2018
■後回しのノルマ
++++
「ノサカ、何で台風て夜にばっか来るん」
突然ヒロがワケのわからないことを言い始めた。これから本格的な夏を迎えると、台風もちょくちょく接近するようになるだろう。こないだもひとつ掠めていったけど、雷がヤバかったくらいで生活への影響は少なかったように思う。
4限の授業は授業時間の半分が講義で残り半分はプログラミング課題に取り組む時間だ。俺は早々に課題を終えているけど、ヒロは未だ手付かず状態。これが終わればサークルに行けるのだけど、この調子だと時間いっぱい使っても無理だろう。
「あーもーええわ」
「えっ、やめるのかよ」
「だってわからんのやもん。最終的にテスト前に出しとけばいーんやろ? 時間置いたら出来とるやろ」
「お前なあ、3分クッキングやってるんじゃないんだぞ」
このパターンは知っている。まーたテスト前になって俺に集ろうとしてくるヤツだ。1年の最初の頃は純粋な善意で教えてたけど、秋学期には既にやりたい放題。2年春学期でヒロの人格と授業態度が劇的に良くなったということはないから、そういうことだ。
「ノサカ、サークル行こ」
「俺は終わってるからいいけど、今やらないと後から苦しくなるぞ」
「今でも後でも課題が楽しいことなんかないやん」
「この授業中だったらまだ教えてやれるけど」
「ノサカならいつだって大丈夫やよ。サークル行くよノサカ置いてくよ」
どうやら、よほどヒロは課題をやりたくないらしい。完全にスイッチがオフモード。いや、最初から入ってないんだろうけど。ヒロも結構授業をサボる方だし、既にサボった分の課題が山積みのはずなんだけど。マジで留年するぞ。
「そんでさ、台風やよ」
「ああ、何で夜にばかり来るのかって話な」
「ちょうど休講になるように来てほしいんやよ」
「そうは言うけど、休講なんてその場凌ぎでしかないぞ。どうせ後から補講になるんだ」
「補講はみんな来んやん」
「俺の経験則だけど、補講で結構あからさまにテスト対策とかやってるからな。何なら授業によっては通常回全部サボっても補講1回で何とかなるレベル」
「えっ、もっと早く言ってよ! は~、やっぱノサカケチやわ~」
大学では稀に授業が休講になることがある。理由としては教授の都合だとか、悪天候によるものが多い。台風なんかが来よう物なら大雨警報だの暴風警報だのが発令して一発で休講になる。ヒロはそれを狙っているのだろう。
ただ、休講情報なんてどうせ大学に行くために乗った電車の中とか、最悪の場合、授業始まらねーなって教室で座って待ってるときに連絡が来たりするから正直何でもいい。休みには休みたいし、授業は出来るうちにやっといてほしい。
「ノサカはオールSやからボクみたいな普通の人の気持ちはわからんのや」
「オールSは否定しないが強いて言えばお前は普通じゃなくて底辺だ」
「何やの、ヘンクツのクセに。これやから理系はアカンのやよ」
「お前も理系だけどな」
ただ授業に出たくないというだけで人のことをここまでボロクソに言えたものかと。まあ、言えるからヒロなのだ。正直この1年で耐性が結構ついた。今の俺はちょっとやそっとの暴言ではノーダメージだ。
「ゆーたらノサカだって休講になった方がええんちゃうの」
「意味がわからない」
「補講て大体土曜日やん。土曜日の1限か2限か知らんけど補講出といてそのまま学食でお昼食べて昼放送の収録に行けば菜月先輩を2時間も3時間も待たせんでえーやんね。ノサカ人としてどーかしとるから平気で遅刻するんやよ」
「ぐっ…! 一番痛いところを突きやがって…!」
正直、悪質オブ悪質な俺の遅刻癖のことを言われてしまえばもう黙るしかない。いや、一応言っておくけど俺の最長遅刻時間は162分で、まだギリギリ3時間には行ってない。ヒロはどうでもいいけど菜月先輩には非常に申し訳なく思ってるんだ、こう見えて。
確かにヒロの言うことは画期的ではあるんだよな。俺はヒロと違って真面目に補講にも出て来るから授業を終えてそのまま昼放送へ、というのは実に合理的でないかと。菜月先輩をお待たせすることもないだろうし。
「ノサカ、最近何か休講なった?」
「いや、最近は特になってなかったと思う」
「何やの、面白くないわ。台風来んかなあ」
「簡単に言うけど、災害になったらどうするんだ」
「災害にならん程度に休講になる台風来んかなあ、出来れば朝の6時から昼頃までの間に猛威奮うヤツ」
結局のところ講義は普通にあるし、そう簡単には休講にならない。日頃からの積み重ねが大事であることには違いないのだけど、ヒロにはそれが面倒なのだろう。俺は勉強が楽しいから、ヒロの言っていることは意味がわからない。
「多分りっちゃんとか菜月先輩ならわかってくれるわ。サークル着いたら聞いてみよう」
「お前、ピンポイントに授業出席率の低い面々を選んできたな……」
「りっちゃんと菜月先輩ならね、絶対ボクの味方やし絶対ノサカのことおかしいって言うよ!」
「残念ながらおかしいのはお前なんだよなあ」
end.
++++
昨年度から覚醒状態でしっかりしてるヒロの話が多かったので、たまには原点回帰でクズなヒロを。
そういやヒロってノサカに対してひっどいことばっかりやってるんですよね、生協のポイントカードで発行された割引券勝手に使ったりとか
りっちゃんと菜月さんだったら補講だの休講だの関係なく出るときは出るし出ないときは出ない上に、授業に出なくてもテストは己の力で何とかするんだよなあ
.
