2018(02)

■ぼっちになれない火曜日

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 ここ最近の火曜日は第1学食の“ぼっち席”で岡崎と飯を食うようになっていた。それと言うのも、ワールドカップイヤーであるのをいいことに、伊東が昼放送でやりたい放題しているのだ。下手すりゃ暴走とも取られかねないだろう。

「へー、第1学食にこんな奥まった席があるんだねー」
「おう、来たのか宮ちゃん」
「だって、面白い物が聞けるって言うから」
「それで、面白い物って?」
「浅浦、お前も来たのかよ」
「伊東の冷やかしと聞いて」

 ぼっち席が立派なグループ席になったところで番組が始まるのを待つ。伊東がバカなことをやってるときたら、やっぱり宮ちゃんを連れて1回は冷やかしておきたい。浅浦までついて来たのは誤算だったが、特に害はない。

「高崎の友達?」
「ああ、伊東の彼女。俺とは高校の同級生で悪友みたいなモンだ」
「カズの彼女って言うと、噂のエリカさん。俺は岡崎由乃、MBCCのアナウンサーで高崎とカズの同期」
「宮林慧梨夏です」
「岡崎君て文学部だよな。授業で結構見る気がする」
「そうだね、文学部。浅浦君の事は友達に聞いて知ってるよ。教職取ってるよね」

 岡崎と浅浦のやり取りに宮ちゃんが何か腐った目をキラッキラさせていることには触れないでおこう。今日の本題は伊東の冷やかしだったはずが、どうしてこうなった。と言うかコイツら素で胡散臭せえんだよな。
 実際、岡崎が文学部でちょいちょい有名なのは色付き眼鏡が目立つという事情も多々。浅浦も同じように目立っているらしいが、それは黒基調の服にゴツいヘッドホンというどこにでもありそうな服装がミステリアスに映るんだと。

「あっ、番組始まった! へー、MBCCってこんな感じでやってるんだねー」
「あー、お前そもそも大学に来ねえから知らねえのな」
「ちょっと、事実だけど人がたくさんいるところで言わなくたっていいじゃん」

 ぼっち席の真上にはスピーカーがある。それと、建物の構造上この空間に余計な人は寄り付かなくなっていて番組を聞くのにはもってこいの場所なのだ。火曜日は本来果林がトークを担当するのだが、今期は少々違った。

「えっ!? 高崎クン、カズの声がするんだけど! ミキサーの人って喋らないんじゃないの!?」
「まあ、普通は喋らないんだが、なーにをトチ狂ったかアイツはここ最近ワールドカップ特番とか言って番組を乗っ取りやがってな。それっぽい曲を用意するだけじゃ足りなくなったんだろ。とうとう自分で喋り出したんだ」
「うわ~……よくやるわ~……」
「まあ、アンタとの間に「趣味には干渉しない」っていうルールがある以上、家じゃ思うように喋れないのがこうなったんだろ」
「だからって食堂でやる!?」

 そう、伊東はサッカーのことを喋りたいがためだけにサークル室からインカムマイクを掘り起こしやがったのだ。最初に気付いたのはやはり毎日の番組を聞いている岡崎だ。伊東が昼放送でマルチやってると俺にタレコミを入れて来たのだ。
 通常のサークルで扱う機材でのマルチ(ミキサーに触りながらのトーク)はちょいちょい見るし、俺もやれる。だけど、学食での昼放送でのマルチだなんて、少なくとも俺がMBCCに入ってからは記録にも記憶にもねえ。サッカーの話をしたいがために、そこまでやるかと。

「最近ね、カズに会ってないんですよ」
「マジか」
「ワールドカップやってる間は会わないのを覚悟してるしその分の時間をうちも原稿とかに充ててるから」
「じゃあこれが生存確認的なことになるのか」
「そうだね。何て言うか、サッカーに絡んだ時のカズって熱量がね」
「あー……わかる」
「熱すぎてうちじゃちょっと対処出来ないって言うか。サッカーの勉強をしようと思ったこともあったけど、挫折したよね」
「まあ、言っちまえばお前らどっちもどっちだし、お前は通年でアイツを放置してるけどアイツのここまでバカデカいのはたまになんだからいいじゃねえか」
「って浅浦クンにも言われてます!」

 生きてるならいいんですよ。そう言って宮ちゃんはわかめうどんをすする。つーかマジでバカップルだ。生きてるならいいって相手に好きにさせとくところとかが。全部が全部わかってる必要もないっていう諦めも上手いこと働いてんのかね。

「最近アイツの部屋で観戦大会みたいなのしたけど、他校の友達とかも呼んでるからワケわかんないことにはなってんだよな」
「あー、IFサッカー部な」
「やっぱカズの近況は浅浦クンだねえ」
「アイツが昔から俺のヒーローだって連呼してた山口君? 彼、よくもまあ最上級にめんどくさい伊東の面倒を見てるなあと感心した」
「伊東って山口のこと昔から知ってんのか」
「あの山口兄弟の兄の方だとは俺も知ってるくらいだからな。実際有名だろ」
「言って浅浦クンもサッカーには詳しい方じゃん。でも詳しい話を」
「そこの腐女子、煩悩だだ漏れだぞ」

 あっ、結局番組あんま聞けてねえ。やっぱぼっち席がぼっち席として機能すんのは人がいねえからだな。


end.


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4年に1度の暴走の時間がやってまいりました、いち氏が果林とやってる番組を事実上乗っ取っていますw
そしてそれを冷やかす愉快な仲間たちと、いつものようにご飯を食べるユノ先輩。妙な組み合わせではある。
そう言えば洋平ちゃんていち氏のヒーローなんですよね。そら浅浦雅弘からも知られてて当然よね、浅浦クンもサッカーは好きでちょっと知ってるからね

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