2026
■窓際のてるてる坊主
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「おはようございまーす。越野、何やってるの?」
「おーす大石。見ての通り、てるてる坊主作ってんだよ」
事務所の窓につり下げられたてるてる坊主には、越野の切実な願いがこもっている。ここのところ、秋雨前線と台風の影響で向島エリアは雨続きだ。おかげで気温が下がったのはとてもありがたかったんだけど、これでB棟1階が水浸しになるという問題が発生し続けている。
お盆を過ぎればウチの会社は繁忙期に入る。どんな状況でも作業を止めることは出来ないので、ここ最近では出荷作業をしているすぐ横で越野が水掃きをしているという状況だ。そうでもしないと歩く場所もないし、大事な仕事ではあるけど越野的にはそろそろしんどいらしい。
「越野」
「はい」
「行くぞ」
「はいっ」
塩見さんに呼び出されて越野は行ってしまった。きっとこれから水掃きを、と思ったけど、新倉庫方面に向かってるなあ。B棟1階の水掃きじゃないのかなあ。俺も窓から雨の様子を見てるけど、てるてる坊主はまだまだ飾りだなあ。あ、よく見たら顔が描いてある。これ、所長かな。特徴をよく捉えてるなあ。
少しすると、新倉庫方面からゆっくりとフォークリフトがやってきた。その横を塩見さんが歩いている。どうやら運転しているのは越野で、今このタイミングでフォークリフトの練習なのかな、と少し不思議に思って事務所のドアを開いて様子を窺う。
「千景、余裕があるならお前も少し付き合え」
「はい。これ、何が始まるんですか?」
「この雨で例によってB棟1階がやられてるんだが、今日は水掃きと並行してたら間に合わねえ出荷量だから、突貫で作業台と歩道を作る。それをリフトの練習がてら越野にやらせる」
「えっ、今日ってそんなに酷いんですか水。冷風機つけてこなきゃ」
「冷風機はさっきつけてきた」
「ありがとうございます」
俺の主な仕事は、越野がリフトを走らせることで生まれる波を処理すること。今乾いているところを濡らさないように、人のある歩く場所の安全を確保出来るようにしないといけない。それと、冷風機がついているとは言え雨は降り続いているから、水そのものを減らすこと。
B棟1階は湿気が溜まりやすくて、少しまとまった雨が降るとすぐに水浸しになってしまう。その湿気が原因で製品がカビてしまったこともある。だから2階に置いてある冷風機を除湿器代わりに就業時間中はフル回転させているし、工業扇だって24時間稼働しっぱなしだ。まあ、それでも間に合ってないんだけど。
「越野、そしたらここのプラパレを5枚抱えてB棟方面に」
「はい」
「千景は先に行って、1滴でも多く水を減らしといてくれ」
「はい」
ワイパーとバケツ、雑巾、ちりとりなどの水掃きセットを持って一足早くB棟1階へ。うわあ。確かに今日はいつにも増して水溜まりが大きい。水溜まりって言うよりこれはもう浅い池だね。小さい魚が棲んでても全然おかしくない。
「あっ大石君! お願いします!」
「はーい、やってきまーす」
俺は同じB棟の担当だから、1階の水掃きに関しても持ちつ持たれつで勝手知ったる作業。簡易の作業台をどの辺りに作るのかを確認して、まずはリフトが来ることで影響がありそうな場所の水を汲み出していく。って言うか、そろそろここにも文明の光が届かないかなあ。
そうこうしている間に、パレットを抱えたリフトがゆっくりゆっくりやってきた。越野も少しずつリフトに乗る練習はしてたみたいだけど、今回は水で濡れた路面の走行だからより慎重にやってるみたいだ。横では塩見さんが指示を出している。こうやって指導を受ける感じがちょっと懐かしい。
「高井さん、あのパレットの上で作業していく感じですか?」
「うん。今日は床に直置き出来ないし、出荷量が多いからこうでもしないと。あー、マジでそろそろ業務用掃除機欲しー! 直に水吸えたら強くない!? 絶対費用対効果バツグンだろって!」
「直に水を吸えたら強いですねー」
……と言いながら、雑巾とちりとりで水を集めているので何だかなあという感じはする。今は言われるままにアナログな道具で地道にやっている水掃きの作業だけど、この水溜まりを効率よく処理する方法に生かせる理論なんかは探してみてもいいかもしれない。学歴の使いどころは多分こういうところ。
