2018(02)
■Saturday is thing only for me
++++
「はい。30分00秒、押しなし巻きなし。今日の収録も無事終了しました」
「……5時半か」
「申し訳ございません、今日も例によって1時間も遅れてしまいまして、これを無事と言うには少々烏滸がましかったかと」
土曜日はいつものように菜月先輩との番組を収録する予定が入っている。暗黙の待ち合わせ時間は午後2時だ。毎回のように遅れてくる俺の悪癖は健在で、今日も息をするようにやらかしてしまう。毎回反省はしているが、結果が伴わない。
それをちょっと番組が上手く行ったからって1時間の遅刻をひっくるめても「無事」だなんて俺ごときがよく言えたなと。収録も残り2回だというのにそろそろ俺は無事に2時に間に合うように来てみたらどうだ。
「いや、この後約束があるから間に合って良かったなと。お前がどうこうじゃない」
「ナ、ナンダッテー!? そのようなご事情がおありでしたなら先に仰っていただければもう少し迅速に収録が出来るよう努力できました!」
「それ以前にお前は時間通り来るところから始めろ。それ以外は問題ないんだ」
「申し訳ございません……承知しております……」
サークル室を片付けて、帰り支度を急ぐ。菜月先輩はそんなに慌てなくても大丈夫だと仰ってくれているけど、それでは俺の気が済まない。俺がやらかしたおかげで菜月先輩の約束に支障が出るなんて事があれば大騒動だ。
ばたばたと建物から出て、坂道を下る。菜月先輩は焦る俺を窘めながら、ご自分のペースで歩を進められる。うちの時間には十分余裕があるんだぞ、と。だけど、菜月先輩は時間に厳格な方でいらっしゃるから、本当はもっと余裕を持ちたいはずだ。
「お前のペースについて行ったおかげで汗が止まらないぞ」
「申し訳ございません」
「あー、うちもバスに乗ろう」
バス停で次のバスの時間を確認すれば、あと2分。ちょうどいいタイミングで来れたようだ。スクールバスは基本星港鉄道の最寄り駅まで走る仕様だけど、申告をすればそれより手前の向島環状鉄道の最寄り駅で降りることも出来る。
「購買がやってれば汗ふきシートでも買ったのにな」
「土曜日の購買は5時までの営業ですからね。……はっ! もしや、ご自宅でシャワーを浴び直す時間がないくらいに俺はやらかしてしまったということで」
「あーもうウルサいなお前は。お前の遅刻を盛り込んでなきゃ土曜の夜に約束なんか入れられないんだからこれ以上ごちゃごちゃ言うな」
「大変申し訳ございません」
「お前のその形式だけの謝罪は見飽きたぞ」
そうこうしている間にスクールバスがやってきた。俺と菜月先輩で事実上貸し切り状態。冷房がガンガンにかかっていて、汗をかいているから少し冷えて寒いくらいだ。しまった、今日は授業がないから半袖で来ている。これが平日なら基本長袖だから平気なんだけど。
バスが発車してしまえば、菜月先輩が降車されるまでは1分か2分ほどだ。菜月先輩と2人でいられるこの時間をもっとという思いやら、約束には間に合われるのだろうかという謎の焦燥感やら、次回こそは遅刻をしないという決意やらで忙しい。
「それじゃあノサカ、また明後日か」
「そうですね」
「じゃ、お疲れ」
「お疲れさまです」
向島環状鉄道の駅前高架下。その降車ポイントにたどり着けば、菜月先輩はスッと手を翳してバスから降りられた。俺はそんな菜月先輩をずっと目で追って。すると、菜月先輩が何かに気付いたのか、同じように手をスッと翳される。
その先には、白いビッグスクーター。バスが発車してどんどん米粒のように小さくなっていくし俺は目が悪いけれど。噂に聞く情報が確かであれば、そうか、菜月先輩が約束されていた相手は……そういうことか……。
いや、別にまだ何が確定したワケじゃない。俺の望みが完全に絶たれたワケでもない。そもそも、菜月先輩に告白もしないでただうだうだしているだけの俺に何かを言う資格などあってたまるか。いつかは言わなきゃと思っているんだ。
圭斗先輩の仰ることによれば、菜月先輩と高崎先輩は1年生の頃から付き合いがあって、対策委員としての活動を経て絆とか、その結びつきをより強固にされたようだ。と言うか、その頃は俺から見ててもわかるくらい菜月先輩は……うん、何も言うまい。べっ、別に首から提げていらっしゃるネックレスがお揃いだなんて気付いてないんだからねッ!
それにしたってしんどいよな~……。確かに菜月先輩はその辺緩いと言うか、異性と2人でご飯に行くからどうしたという考え方の人ではあるけど、その相手が高崎先輩であるという事実が俺を後頭部からガーンって殴ってくるんだよな。
「はー……しんど」
知ってたけど、こうまで自分が嫉妬深いとは。はー……気になる。しんどみに溢れる。
end.
