2018
■立場も山もフラットに
++++
「源、ところでお前、何か特技とかってあるのか」
「特技、ですか?」
朝霞班に入れてもらって少し経った。3人の先輩に挨拶をして無事歓迎されたところで、ミキサーとして少しずつ活動を始めている。
俺に声をかけてくれたつばめ先輩は常にディレクターとしての仕事が出来る機動力が凄いし、アナウンサーの山口先輩は明るくて優しくてふわ~ってした感じが安心する。班長の朝霞先輩がいると、場の空気がビシッと締まる感じがする。
次にあるステージは8月上旬に丸の池公園で2日間にわたって行われる丸の池ステージと呼ばれるイベントだ。今はまだそのモードに入っていないそうだけど、朝霞先輩がそのモードに入ってからが本格始動とのこと。
「例えば、大工仕事が得意とか、手先が器用とか」
「大工仕事ですか。出来ないことはないですけど、それがどうかしたんですか?」
「ほら、ステージの大道具とか小道具っていうのは大体の班じゃDが作ったりしてるんだけど、ウチはそれを全員でやってる。ちなみに俺の後ろにあるこの道具の山の中にもステージで使った小道具がいくつかあるぞ。見てみるか」
「あっ、見たいです」
「ちょっとやめて朝霞サン! 山崩したら誰が築き直すと思ってんの!? タダでさえ狭いんだから!」
朝霞班のブースは2畳ちょっとくらいの狭い場所だ。それも今の部長から嫌がらせを受けた結果だそう。鎌ヶ谷班のブースと比べてもなんか、うん。あと、朝霞班のブースは物が多いしごちゃっとしてるなと思いました。
「あのねゲンゴロー、朝霞クンて片付けが苦手なんだよ~。だからいつも後ろの山に小道具とかレッドブルとか詰んでんだけど、それが崩れて大変なことになってんの」
「余計なこと吹きこんでんじゃねーぞ山口!」
「ゴメンね~。で、ゲンゴローの特技の話でしょ~?」
「あっ、そうだった。源、改めて特技をだな」
「えっと、小道具作りと裁縫が出来ます。演劇部の裏方でやってたので。大工仕事も簡単になら」
今にも朝霞先輩の背中の方から崩れ落ちそうな山の中にも、気になる物はちょいちょいある。俺ならこれはもっとこういう素材を作ってこうするかなあとか。
「うわー、言っちゃったゲンゴロー。勇気あるねアンタ」
「えっ、つばめ先輩何かマズかったですか!?」
「別に? 朝霞サンのムチャ振りが激しくなるってだけの話だから」
「ムチャ振りとは何だ。俺はステージに一切の妥協はしないし、お前たちにもさせるつもりはないぞ」
「わかったわかった」
「ちなみに源、これまで作った物がわかるような資料はあるか?」
「えっと、画像でいいですか?」
スマホをスイスイと操作して、フォルダで管理していた制作物の画像を表示して朝霞先輩に手渡す。その中には部活で作った物だけじゃなくて趣味でやってるコスプレで作った物も混ざってるけど、まあいいか! 俺が作った物ってことには違いないし。
「ほー……これはすごいな。この装甲や騎士の衣装もそうか?」
「そうですね。これは異世界トリップ系の舞台をやったときに作った鎧と衣装です」
「で、これは? スチームパンク系か」
「こっちはオン友のレイヤーさんに頼まれて作ったガスマスクと鳥マスクですね。なかなか上手く出来たんで気に入ってるんですよー!」
「レイヤー? コスプレの趣味があるのか」
「……あっ!」
画像を大きくしたり小さくしたりしながら、朝霞先輩はそれを食い入るように見ているのが怖すぎる…! 好きな物の話だったからついうっかりうっきうきで喋ってたけど、コスプレって一般的な趣味かと言えばそうじゃないだろうしな~、しまった~…!