「あっいた。越野さーん」
「内山、悪いが越野はしばらく手が離せねえ。机の上での作業なら圭佑に回してくれ」
「わかりましたー」
パートさんが出勤するまでに、作業台を粗方作ってしまわないといけない。だから越野に用事があったっぽい内山さんを事務所に返したんだろうけど、速さだけを考えるなら塩見さんや俺がやった方がいいんだよね。うーん、これもやっぱり実務経験っていう点なのかな。濡れた路面上での作業って状況は特殊だからね。
「水掃きはやっぱり大石君が最強だわ~! 大石君に2階の仕事がなきゃ一生手元に置いとくのに!」
「2階の仕事が終わったらまた降りてきますよ」
「本当? 助かる~」
「まあ、A棟の仕事は人材さんもいるんで多少はね、っていう気持ちなんですけどマズいですかね? 俺も社員だし、今日くらいの出荷量ならB棟優先でいいよねの気持ちと言うか」
「そう! そういうこと! 社員としての判断! 社員は社員でもみんなA棟に夢中でB棟は二の次! それどころかやれ作業場所を寄越せだのやれ在庫を置かせろって搾取の対象! 俺たちだけは常日頃から支え合っていこうね大石君!」
俺は今のところそこまで酷い目に遭ったことがないけど、1階の方がやっぱり利便性という意味やリフトの走りやすさの観点から攻められやすくなっちゃうんだろうなあ。
「あっそうだ。雨の季節とダウンの季節を抜けたら高井さんに手伝ってもらいたいことがあるんですけど、今から予約していいですか?」
「いいよ、言ってみて」
「2階の模様替えをするのに、棚を動かしたいんですよね。高井さんの力があれば、頼もしいなあと」
「得意得意。任せといて。雨の季節を無事に抜けられたらね」
end.
++++
ここ最近の雨の降り方が大変過ぎてこの話が若干不謹慎になりそうなそんなこんな。
高井さんの中でこっしーも水掃き強キャラなんだろうけど、やっぱちーちゃんが最強。
(phase3)
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「おはようございまーす。越野、何やってるの?」
「おーす大石。見ての通り、てるてる坊主作ってんだよ」
事務所の窓につり下げられたてるてる坊主には、越野の切実な願いがこもっている。ここのところ、秋雨前線と台風の影響で向島エリアは雨続きだ。おかげで気温が下がったのはとてもありがたかったんだけど、これでB棟1階が水浸しになるという問題が発生し続けている。
お盆を過ぎればウチの会社は繁忙期に入る。どんな状況でも作業を止めることは出来ないので、ここ最近では出荷作業をしているすぐ横で越野が水掃きをしているという状況だ。そうでもしないと歩く場所もないし、大事な仕事ではあるけど越野的にはそろそろしんどいらしい。
「越野」
「はい」
「行くぞ」
「はいっ」
塩見さんに呼び出されて越野は行ってしまった。きっとこれから水掃きを、と思ったけど、新倉庫方面に向かってるなあ。B棟1階の水掃きじゃないのかなあ。俺も窓から雨の様子を見てるけど、てるてる坊主はまだまだ飾りだなあ。あ、よく見たら顔が描いてある。これ、所長かな。特徴をよく捉えてるなあ。
少しすると、新倉庫方面からゆっくりとフォークリフトがやってきた。その横を塩見さんが歩いている。どうやら運転しているのは越野で、今このタイミングでフォークリフトの練習なのかな、と少し不思議に思って事務所のドアを開いて様子を窺う。
「千景、余裕があるならお前も少し付き合え」
「はい。これ、何が始まるんですか?」
「この雨で例によってB棟1階がやられてるんだが、今日は水掃きと並行してたら間に合わねえ出荷量だから、突貫で作業台と歩道を作る。それをリフトの練習がてら越野にやらせる」
「えっ、今日ってそんなに酷いんですか水。冷風機つけてこなきゃ」
「冷風機はさっきつけてきた」
「ありがとうございます」
俺の主な仕事は、越野がリフトを走らせることで生まれる波を処理すること。今乾いているところを濡らさないように、人のある歩く場所の安全を確保出来るようにしないといけない。それと、冷風機がついているとは言え雨は降り続いているから、水そのものを減らすこと。
