2018
■愉快なアシスタントたちの戯言
++++
「それじゃあ、これからアナウンサー講習を始めます。担当するのは青葉女学園大学ABCのヒビキこと加賀郷音です。よろしくお願いしまーす」
初心者講習会も折り返し。午前は全体講習と見本番組をやって、お昼ご飯も食べた。午後からはアナウンサーとミキサーに分かれてそれぞれに少し突っ込んだ講習を行っていくことになる。
うちや圭斗が懸念していた三井の乱入ということも現時点では特になく、至極平和に講習会は続いている。最初に全体講習をやった教室では伊東の担当するミキサー講習が、そしてその隣の教室でアナウンサー講習が行われている。
うちは去年、対策委員としてアナウンサー講習を聞いていた。今年も教室の横に対策委員の席という物が設置されていて、そこでゆっくりと講習を聞こうと思ってましたよね。ヒビキがどんな講習をするのかなーってさ。
「ちょっと菜月、何でそんなトコにいんの」
「えっ」
「アシスタントアシスタント! ほら、こっちこっち」
「えっ!?」
問答無用で教壇に上がらされ、アシスタントのなっちでーすと紹介されると素直な1年生たちが拍手をするじゃないか。うう、こんなに注目を浴びるなんて慣れてないし恥ずかしいし死んでしまうかもしれない。
「それじゃあ、ここからはアナウンサーの技術的なことを少し突っ込んでやってきまーす。技術っていうと――あっ菜月ゴメンプリント配ってくれる?」
「はい」
ヒビキが作ってきた資料を配っていると、何か本格的な講義をやっている雰囲気がすごい。いや、普通に簡易レジュメを配って板書までやりながら全体講習をやってたうちが言うなって感じかもしれないけど。
どこぞの勘違い野郎は青女は品がないだの不潔だのと言いたい放題だけど、立ち振る舞いに関してはやっぱり天下の青女だと思う。マイクの前に座る上での姿勢の解説にしても、講習をしているヒビキの背筋がピンと伸びていて説得力が強い。
「あ、菜月ゴメン、マイクスタンド立ててくれる?」
「はい」
「で、ちょっと前に座って」
「うちがか!?」
「言葉で説明するよりモデルがあった方がわかりやすいから。はい、座った座った」
「え~……」
言われるがままにマイクスタンドを自分で立てて、番組をやるように座る。そんなうちを人形のように動かしながら、ヒビキは講習を続けている。と言うか、スタンド使うなら最初から立てておけばよかったのに。いや、いいけど。
「菜月、顎上げて」
「こうか?」
「そう。これ、悪い見本ねー。写真撮るときも陥りがちな罠だけど、顎は基本引くー。クッと引く」
「クッ」
「そう、この形をキープでマイクとの距離はさっき菜月が言ってたゲンコ1コ分ー」
確かに突っ込んだ講習は有り難いけど、モデルのうちは現時点ですでに結構疲れている。と言うか、うちは2日前まで来る予定じゃなかったけど、うちがいなければ対策委員の誰かがこの役割を担うことになっていたのだろうか。
「それじゃあ次、発声練習ー! それじゃあ菜月のお手本を」
「講師、お手本ならうちだけじゃなくてあそこで余裕をぶっこきながら高みの見物キメてる向島大学放送サークルMMP代表会計にして愛とロマンに溢れるトークを得意とするアナウンサーの定例会議長サマを使えばいいと思うんだ」
「ん、菜月さん何てことを」
そう、実はこの講習会には定例会議長という体で圭斗も覗きに来ていたのだ。で、圭斗はアナだからアナウンサー講習でも聞いとけば、と今後のMMPのことも考えて来させてたんだけど。ま~あさっきからうちのことをチラッチラ見てはご愁傷様、みたいな感じで小馬鹿にした笑みを投げつけて来やがってだなあ。
「1年生たち、定例会議長の本気が見たいか。見たい子は拍手」
「あっ、圧倒的。それじゃあ圭斗、前に来ようか」
