2017(04)

■あざとさスウィート

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「朝霞クン、お豆腐食べる?」
「ああ」
「はいどうぞ」
「ありがとう」

 それぞれの趣味の場所を巡るツアーが終わって、夕飯時。寒かったし、ノリと勢いで鍋をすることに。当然、場所は唯一の下宿生である俺の部屋。メニューは湯豆腐(と言う名の雑多な鍋)だ。嫌いじゃないけど得意でもない。
 ここで言う得意不得意というのは好き嫌いという意味じゃない。俺は猫舌で、これまでも豆腐には殺され続けてきた。よそってもらった豆腐を箸で切り、しばらく放置。ここで俺は台所に立ち、器をもう1枚持ってくるのだ。

「どうした朝霞」
「豆腐はしばらく放置しないと食えないんだ。だからこう、食う用の器と冷ます用の器があったら便利かなって」
「ほう、猫舌か」
「そうなんだよ。それに、俺食うのが遅いからただ待ってると食いっぱぐれて」

 鍋は好きなんだけど、猫舌故にあまりいいペースでは食べられない。それで周りの人に不思議そうに見られることは多々。それに、食うのが遅いから小食だと思われがちだ。でも実際は結構食う方だと思う。
 リン君が淡々と食べているのを見ているといいなあと思う。やっぱり、熱い物は熱いうちに食った方が美味いだろうから。今も、空になったリン君の器にミーナがこんもりと野菜や肉をよそって手渡す。

「確かにお前は昼も食うのが遅かったな」
「一口が小さいから女子っぽいとはよく言われる」
「いや、いくら女子でもそこまでではなかろう。お前に女子っぽいと言う奴は女に幻想を見ているのだろう」
「うわ、バッサリ」

 先によそってもらった方の豆腐がきっといい具合に冷めたであろう頃合いを狙っていただきます。ある程度冷めているとは言っても、ふーふーするのは忘れない。それを見て女子たちが「あざとい」とポツリ。

「普段があんななのにお鍋のときはこんなにかわいいとかギャップ萌えってヤツ!?」
「……確かに、プリンが好きなのも……」
「プリン好きなのもかわいいよねえ!」

 飯を食ってるときは喋りたくないからそれを黙って見ているんだけど、本当に好き勝手言い過ぎだろう。別にかわいさを狙ってるとかそういうことではないし。プリンは老若男女問わず美味いだろう。いや、嫌いな人もいるかもしれないけど。

「オレもドーナツは甘い物を好むぞ」
「あ、そうなんだ。チョコレートとか?」
「いや、ハニーグレーズのかかった物が好きでな。それをミルクティーと合わせて食うのが美味い」
「リン君て甘いの好きなんだね」
「砂糖菓子が好きだな。飴や金平糖などだな」

 喋っている間に次の器が冷めた。それを食いながらデザート談義を聞いている。リン君は砂糖菓子のような物が好きで、伏見は甘いものなら割と何でも好きだけどシュークリームが好きだとか。ミーナは甘いものが食べられないそうだ。
 ほら、別にプリンが好きだからあざといなんていうことはないし、一口の大きさだって人それぞれなんだと言い張るぞ俺は。そして気付けば次の器にはうどんがスタンバイしている。麺類も豆腐同様猫舌殺しだとは言っておこう。

「朝霞クン、今日は趣味のお店を回るツアーだったんだから、プリンのお店にも寄ったらよかったんじゃない? 割と近いところにあったはずだし」
「いや、俺の都合でいろんな店に寄り道したし、そもそもそういう発想がなかった。スイーツ巡りの趣味は一応ないし」
「でも、バレンタインの日はクリームブリュレを食べに行ってたんでしょ…!?」
「そりゃたまには美味い物を食いに出かけることくらいあるだろ。いや、お前の誘いを断ったのは悪いと思ってるけど、ブリュレを食いに行くことの何が悪いのかと」
「悪いとは言ってません! それに先約があったならしょうがないし次の日会ってくれたので問題ないです!」
「伏見、お前何怒ってんだ?」

 伏見からバレンタインという体でもらったチョコレートは部屋の中でも温度変化の少なそうな場所に置いてある。鍋をやるから部屋の温度が結構上がってしまうだろうと踏んで、今は台所にある。本当は14日に連絡をもらってたんだけど、その日はちょうど山口との約束があったから断っていたんだ。

「朝霞クンなんて器間違えて豆腐で「あちっ!」てなっちゃえ!」
「なんだそれ」
「美奈、これは痴話喧嘩でいいか?」
「……問題ない」


end.


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やっつけの湯豆腐回。朝霞Pにお豆腐を食べて欲しかったというだけのヤツです。
女子からあざといと言われてちょっとムッとしている様子の朝霞Pをさりげなくフォローするリン様、きっと情報センターで鍛えられてんだな
そしてやっぱり痴話喧嘩でまとめられてしまう掛け合いである。ふしみんがんばれ!

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