2026

■What to do with this board?

++++

「ねー、誰か助けてーッ」

 サークル室に入るやいなや、奈々さんが救援要請を飛ばしている。それを俺と春風はどうしたどうしたと目を向ける。パッと見で変わったところと言えば……。

「奈々さん、アンタまた机でも抱えて来たんじゃ――って、また凄い出で立ちだなァ」
「ここの坂を上ってる時にサンダルが壊れちゃってさーッ、辛うじて繋がってるところを足の指でギュッと掴んで歩こうとしたけど逆に歩きにくくてー」

 サンダルの部品の正式名称なんかは意識したことがないからわからないが、奈々さんのサンダルは右足の足の甲を通す部分のアーチがちぎれてぶら下がっているだけで、実質的にただのゴム板になってしまっている。こんなモン履いていられねえと、片足だけ裸足で来たらしい。

「破傷風にでもなったらどうすんだ」
「まあ、アスファルトの上ならそこまで危なくないかなッて思っちゃったよねッ」
「ホントアンタ、時々凄いムチャしますよね」
「奈々先輩、おしぼりがあるので良ければこれで足を拭いてください」
「とりぃありがとーッ、助かったよーッ」
「お前の食い意地が役に立ったな」
「うるさいわよ」

 ようやくいつもの席にたどり着いて、春風からもらったおしぼり(春風は買い食いをよくするので紙おしぼりが溜まりがち)で足の裏を拭き拭き「うわすっごい真っ黒ッ」と驚き散らかす奈々さんだけど、サンダルがぶっ壊れていることには変わりないので帰りはどうするかという問題がある。

「それで奈々さん、アンタそのサンダルどーするつもりっすか?」
「うーん、買い換えることにはなるけど」
「そうじゃなくて今っすよ。帰りっつーのが正しいっすかね」
「何か補修出来るような物ってこの部屋にあるかな?」
「テープとか? 備品の類は大体ツッツの棚に入れたはずなんで、見てみますか」

 この部屋にとっ散らかっていた備品の類はこないだツッツが作ってくれた収納棚にしまったので、逆に言えばここになければ何もないということが言える。引き出しを開けてみるが、ホワイトボードマーカーだの食器類だの、サンダルの修理には使えなさそうな物しか入っていない。

「ダメそうっす」
「ダメかー」
「幸い、ジャックとうっしーの足がある組が下にいるっぽいんで、ガムテとか買ってきてもらえるか頼んでみますか。この場合布ガムテの方が強そうっすよね」
「そうだねッ。ガムテープがあればサンダルのソールと足をぐるぐる巻きにして固定しちゃえばいいしッ」
「何言ってんだ、人体に板を括り付けるんじゃなくてサンダルを直せっつーの。血が止まったり肌が荒れでもしたらどーすんだ」
「ゴメンね松兄、何から何まで」
「おはようございます」

 いつものように、聞こえるか聞こえないか程度のちっちゃい声の挨拶で、ツッツがやってきた。ツッツは徒歩組だし、ジャックとうっしーについては今日はまだ会ってないということだったので、連中は多分まだ下にいそうだ。下にいる内に連絡はしたいが、ちょっと賭けてみるか。

「あ、そうだツッツ。ダメ元で聞いてみるが、お前、サンダルの修理って出来るか? DIYとは言えねーだろうけど、図工みたいなモンだろ」
「サンダル、ですか?」
「うちのサンダルがこんなことになっちゃってさーッ」
「た、大変ですね……。うーん、ちょっと見せてください。あー、この感じなら……。えっと、応急処置程度で良ければ出来ます」
「今日の帰りだけもってくれれば万々歳だよッ!」
「じゃあ、やってみます」
「マジか、言ってみるモンだな」
「元のサンダルの形には多分戻せませんけど……」
「ホントに応急処置だけで大丈夫だよッ、思うようにやっちゃってッ」

 サンダルをいじることに対する奈々さんの了承を得ると、ツッツはカバンの中から瞬間接着剤と養生テープを取り出した。それを見て、俺はジャックとうっしーに送ろうとしていたメッセージを破棄してそちらの作業を見守る。つかコイツ、こんなモン持ち歩いてるのかよ。

「ツッツの用意の良さは、凄いですね」
「接着剤は持ち歩いてますけど、養生テープはさすがにさっき買ったヤツです」
「接着剤もなかなか持ち歩いてる奴はいねーのよ」
「これでしばらく乾かして、っと」

 ツッツの持っている接着剤は、接着したい面に塗布したら、5分程度放置してから貼り合わせなければならない物らしい。その後、強く貼り合わせて3時間程度ほっとくと、結構な強度でくっつくんだとか。今日のところはとりあえず、サークル終了時まで置いとくことになりそうだ。
 養生テープはホームセンターに行く暇がないから割高だけど購買で買ったという話だ。サークル終了時まで置いたサンダルを、さらに物理的に固定するのに使うつもりらしい。夏だし接着剤だけでもイケるとは思うが、念には念を、だそうだ。

「ツッツありがとーッ」
「い、いえ、まだ途中で、上手く行ったかどうかはこれからで……」
「ううん、何とかなりそうって思えただけでありがたい話だよッ。松兄もとりぃもありがとねーッ」
「とりあえず、アンタはしばらくの間イスの上で過ごしてくださいよ。また足が汚れでもしたら大変だ」
「一応あと1枚はおしぼりがあるので、1回だけならうっかりもセーフですよ」
「あ、あの……一応、帰りは駅までジャックの車に乗せてもらった方が、処置の耐久が減らなくていいと思います。下り坂は、負荷が大きそうなので……」
「うーん、そうだねー、ジャックが来たら頼んでみるよー」
「そりゃいいや。アイツが渋るようなら俺も援護射撃しますんで任せといてください」
「松兄がそれをやっちゃうと脅しみたいになっちゃわない?」
「可愛い先輩が困ってんのにその頼みを断るような奴は男じゃねーんですよ」
「この場合に限っては、奏多の兄貴分としての力を利用してもいいのではないかと思いますけど」
「あっそうだッ! みんな今度の水曜日って夏合宿の打ち合わせとか定例会とかの予定入ってない?」
「俺は大丈夫っすけど」
「私も特に予定はありませんね」
「もしみんな予定がなくってサークル室に来るんなら、今日のお礼ってことでアップルパイ焼いてくるよ」
「マジすか! これはどんな予定も断らないとっすねェ」
「本当にね」

 これにはツッツも楽しみそうにしているし、マジで特別なイベントなんだよな。奈々さんのアップルパイはマジでメチャクチャ美味い。何なら全員揃わない方が取り分が増え……って、俺まで春風みたいな思考になっちまってるな。いかんいかん。


end.


++++

奏多が奈々のモンペみたいになっている。ちっちゃくてかわいい物を愛でる感覚?

(phase3)

.
44/44ページ