ざまあみろ。現時点では定例会議長よりも初心者講習会の全体講習講師の方が強いんだぞ! とりあえず、今後の定例会の沽券じゃないけど、好き勝手に権力を振りかざしたいならある程度の説得力は必要だろう。
「それじゃあ、まずは前の3年生がお手本やるし、みんなはその後に続く感じでやってみましょう! この練習はラジオもステージも関係ないからねー!」
ヒビキ主導で始まる腹式呼吸の話からの発声練習。最近はMMPでも発声はご無沙汰だったから、ある種の懐かしささえ覚える。淡々とこなす練習メニュー。ヒビキは教室を回りながら1年生たちに檄を飛ばす。
そして発声メニューをこなしていて気付く、隣から伝わる声の圧がいつもとは断然違うということに。屋内と屋外の違いもあるかもしれないけど、それだけやれるならいつもやれという気持ちでいっぱいだ。
「はい、それじゃあ声の出し方を体に叩き込んだところで次に行きまーす」
「それじゃあ僕はここで」
「何言ってんの圭斗。まだ仕事は残ってるからね」
「ん、菜月さんがいるだろう?」
「意味が分からない」
「はい、次行きまーす」
うちも含めてやいやいとウルサいガヤの扱いも天下の青女だ。と言うか、今日に限っては2年生だけじゃなくてうちと圭斗も青女の愉快な下僕と化していたということに気付いたのはしばらくしてからのこと。いや、アナウンサー講習はとてもためになりましたよ? ホントダヨー。
end.
++++
アナウンサー講習の話は多分初めてやっているかと思います。ヒビキと愉快なアシスタントたちです。
確かに菜月さんに事前に話が伝わっていなかった点を考えると、アシスタントを使おうと思い立ったのは直前である可能性すらありますね
菜圭がきゃいきゃい漫才みたいなことをやってるのをヒビキがツッコむ……さぞ賑やかで楽しかろうて
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「それじゃあ、これからアナウンサー講習を始めます。担当するのは青葉女学園大学ABCのヒビキこと加賀郷音です。よろしくお願いしまーす」
初心者講習会も折り返し。午前は全体講習と見本番組をやって、お昼ご飯も食べた。午後からはアナウンサーとミキサーに分かれてそれぞれに少し突っ込んだ講習を行っていくことになる。
うちや圭斗が懸念していた三井の乱入ということも現時点では特になく、至極平和に講習会は続いている。最初に全体講習をやった教室では伊東の担当するミキサー講習が、そしてその隣の教室でアナウンサー講習が行われている。
うちは去年、対策委員としてアナウンサー講習を聞いていた。今年も教室の横に対策委員の席という物が設置されていて、そこでゆっくりと講習を聞こうと思ってましたよね。ヒビキがどんな講習をするのかなーってさ。
「ちょっと菜月、何でそんなトコにいんの」
「えっ」
「アシスタントアシスタント! ほら、こっちこっち」
「えっ!?」
問答無用で教壇に上がらされ、アシスタントのなっちでーすと紹介されると素直な1年生たちが拍手をするじゃないか。うう、こんなに注目を浴びるなんて慣れてないし恥ずかしいし死んでしまうかもしれない。
「それじゃあ、ここからはアナウンサーの技術的なことを少し突っ込んでやってきまーす。技術っていうと――あっ菜月ゴメンプリント配ってくれる?」
「はい」
ヒビキが作ってきた資料を配っていると、何か本格的な講義をやっている雰囲気がすごい。いや、普通に簡易レジュメを配って板書までやりながら全体講習をやってたうちが言うなって感じかもしれないけど。
どこぞの勘違い野郎は青女は品がないだの不潔だのと言いたい放題だけど、立ち振る舞いに関してはやっぱり天下の青女だと思う。マイクの前に座る上での姿勢の解説にしても、講習をしているヒビキの背筋がピンと伸びていて説得力が強い。