「源」
「あっはいすみません何でもしますから許してくださ」
「素晴らしい!」
「えっ」
ダンッと机に手を打ち付け朝霞先輩が立ち上がった瞬間、背中の山がガシャーンと音を立てて崩れた。そんなことにはお構いなしで朝霞先輩は俺のスマホを手にキラキラした目をして迫って来るのだ。
「他にはどんな物を作れる? 世界観とか。ジャンルを問わず仕様書があれば作れるものなのか? いやー……これは凄い、本格的だ。なかなか出来ることじゃないぞ!」
「あ、ありがとうございます……」
「ちなみにファンフェスでは鳴尾浜の班で小道具を作ったりしたのか?」
「あんまりやらなかったですね、簡単なお手伝いくらいで」
「ぜひ朝霞班ではお前が主体となってやって欲しい。資金にはあまり恵まれないが、お前は大きな戦力だ。俺たちにもぜひ道具や衣装作りをビシバシ指導してほしい」
「えっ、そんな! 俺が先輩たちにビシバシだなんて恐れ多いです…!」
「何を言ってるんだ、この分野はお前が一番能力があるんだ。年の上下なんか関係ない。それぞれが持ち得る力を最大限発揮してこそ最高のステージに出来るんだ」
人が少ないからこそそれぞれの得意なことを最大限生かさなきゃいけないんだな。そういや初心者講習会でも聞いたっけ、いい物を作るにはみんなで主体的にって。うん、ミキサーがまだ下手な分小道具作りも頑張ろう。
「朝霞サン、演説はいいから崩したの直してくれる?」
「あっはい」
簡単な棚でも用意して少し収納スペースを作った方が良さそうだなあ。
end.
++++
朝霞Pは片付けが苦手だよ! 狭いところとか隅っこが大好きなので狭いブースでも特に不自由はしてないけど、如何せん汚い!
ゲンゴローの趣味バレ回です。この回は大体毎年朝霞Pがきゃっきゃしてるだけの話にもなりがち。夢が広がるね!
……そうね、簡単な大工仕事が出来るなら収納用品よね。朝霞Pがそういうの得意なはずだったんだけどな、登場当初は……いつのまに片付けが苦手になったんや……
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「源、ところでお前、何か特技とかってあるのか」
「特技、ですか?」
朝霞班に入れてもらって少し経った。3人の先輩に挨拶をして無事歓迎されたところで、ミキサーとして少しずつ活動を始めている。
俺に声をかけてくれたつばめ先輩は常にディレクターとしての仕事が出来る機動力が凄いし、アナウンサーの山口先輩は明るくて優しくてふわ~ってした感じが安心する。班長の朝霞先輩がいると、場の空気がビシッと締まる感じがする。
次にあるステージは8月上旬に丸の池公園で2日間にわたって行われる丸の池ステージと呼ばれるイベントだ。今はまだそのモードに入っていないそうだけど、朝霞先輩がそのモードに入ってからが本格始動とのこと。
「例えば、大工仕事が得意とか、手先が器用とか」
「大工仕事ですか。出来ないことはないですけど、それがどうかしたんですか?」
「ほら、ステージの大道具とか小道具っていうのは大体の班じゃDが作ったりしてるんだけど、ウチはそれを全員でやってる。ちなみに俺の後ろにあるこの道具の山の中にもステージで使った小道具がいくつかあるぞ。見てみるか」
「あっ、見たいです」
「ちょっとやめて朝霞サン! 山崩したら誰が築き直すと思ってんの!? タダでさえ狭いんだから!」
朝霞班のブースは2畳ちょっとくらいの狭い場所だ。それも今の部長から嫌がらせを受けた結果だそう。鎌ヶ谷班のブースと比べてもなんか、うん。あと、朝霞班のブースは物が多いしごちゃっとしてるなと思いました。
「あのねゲンゴロー、朝霞クンて片付けが苦手なんだよ~。だからいつも後ろの山に小道具とかレッドブルとか詰んでんだけど、それが崩れて大変なことになってんの」
「余計なこと吹きこんでんじゃねーぞ山口!」
「ゴメンね~。で、ゲンゴローの特技の話でしょ~?」
