言え先輩たちが言うには結構利用者が減っているしそこまで張り切ることもない、と。先に入っていた春山さんと林原さんも今日は書類仕事が主だったらしい。

「川北、ジャンパーの首根っこが白いぞ」
「えっ? どこですか林原さん!」
「脱いで確認してみろ」
「あ、ホントだ!」

 ジャンパーの首根っこに人の手の形が白く浮かび上がっている。うう、ちょっとしたホラーだ。昨日はそんなことなかったと思うんだけど。

「えー、何これ。小麦粉? チョーク? 何だろ」
「いや、土田のベビーパウダーだろう」
「あ。冴さん、もしかして手真っ白ですか?」
「やァー、失念してヤした。でもコスればすぐ落ちヤすよ」
「それもそうですねー」

 ごしごしと軽くこすればジャンパーはそれっぽくきれいになる。はーよかったー、何でもない汚れで。

「はー、変な汗かいたー」
「よーし川北、お姉さんがベビーパウダーを塗ってやろう。脱げ脱げー!」
「ひゃーっ! 脱がないですよ春山さん!」
「やめんか、痴女が」
「てめーのケツでもいいんだぞ、リン」
「どうぞ川北の乳でも何でも。さ、オレは帰るか」
「わーっ! 助けてくれるんじゃないんですか林原さーん!」
「自分もB番入りやーす」


end.


++++

久々の情報センター。ポロリもあるよ! ミドリがわーひゃー言ってるのも大分馴染んで来た模様。
逃げるが勝ちが冴さんの基本。今回もそれを忠実に守っているのですが、いつか冴さんも火の粉を被ってみて欲しいなあ。
あせもや金属アレルギーなんかがあるとお肌のあれこれがいろいろ大変なのですが、ところで金属がちょっと怪しい菜月さんはどうした

.
70/100ページ