B棟1階は湿気が溜まりやすくて、少しまとまった雨が降るとすぐに水浸しになってしまう。その湿気が原因で製品がカビてしまったこともある。だから2階に置いてある冷風機を除湿器代わりに就業時間中はフル回転させているし、工業扇だって24時間稼働しっぱなしだ。まあ、それでも間に合ってないんだけど。
「越野、そしたらここのプラパレを5枚抱えてB棟方面に」
「はい」
「千景は先に行って、1滴でも多く水を減らしといてくれ」
「はい」
ワイパーとバケツ、雑巾、ちりとりなどの水掃きセットを持って一足早くB棟1階へ。うわあ。確かに今日はいつにも増して水溜まりが大きい。水溜まりって言うよりこれはもう浅い池だね。小さい魚が棲んでても全然おかしくない。
「あっ大石君! お願いします!」
「はーい、やってきまーす」
俺は同じB棟の担当だから、1階の水掃きに関しても持ちつ持たれつで勝手知ったる作業。簡易の作業台をどの辺りに作るのかを確認して、まずはリフトが来ることで影響がありそうな場所の水を汲み出していく。って言うか、そろそろここにも文明の光が届かないかなあ。
そうこうしている間に、パレットを抱えたリフトがゆっくりゆっくりやってきた。越野も少しずつリフトに乗る練習はしてたみたいだけど、今回は水で濡れた路面の走行だからより慎重にやってるみたいだ。横では塩見さんが指示を出している。こうやって指導を受ける感じがちょっと懐かしい。
「高井さん、あのパレットの上で作業していく感じですか?」
「うん。今日は床に直置き出来ないし、出荷量が多いからこうでもしないと。あー、マジでそろそろ業務用掃除機欲しー! 直に水吸えたら強くない!? 絶対費用対効果バツグンだろって!」
「直に水を吸えたら強いですねー」
……と言いながら、雑巾とちりとりで水を集めているので何だかなあという感じはする。今は言われるままにアナログな道具で地道にやっている水掃きの作業だけど、この水溜まりを効率よく処理する方法に生かせる理論なんかは探してみてもいいかもしれない。学歴の使いどころは多分こういうところ。
「あっいた。越野さーん」
「内山、悪いが越野はしばらく手が離せねえ。机の上での作業なら圭佑に回してくれ」
「わかりましたー」
パートさんが出勤するまでに、作業台を粗方作ってしまわないといけない。だから越野に用事があったっぽい内山さんを事務所に返したんだろうけど、速さだけを考えるなら塩見さんや俺がやった方がいいんだよね。うーん、これもやっぱり実務経験っていう点なのかな。濡れた路面上での作業って状況は特殊だからね。
「水掃きはやっぱり大石君が最強だわ~! 大石君に2階の仕事がなきゃ一生手元に置いとくのに!」
「2階の仕事が終わったらまた降りてきますよ」
「本当? 助かる~」
「まあ、A棟の仕事は人材さんもいるんで多少はね、っていう気持ちなんですけどマズいですかね? 俺も社員だし、今日くらいの出荷量ならB棟優先でいいよねの気持ちと言うか」
「そう! そういうこと! 社員としての判断! 社員は社員でもみんなA棟に夢中でB棟は二の次! それどころかやれ作業場所を寄越せだのやれ在庫を置かせろって搾取の対象! 俺たちだけは常日頃から支え合っていこうね大石君!」
俺は今のところそこまで酷い目に遭ったことがないけど、1階の方がやっぱり利便性という意味やリフトの走りやすさの観点から攻められやすくなっちゃうんだろうなあ。
「あっそうだ。雨の季節とダウンの季節を抜けたら高井さんに手伝ってもらいたいことがあるんですけど、今から予約していいですか?」
「いいよ、言ってみて」
「2階の模様替えをするのに、棚を動かしたいんですよね。高井さんの力があれば、頼もしいなあと」
「得意得意。任せといて。雨の季節を無事に抜けられたらね」
end.
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ここ最近の雨の降り方が大変過ぎてこの話が若干不謹慎になりそうなそんなこんな。
高井さんの中でこっしーも水掃き強キャラなんだろうけど、やっぱちーちゃんが最強。
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