2018(02)

■これはきっといいものだ

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 今朝、センターの事務所に入ると昨日の退勤時にはなかったはずの山が築かれていた。その山を構成する段ボール箱には「北辰のじゃがいも」と縁起でもないことが書かれていて、とうとうこの季節がやってきてしまったかと。
 仮にこの箱の中身がジャガイモだったとして、それを運んだであろう春山さんはどのようにしてこれを運んだのか。見た感じ、箱には10キロと書かれている。10キロが何個ほどになるかはわからんが、それが4箱も5箱もあるのだから冗談ではない。

「おはようございまーす」
「ああ、川北か」
「林原さんどうしたんですかー?」
「これを見ろ」
「えっ? えーと、ジャガイモですねきっと」

 川北は1年で、これから起こる惨劇を知らん。オレも出来ればそれを知っているからこそさっさと自習室に逃げ込んでしまいたい。去年、どれだけ酷い目に遭ったことか。あの惨劇を繰り返させてたまるか。

「まあ、とりあえずオレは自習室に――」
「ィよーう、リーン」
「来やがったか」
「今年も芋の季節がやってきたぜェー」
「知ったことか。今年は断固拒否する」
「拒否権なんかねーんだよなァー……何も金を取ろうってんじゃねぇーんだよォー、善良な市民である芹サンに対する人助けじゃねえかァ、アーン?」

 やはりこの箱を用意したのはこの人であったか。春山さんは親戚が芋農家をしているとかで、芋の季節には大量の芋が送られてくるそうだ。地元である北辰だけでなく、南の産地にも親族がいるらしく、そちらの芋農場からも送られてくるのだ。
 当然春山さん1人でそれだけの芋を処理できるはずもなく、余りに余った芋をその辺にいる奴に見境なく押し付けるのだ。オレはそうして去年、100個の芋を押し付けられた。パッと見る感じ、去年より増えている。……後は何も言うまい。

「何が人助けだ」
「人助けじゃねーか。言っとくが、これが全部じゃねーんだぞ。それに、何もお前が全部食わなきゃいけないっつーことでもないんだぜ」
「そうにしても、限度というものがあるだろう」
「川北ァー、北辰の新じゃがだぞー。好きなだけ持ってっていいぞー」
「わーっ! 北辰の新じゃがですかー!? えっ、好きなだけ持って行って本当にいいんですか?」
「持っていくことが人助けになるんだぞー」
「哀れ、川北。一度喜んだことで今後も芋を理不尽に押し付けられるようになるぞ」
「でも、ジャガイモは食糧なんですよー。煮て良し焼いて良しでー。野菜の基本ですからね」

 確かに野菜の基本ではあるだろうし、北辰の新じゃがを普通に買えばそれなりの値段にはなるだろうから1人暮らしにはこれ以上ない食糧調達の機会ではあるのだろう。しかし、春山さんが10個程度で川北を解放するとも思えんのだ。
 今は川北のことよりも自分がいかに芋を回避するかを考えた方がいいだろう。川北を目くらましにしていかにオレが5個10個程度の被害で済むか、それが大事なのだ。去年は石川や美奈にお裾分けの名のもとに押し付けた。しかし、今年も芋を研究室に持ち帰れば警戒されるだろう。

「川北、お前はどうやって芋を食うつもりだ?」
「カレーとかー、シチューとかー、あとは茹でて潰して小麦粉と混ぜて焼くんですよー」
「ほう」
「もちもちして美味しいんですよー」

 川北流のジャガイモ消費術はまあいいとして、ここで少しでもオレのそれに触れると圧死する未来しかない。本来オレはポテトサラダが好きなのだが、そういう情報はとことん封印するのだ。そうしないと大変なことになる。

「リンよぉー、いー加減観念して2箱持ってけよー」
「そもそも、これだけのジャガイモをどうやって持ち込んだ」
「それはお前、ちょちょいのちょーいって。そこに台車があるだろ」
「あるな、折り畳みの台車が」
「車のある協力者を用意して、すたこらさっさ」
「すたこらさっさ」
「川北、復唱せんでいい。それで、10キロとあるが個数で言えば具体的に何個だ」
「え、50個くらい?」
「正気の沙汰じゃないな」

 結局、1箱のジャガイモが押し付けられてしまった。春山さんの部屋にはまだあると言うのだから、1箱で済んだと思っていいのだろうか。何にせよ、これ以上の被害が発生しないようにしなければならない。自習室に逃げよう。


end.


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今年もこの季節がやってきました。春山さんのゲリラ芋です。
やっぱり最初なのでビックリしながらもミドリは喜んでくれるようですが、リン様は警戒しかしてねえ
そしてこの量の芋をセンターに運び込んだ協力者とは!!!(きっと青山さんやろなあ)

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