2026

■いつか僕らも猛者になりたい

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「真昼に来るのもまた雰囲気違っていいなー」
「ホントだな」
「よーし朝霞、飲むぞ! お前時間いつまで大丈夫?」
「今日はずっといられるぞ」
「よし! 今日でTシャツ1枚もらうくらいの勢いだ!」

 やってきましたプリズム広場、星港オクトーバーフェスト会場だ。先週始まったこのイベントで、俺と菅野はスタンプラリーの景品をもらおうと気合いを入れている。スタンプはイベントに参加している店で800円以上買い物をするともらえて、7店舗分集めるとコースターが、14店舗分集めるとTシャツがもらえる。

「ちなみに朝霞、あれからスタンプラリーの進捗はどーよ」
「こないだから4つ増やした」
「おおー、やるなあ!」
「仕事帰りに何かつまんで1杯飲んでく、みたいなことをちょっとやってて」
「いいじゃんいいじゃん」
「お前は?」
「俺は増やせてないんだよなー、地味に忙しくなって」
「それはしょうがない。まあ、お前は今日稼げるだろ」
「そのつもり! 長期戦のつもりで来てるから!」
「俺は前回学習したことを踏まえて水を持ってきた」
「おー、1リットルは気合い入ってんな!」
「でも今日は日中だしこれでも足りないくらいだろ、多分」

 星港の夏は暑い。本格的な真夏が始まるのは来週中頃からと言われているが、2週間天気予報を見ると全部最高気温35度超えだったので、やってんなあと思って。最高気温が32度予報の今日のうちに昼間の活動を終えておいた方がいいのではないかとすら思っている。
 この間、夜に飲んでいた時も水が欲しいなあと思っていて、各店舗でも一応買えはするけどまあ割高で。持ち込み禁止にはなってるけどあってないようなルールだし、周りもみんな持ち込んでるし、次来るなら要るなあと思ってたんだ。夏だし実際必要だ。酒も入るし。

「でもスタンプがフード込みなら実際今日でイケそうだよな」
「周り見てても猛者が多いし、俺たちくらいはまだまだ初心者だろうな、Tシャツも1枚目だし」
「マジでそう! ライブにノってんの、訓練されたスタッフだと思ってたけど猛者がやってんだって気付いたときに、俺もあの域に行きてーなーと思って。あっ、そろそろ曲も耳コピ出来てるし、俺がアコーディオン弾いてお前が歌って踊るショートとか撮る?」
「はあ? 撮ってそれをどうするんだよ」
「え、チャンネルに上げる?」

 菅野はこのオクトーバーフェストに音楽を楽しみに来ている。ドイツ音楽を奏でる楽団のライブステージが1回30分、それが平日は3本、土日祝日は5本あるんだけど、タイムテーブルに合わせて会場を移動するガチっぷりだ。で、猛者や酔っぱらいたちと一緒に歌って踊っている。
 俺は気分が良くなりすぎないように気をつけているので、荷物の番もしているし、あまり派手には動かないようにしている。席でじっとしていても、乾杯の歌をやるごとに知らない人とグラスを合わせたりするのは悪くないと思う。
 それはそうとして、ここでやってる曲を歌って踊る動画を撮って上げるのはちょっと違わないか。こういうのは現地でその場の空気感の中でやるのがいいんであって、2人で他に誰もいない部屋かスタジオか知らないけど、そこで動画を撮るのはちょっと。しかもシラフでだろ。

「やんないぞ」
「えー! やんねーのかよ!」
「そんなにやりたいならお前の弾いてみたを撮ってやるよ」
「ちげーよ朝霞、こーゆーのは歌と踊りがあってこそだろ! やろうぜ、心の友よ!」
「ここでのお前は心の友を連発しすぎて重みが無くなってるとは言っとくぞ」
「チッ」

 実際奴の言う心の友という言葉には元々それほどの重みが無いものであるとは理解している。ただ、それこそオクトーバーフェストの現場の空気感があることでそれらしいノリにはなっているが。うーん、改めて考えると、心の友とは一体。

「とりあえず、何か買ってこないとだけど、どの店で買うかはちゃんと選ばないと」
「そうだな! スタンプ集めないと。好き勝手に飲み食いできるのはTシャツ2枚揃ってからだぞ」
「お前何色のTシャツにする?」
「えー、この中だったらピンクかなー」
「ピンクいいよな、淡い色だし何にでも合わせやすそう」
「や、2人で揃えようとは言ったけどガチペアルックにすんのはどーなんだ」
「おっ、どっちがピンク取るか、やるか? 現時点では俺のスタンプの方が多いけどなー」
「俺は今から増やすんだが?」
「いや、お前は何だかんだ言ってライブやってる間はスタンプ増やせないし、先にスタンプ埋めてTシャツをもらうのは俺だな。悪いな菅野、先にピンクのTシャツもらうしお前は黒かカーキにしろよな」
「ンだと!?」

 Tシャツのラインアップは黒、カーキ、ピンクの3色。このピンクが淡い色合いで何ともかわいい。ただ、いくら“心の友”と言っても本当のペアルックにするのはさすがにちょっと嫌なので、俺がピンクだお前が譲れという応酬になっている。

「でもよ朝霞、俺気付いちまったんだけど」
「ああ」
「同時に着なきゃいいんじゃね?」
「確かに」
「それか、仮に同じになりそうだなってタイミングではお前がカーディガンとかでペアルック要素を薄めればいいのでは? という結論が出た」
「それだ」
「じゃあ心置きなくスタンプを集めようぜ、心の友よ」
「だからそれ、頻発しすぎて軽いんだよそろそろ」
「何食う?」
「今日は肉とか食べちゃおうかなあ」
「おっいいじゃん肉!」

 ステーキとかローストビーフとか、美味そうな肉は前々からちょっと目を付けてたけど、1人で食うには贅沢だと思ってたから、このタイミングを待ってたんだよな。これ1皿でスタンプ1つは堅い。

「チーズ食うよな! フライドチーズ! 美味いぞ~、中がとろっとろで」
「怖そー……いや、美味そうだけど」
「あっお前猫舌だっけ?」


end.


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ライブステージをやってる間、チータ君はノリノリだといいし、知らない人ときゃっきゃしてるといい
ピンク色のTシャツを巡って争う成人男性たち。好きな色とか似合う色を考えているのだろう

(phase3)
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