「あ、菜月ゴメン、マイクスタンド立ててくれる?」
「はい」
「で、ちょっと前に座って」
「うちがか!?」
「言葉で説明するよりモデルがあった方がわかりやすいから。はい、座った座った」
「え~……」
言われるがままにマイクスタンドを自分で立てて、番組をやるように座る。そんなうちを人形のように動かしながら、ヒビキは講習を続けている。と言うか、スタンド使うなら最初から立てておけばよかったのに。いや、いいけど。
「菜月、顎上げて」
「こうか?」
「そう。これ、悪い見本ねー。写真撮るときも陥りがちな罠だけど、顎は基本引くー。クッと引く」
「クッ」
「そう、この形をキープでマイクとの距離はさっき菜月が言ってたゲンコ1コ分ー」
確かに突っ込んだ講習は有り難いけど、モデルのうちは現時点ですでに結構疲れている。と言うか、うちは2日前まで来る予定じゃなかったけど、うちがいなければ対策委員の誰かがこの役割を担うことになっていたのだろうか。
「それじゃあ次、発声練習ー! それじゃあ菜月のお手本を」
「講師、お手本ならうちだけじゃなくてあそこで余裕をぶっこきながら高みの見物キメてる向島大学放送サークルMMP代表会計にして愛とロマンに溢れるトークを得意とするアナウンサーの定例会議長サマを使えばいいと思うんだ」
「ん、菜月さん何てことを」
そう、実はこの講習会には定例会議長という体で圭斗も覗きに来ていたのだ。で、圭斗はアナだからアナウンサー講習でも聞いとけば、と今後のMMPのことも考えて来させてたんだけど。ま~あさっきからうちのことをチラッチラ見てはご愁傷様、みたいな感じで小馬鹿にした笑みを投げつけて来やがってだなあ。
「1年生たち、定例会議長の本気が見たいか。見たい子は拍手」
「あっ、圧倒的。それじゃあ圭斗、前に来ようか」
ざまあみろ。現時点では定例会議長よりも初心者講習会の全体講習講師の方が強いんだぞ! とりあえず、今後の定例会の沽券じゃないけど、好き勝手に権力を振りかざしたいならある程度の説得力は必要だろう。
「それじゃあ、まずは前の3年生がお手本やるし、みんなはその後に続く感じでやってみましょう! この練習はラジオもステージも関係ないからねー!」
ヒビキ主導で始まる腹式呼吸の話からの発声練習。最近はMMPでも発声はご無沙汰だったから、ある種の懐かしささえ覚える。淡々とこなす練習メニュー。ヒビキは教室を回りながら1年生たちに檄を飛ばす。
そして発声メニューをこなしていて気付く、隣から伝わる声の圧がいつもとは断然違うということに。屋内と屋外の違いもあるかもしれないけど、それだけやれるならいつもやれという気持ちでいっぱいだ。
「はい、それじゃあ声の出し方を体に叩き込んだところで次に行きまーす」
「それじゃあ僕はここで」
「何言ってんの圭斗。まだ仕事は残ってるからね」
「ん、菜月さんがいるだろう?」
「意味が分からない」
「はい、次行きまーす」
うちも含めてやいやいとウルサいガヤの扱いも天下の青女だ。と言うか、今日に限っては2年生だけじゃなくてうちと圭斗も青女の愉快な下僕と化していたということに気付いたのはしばらくしてからのこと。いや、アナウンサー講習はとてもためになりましたよ? ホントダヨー。
end.
++++
アナウンサー講習の話は多分初めてやっているかと思います。ヒビキと愉快なアシスタントたちです。
確かに菜月さんに事前に話が伝わっていなかった点を考えると、アシスタントを使おうと思い立ったのは直前である可能性すらありますね
菜圭がきゃいきゃい漫才みたいなことをやってるのをヒビキがツッコむ……さぞ賑やかで楽しかろうて
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