2017(04)

■旅のしおりは書きこみ式で

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「うう……圭斗先輩、どうか俺を嗤ってください」
「どうしたんだい野坂」

 突然野坂が僕に連絡を入れてきた。かなり逼迫したような感じだったね。野坂だし、それはもう大変なことだと思うじゃないか。僕は鬼じゃない。後輩からのヘルプにはまあ答えてもいいかなとは思っていたんだよ。

「もうすぐ、対策委員で春の番組制作会が行われるのですが」
「ああ、そういう時期だね。対策委員としてのラストスパートだね」
「はい、それでダブルトークのことについてヒロと一緒に高崎先輩に聞きに行ったりもして、準備をしていたんです」
「へえ、それは随分と本格的だね。それで?」
「ええ、高崎先輩からの講習はとても身になりました。それを持ち帰って練習や理論の構築を繰り返していたのですが、教材としていただいた高崎先輩と菜月先輩の番組を……ああ、去年のファンフェスの物なのですが。それを聞いているうちについうっかり俺が保管していた1年半分の昼放送のディスクに手を出してしまい」

 まあ、途中まではちゃんと聞いてやっていたね。だけど、何か長たらしく言っていたけど要約すれば「菜月先輩に会ってなさ過ぎて死ぬ」的なことだったんだから相変わらずどうしようもない犬だぜ!

「追いコンでお会いして以来になりますし、次に菜月先輩とお会いできるのも卒業式の日であることを考えるとあまりにその期間が長すぎて…!」
「番組制作会のことで気を紛らわせばいいんじゃないかい」
「制作会のことをやっていた結果のぶり返しです、フラッシュバックです!」
「……野坂、お前は確か冬休みに短期バイトをしていたね」
「はい、スーパーの鮮魚コーナーで少し。それが何か」
「今現在に至るまでに大きな買い物はしたか?」
「いえ、特に」

 そしてスマートフォンを見る。調べる物を調べた後にアドレス帳を開いて、立ち上げる物を立ち上げる。

「……ああ、もしもし、僕だよ。ところで、3月の4日から6日辺りはどうしてる? ああ、うん、そうだろうね。そうじゃないんだよ。こっちで今、主人が戻らないと忠犬が鳴いていてね。都合が良ければそっちに行こうかと思うんだよ」
「あの、圭斗先輩?」
「それじゃあ、そういうことで。細かい待ち合わせについてはまた後で」
「圭斗先輩、あの、今のお電話は!」
「お前に足りないのはこういう勢いだと思わないかい。3月4日から6日、2泊3日の日程で緑風旅行に行くことにしました。お前は強制参加だよ」
「ナ、ナンダッテー!?」
「現地で菜月さんと落ち合って、どこかいいところにでも案内してもらおう。えーと、宿だね。ポチッとな。はい、ホテルの予約も出来ました」
「圭斗先輩の行動力が神過ぎて……」

 それでなくても野坂は正月にもらえるお年玉の金額が多すぎて引くとは神崎が言っていたし、バイトをしていて散財もしていないなら突発的な小旅行くらい耐えられるだろうと。言ってしまえば日帰りでも行ける距離だ。
 電話越しの菜月さんの様子を感じる限りでは、実家では就活のことが主になっていてしんどくなり始めていたような雰囲気。だから主人と忠犬、そのどちらにもいい風に働くだろうね。そして僕は美味しい物を食べてお酒を仕入れる。完璧じゃないか。
 すると、菜月さんからメールが入って来る。「3月5日だったら店でだって堂々と飲めるけど、どうするつもりなんだ」と。その意味が一瞬分からなかったけど、少ししてわかった。さすが菜月さん、人の誕生日を覚えるのは得意な方だ。

「圭斗先輩、ちなみに何で行かれるのでしょうか。電車とかバスとか」
「車に決まってるじゃないか」
「車という密室で何時間も…!? どうしよう圭斗先輩のお車の助手席で寝てしまうだなんて失礼なことがあったりでもしたら…!」
「ん、デフォルトだろう? 気張らずにいてもらった方がありがたいね。道中向島以外のサービスエリアで菜月さんにお土産を買って行こう」
「そうしましょう! うわ~、楽しみやら緊張やらで心臓がどうにかなる」

 本当に、主人に会えると犬がきゃっきゃとしっぽを振っているように見えるんだから野坂は可愛いところがある。ただ、僕に対しては異様にオーバーなのが時々困るんだけれども。

「圭斗先輩圭斗先輩、持ち物などは何があればよろしいでしょうか!」
「ん、遠足のしおりが必要なのかな?」


end.


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今年は番組制作会のことでわーってなってるから菜月さん欠乏症には陥らないかなと思っていたら、どころがどっこい。安定のノサカである。
ただ、今年は圭斗さんがムリヤリノサカを引っ張っていくような、そんなイメージ。ヤケクソとも言う。それだけノサカがめんどくさかったんやろなあ……
どうやら旅の道中でノサカの誕生日を跨ぐ様子。ナノスパ的にも持ち上がりを見せるといいのだけど。

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