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「ノサカ、何で台風て夜にばっか来るん」
突然ヒロがワケのわからないことを言い始めた。これから本格的な夏を迎えると、台風もちょくちょく接近するようになるだろう。こないだもひとつ掠めていったけど、雷がヤバかったくらいで生活への影響は少なかったように思う。
4限の授業は授業時間の半分が講義で残り半分はプログラミング課題に取り組む時間だ。俺は早々に課題を終えているけど、ヒロは未だ手付かず状態。これが終わればサークルに行けるのだけど、この調子だと時間いっぱい使っても無理だろう。
「あーもーええわ」
「えっ、やめるのかよ」
「だってわからんのやもん。最終的にテスト前に出しとけばいーんやろ? 時間置いたら出来とるやろ」
「お前なあ、3分クッキングやってるんじゃないんだぞ」
このパターンは知っている。まーたテスト前になって俺に集ろうとしてくるヤツだ。1年の最初の頃は純粋な善意で教えてたけど、秋学期には既にやりたい放題。2年春学期でヒロの人格と授業態度が劇的に良くなったということはないから、そういうことだ。
「ノサカ、サークル行こ」
「俺は終わってるからいいけど、今やらないと後から苦しくなるぞ」
「今でも後でも課題が楽しいことなんかないやん」
「この授業中だったらまだ教えてやれるけど」
「ノサカならいつだって大丈夫やよ。サークル行くよノサカ置いてくよ」
どうやら、よほどヒロは課題をやりたくないらしい。完全にスイッチがオフモード。いや、最初から入ってないんだろうけど。ヒロも結構授業をサボる方だし、既にサボった分の課題が山積みのはずなんだけど。マジで留年するぞ。
「そんでさ、台風やよ」
「ああ、何で夜にばかり来るのかって話な」
「ちょうど休講になるように来てほしいんやよ」
「そうは言うけど、休講なんてその場凌ぎでしかないぞ。どうせ後から補講になるんだ」
「補講はみんな来んやん」
「俺の経験則だけど、補講で結構あからさまにテスト対策とかやってるからな。何なら授業によっては通常回全部サボっても補講1回で何とかなるレベル」
「えっ、もっと早く言ってよ! は~、やっぱノサカケチやわ~」
大学では稀に授業が休講になることがある。理由としては教授の都合だとか、悪天候によるものが多い。台風なんかが来よう物なら大雨警報だの暴風警報だのが発令して一発で休講になる。ヒロはそれを狙っているのだろう。
ただ、休講情報なんてどうせ大学に行くために乗った電車の中とか、最悪の場合、授業始まらねーなって教室で座って待ってるときに連絡が来たりするから正直何でもいい。休みには休みたいし、授業は出来るうちにやっといてほしい。
「ノサカはオールSやからボクみたいな普通の人の気持ちはわからんのや」
「オールSは否定しないが強いて言えばお前は普通じゃなくて底辺だ」
「何やの、ヘンクツのクセに。これやから理系はアカンのやよ」
「お前も理系だけどな」
ただ授業に出たくないというだけで人のことをここまでボロクソに言えたものかと。まあ、言えるからヒロなのだ。正直この1年で耐性が結構ついた。今の俺はちょっとやそっとの暴言ではノーダメージだ。
「ゆーたらノサカだって休講になった方がええんちゃうの」
「意味がわからない」
「補講て大体土曜日やん。土曜日の1限か2限か知らんけど補講出といてそのまま学食でお昼食べて昼放送の収録に行けば菜月先輩を2時間も3時間も待たせんでえーやんね。ノサカ人としてどーかしとるから平気で遅刻するんやよ」
「ぐっ…! 一番痛いところを突きやがって…!」
正直、悪質オブ悪質な俺の遅刻癖のことを言われてしまえばもう黙るしかない。いや、一応言っておくけど俺の最長遅刻時間は162分で、まだギリギリ3時間には行ってない。ヒロはどうでもいいけど菜月先輩には非常に申し訳なく思ってるんだ、こう見えて。
確かにヒロの言うことは画期的ではあるんだよな。俺はヒロと違って真面目に補講にも出て来るから授業を終えてそのまま昼放送へ、というのは実に合理的でないかと。菜月先輩をお待たせすることもないだろうし。
「ノサカ、最近何か休講なった?」
「いや、最近は特になってなかったと思う」
「何やの、面白くないわ。台風来んかなあ」
「簡単に言うけど、災害になったらどうするんだ」
「災害にならん程度に休講になる台風来んかなあ、出来れば朝の6時から昼頃までの間に猛威奮うヤツ」
結局のところ講義は普通にあるし、そう簡単には休講にならない。日頃からの積み重ねが大事であることには違いないのだけど、ヒロにはそれが面倒なのだろう。俺は勉強が楽しいから、ヒロの言っていることは意味がわからない。
「多分りっちゃんとか菜月先輩ならわかってくれるわ。サークル着いたら聞いてみよう」
「お前、ピンポイントに授業出席率の低い面々を選んできたな……」
「りっちゃんと菜月先輩ならね、絶対ボクの味方やし絶対ノサカのことおかしいって言うよ!」
「残念ながらおかしいのはお前なんだよなあ」
end.
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昨年度から覚醒状態でしっかりしてるヒロの話が多かったので、たまには原点回帰でクズなヒロを。
そういやヒロってノサカに対してひっどいことばっかりやってるんですよね、生協のポイントカードで発行された割引券勝手に使ったりとか
りっちゃんと菜月さんだったら補講だの休講だの関係なく出るときは出るし出ないときは出ない上に、授業に出なくてもテストは己の力で何とかするんだよなあ
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