++++
毎年お馴染み七夕の逢瀬の季節ですが、七夕が土曜日だったらこうなるよね! ノサカがんばえー
一応今年は高菜年の体なのでこんな感じでノサカが悶々とするような事が例年比で増えそうな予感。お前は来年を待て。
ノサカの遅刻を盛り込んでいるから土曜日に予定は入れられないというのは初心者講習会の件でも言ってたねえそういや
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「はい。30分00秒、押しなし巻きなし。今日の収録も無事終了しました」
「……5時半か」
「申し訳ございません、今日も例によって1時間も遅れてしまいまして、これを無事と言うには少々烏滸がましかったかと」
土曜日はいつものように菜月先輩との番組を収録する予定が入っている。暗黙の待ち合わせ時間は午後2時だ。毎回のように遅れてくる俺の悪癖は健在で、今日も息をするようにやらかしてしまう。毎回反省はしているが、結果が伴わない。
それをちょっと番組が上手く行ったからって1時間の遅刻をひっくるめても「無事」だなんて俺ごときがよく言えたなと。収録も残り2回だというのにそろそろ俺は無事に2時に間に合うように来てみたらどうだ。
「いや、この後約束があるから間に合って良かったなと。お前がどうこうじゃない」
「ナ、ナンダッテー!? そのようなご事情がおありでしたなら先に仰っていただければもう少し迅速に収録が出来るよう努力できました!」
「それ以前にお前は時間通り来るところから始めろ。それ以外は問題ないんだ」
「申し訳ございません……承知しております……」
サークル室を片付けて、帰り支度を急ぐ。菜月先輩はそんなに慌てなくても大丈夫だと仰ってくれているけど、それでは俺の気が済まない。俺がやらかしたおかげで菜月先輩の約束に支障が出るなんて事があれば大騒動だ。
ばたばたと建物から出て、坂道を下る。菜月先輩は焦る俺を窘めながら、ご自分のペースで歩を進められる。うちの時間には十分余裕があるんだぞ、と。だけど、菜月先輩は時間に厳格な方でいらっしゃるから、本当はもっと余裕を持ちたいはずだ。
「お前のペースについて行ったおかげで汗が止まらないぞ」
「申し訳ございません」
「あー、うちもバスに乗ろう」
バス停で次のバスの時間を確認すれば、あと2分。ちょうどいいタイミングで来れたようだ。スクールバスは基本星港鉄道の最寄り駅まで走る仕様だけど、申告をすればそれより手前の向島環状鉄道の最寄り駅で降りることも出来る。
「購買がやってれば汗ふきシートでも買ったのにな」
「土曜日の購買は5時までの営業ですからね。……はっ! もしや、ご自宅でシャワーを浴び直す時間がないくらいに俺はやらかしてしまったということで」
「あーもうウルサいなお前は。お前の遅刻を盛り込んでなきゃ土曜の夜に約束なんか入れられないんだからこれ以上ごちゃごちゃ言うな」
「大変申し訳ございません」
「お前のその形式だけの謝罪は見飽きたぞ」
そうこうしている間にスクールバスがやってきた。俺と菜月先輩で事実上貸し切り状態。冷房がガンガンにかかっていて、汗をかいているから少し冷えて寒いくらいだ。しまった、今日は授業がないから半袖で来ている。これが平日なら基本長袖だから平気なんだけど。
バスが発車してしまえば、菜月先輩が降車されるまでは1分か2分ほどだ。菜月先輩と2人でいられるこの時間をもっとという思いやら、約束には間に合われるのだろうかという謎の焦燥感やら、次回こそは遅刻をしないという決意やらで忙しい。
「それじゃあノサカ、また明後日か」
「そうですね」
「じゃ、お疲れ」
「お疲れさまです」
向島環状鉄道の駅前高架下。その降車ポイントにたどり着けば、菜月先輩はスッと手を翳してバスから降りられた。俺はそんな菜月先輩をずっと目で追って。すると、菜月先輩が何かに気付いたのか、同じように手をスッと翳される。
その先には、白いビッグスクーター。バスが発車してどんどん米粒のように小さくなっていくし俺は目が悪いけれど。噂に聞く情報が確かであれば、そうか、菜月先輩が約束されていた相手は……そういうことか……。
いや、別にまだ何が確定したワケじゃない。俺の望みが完全に絶たれたワケでもない。そもそも、菜月先輩に告白もしないでただうだうだしているだけの俺に何かを言う資格などあってたまるか。いつかは言わなきゃと思っているんだ。
圭斗先輩の仰ることによれば、菜月先輩と高崎先輩は1年生の頃から付き合いがあって、対策委員としての活動を経て絆とか、その結びつきをより強固にされたようだ。と言うか、その頃は俺から見ててもわかるくらい菜月先輩は……うん、何も言うまい。べっ、別に首から提げていらっしゃるネックレスがお揃いだなんて気付いてないんだからねッ!
それにしたってしんどいよな~……。確かに菜月先輩はその辺緩いと言うか、異性と2人でご飯に行くからどうしたという考え方の人ではあるけど、その相手が高崎先輩であるという事実が俺を後頭部からガーンって殴ってくるんだよな。
「はー……しんど」
知ってたけど、こうまで自分が嫉妬深いとは。はー……気になる。しんどみに溢れる。
end.
++++
毎年お馴染み七夕の逢瀬の季節ですが、七夕が土曜日だったらこうなるよね! ノサカがんばえー
一応今年は高菜年の体なのでこんな感じでノサカが悶々とするような事が例年比で増えそうな予感。お前は来年を待て。
ノサカの遅刻を盛り込んでいるから土曜日に予定は入れられないというのは初心者講習会の件でも言ってたねえそういや
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