「あっ、そうだった。源、改めて特技をだな」
「えっと、小道具作りと裁縫が出来ます。演劇部の裏方でやってたので。大工仕事も簡単になら」
今にも朝霞先輩の背中の方から崩れ落ちそうな山の中にも、気になる物はちょいちょいある。俺ならこれはもっとこういう素材を作ってこうするかなあとか。
「うわー、言っちゃったゲンゴロー。勇気あるねアンタ」
「えっ、つばめ先輩何かマズかったですか!?」
「別に? 朝霞サンのムチャ振りが激しくなるってだけの話だから」
「ムチャ振りとは何だ。俺はステージに一切の妥協はしないし、お前たちにもさせるつもりはないぞ」
「わかったわかった」
「ちなみに源、これまで作った物がわかるような資料はあるか?」
「えっと、画像でいいですか?」
スマホをスイスイと操作して、フォルダで管理していた制作物の画像を表示して朝霞先輩に手渡す。その中には部活で作った物だけじゃなくて趣味でやってるコスプレで作った物も混ざってるけど、まあいいか! 俺が作った物ってことには違いないし。
「ほー……これはすごいな。この装甲や騎士の衣装もそうか?」
「そうですね。これは異世界トリップ系の舞台をやったときに作った鎧と衣装です」
「で、これは? スチームパンク系か」
「こっちはオン友のレイヤーさんに頼まれて作ったガスマスクと鳥マスクですね。なかなか上手く出来たんで気に入ってるんですよー!」
「レイヤー? コスプレの趣味があるのか」
「……あっ!」
画像を大きくしたり小さくしたりしながら、朝霞先輩はそれを食い入るように見ているのが怖すぎる…! 好きな物の話だったからついうっかりうっきうきで喋ってたけど、コスプレって一般的な趣味かと言えばそうじゃないだろうしな~、しまった~…!
「源」
「あっはいすみません何でもしますから許してくださ」
「素晴らしい!」
「えっ」
ダンッと机に手を打ち付け朝霞先輩が立ち上がった瞬間、背中の山がガシャーンと音を立てて崩れた。そんなことにはお構いなしで朝霞先輩は俺のスマホを手にキラキラした目をして迫って来るのだ。
「他にはどんな物を作れる? 世界観とか。ジャンルを問わず仕様書があれば作れるものなのか? いやー……これは凄い、本格的だ。なかなか出来ることじゃないぞ!」
「あ、ありがとうございます……」
「ちなみにファンフェスでは鳴尾浜の班で小道具を作ったりしたのか?」
「あんまりやらなかったですね、簡単なお手伝いくらいで」
「ぜひ朝霞班ではお前が主体となってやって欲しい。資金にはあまり恵まれないが、お前は大きな戦力だ。俺たちにもぜひ道具や衣装作りをビシバシ指導してほしい」
「えっ、そんな! 俺が先輩たちにビシバシだなんて恐れ多いです…!」
「何を言ってるんだ、この分野はお前が一番能力があるんだ。年の上下なんか関係ない。それぞれが持ち得る力を最大限発揮してこそ最高のステージに出来るんだ」
人が少ないからこそそれぞれの得意なことを最大限生かさなきゃいけないんだな。そういや初心者講習会でも聞いたっけ、いい物を作るにはみんなで主体的にって。うん、ミキサーがまだ下手な分小道具作りも頑張ろう。
「朝霞サン、演説はいいから崩したの直してくれる?」
「あっはい」
簡単な棚でも用意して少し収納スペースを作った方が良さそうだなあ。
end.
++++
朝霞Pは片付けが苦手だよ! 狭いところとか隅っこが大好きなので狭いブースでも特に不自由はしてないけど、如何せん汚い!
ゲンゴローの趣味バレ回です。この回は大体毎年朝霞Pがきゃっきゃしてるだけの話にもなりがち。夢が広がるね!
……そうね、簡単な大工仕事が出来るなら収納用品よね。朝霞Pがそういうの得意なはずだったんだけどな、登場当初は……いつのまに片付けが苦手になったんや……
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