2026
■ツーと言えばカー
++++
「あっ、高木先輩。ちょっと相談なんですけど」
「ゼミのことで何かあった?」
「あ、いや、ゼミじゃなくてですね、本当に大したことない身の上話になるんですけど」
「ああはい、どうぞ」
この間、彩人の家で盛大にやらかした俺は、空気を読まずに食べてしまったアイスを買いに夏空の下を爆走した。何が大変だったって、一番近いコンビニでは目的の物がちょうど売り切れてしまっていて、少し距離のある2軒目まで走ることになったこと。保冷バッグを借りて来ていたおかげで溶かさずに持ち帰ることは出来たけど、今度から人の冷蔵庫から物を取る時は一度立ち止まって考えようと思いました。
「なるほどね。彩人が楽しみにしてたアイスを勝手に食べて、怒られたと」
「はい。高木先輩の家の冷蔵庫には、エージ先輩の物も結構入ってるじゃないですか」
「そうだね」
「お互いにアイスとかお酒とか、間違えたりしないのかなって思って」
「ないね」
「さすがの返答です…!」
高木先輩の部屋にはエージ先輩が入り浸っている。エージ先輩は義理堅い人なので、一宿一飯の恩義ということで、使った食器を洗ったり、その時に出た空き缶などはすぐに捨ててくれたりしていた。だけど、そのうち高木先輩の生活が堕落していくのに比例して、エージ先輩の“一宿一飯の恩義”はエスカレートしていった。
エージ先輩は潔癖症の気がある。本人と高木先輩はこれを否定するけど、2年生はみんなエージ先輩って潔癖症だよねと言っている。高木先輩の部屋を自分が過ごすのに適した空間であるようにするために、とにかく掃除を徹底的にやってるって話だ。特に台所とトイレ。洗濯物の管理なんかも結構凄いとは聞く。
そんな感じでエージ先輩の滞在時間が長いので、冷蔵庫に入っている物は2人分だったりするとかしないとか。俺はそんな2人の関係性に憧れてシノの部屋に遊びに行っているけど、シノは睡眠時間を除けば意外にちゃんとしてるんだなっていう発見があった。1人暮らしを始めてから挑戦し出した料理も少しずつ上達してるし。先輩たちの場合、料理が上達したのはエージ先輩だ。
「見たらどれが誰のってわかるものですか?」
「わかるね。と言うか、俺とエイジって好みが結構違うから、エイジの物があったとしても俺が欲しくなることはあんまりないって言うのが正しいかもしれない。多分エイジもそうだと思う」
「その重なり方の小ささがいい風に働いてるんですね」
「ちなみにだけど、ササは何アイスを食べちゃったの? そんなに怒られるって、ハーゲンダッツとかの高いヤツ?」
「コンビニの抹茶練乳氷です」
「あー、それはダメかも」
「ダメですか」
「コンビニアイスがまず高級品だし、自分が食べたいと思って買うものじゃない。しかも、相手が彩人でしょ? 彩人の家の冷蔵庫にそれが入ってたらそれはもう絶対彩人のだよ。あの子お茶にはまあまあうるさいんだから」
「ですよね、はい。反省はしてます」
ササほど彩人のことは知らないけど、知らないからこそ彩人はお茶好きの印象が強いよ、と高木先輩は言う。それは付き合っててもまあまあ強い印象として刻み込まれているので、完全に俺が空気を読まなかったのが悪いんだけれども。この話をサキ・玲那・すがやんに聞かれたらまあお前ってそういうトコ無神経だもんなって言われそうで怖い。
「ちなみに高木先輩とエージ先輩でビールの銘柄は違いますか?」
「俺は黒ラベルだしエイジはスーパードライがメインだね」
「じゃあ、例えばですけどあんことカスタードの大判焼きを買って来ました。どっちが食べるとかでケンカになります?」
「ならないね。あんこはエイジ、カスタードが俺」
「おおー。じゃあ、ノーマル味の唐揚げと、マヨ味の唐揚げを買って来ました」
「ノーマルが俺、マヨはエイジ」
本当に間を置かずに即答するので、相手の好みを熟知していると言うか、ここまで行くと「相手といるときは自分はこっちを手に取る」的なプログラムなんだろうと思わざるを得ない。どっちにする? と話し合う時間も嫌いじゃないしいい物だなと思うけど、阿吽の呼吸にも憧れるなあ。先輩たちは本当に凄い。エージ先輩にも同じ質問をしてみたい。どう返ってくるかな。
「バスタオルだって、俺がグレーでエイジは白だし」
「それはちょっと今回の質問の意図とは違うような気がします」
「あ、そう?」
「でもエージ先輩が白いタオルなのは解釈一致です。きっとくたびれたタイミングを見やすくするんですよね?」
「さあ、どうなんだろうね? あ、そうだ。バスタオルって何回使ったら洗うとかっていうの、ある? ちなみに俺は2、3日くらいなら平気派なんだけど、エイジは毎回洗うから乾かなくて困ることもあってさ」
高木先輩が2、3日同じバスタオルで平気なのも、エージ先輩が毎回洗うのも解釈一致すぎる。って言うか発言が完全に同居してる人のそれ。
「俺は実家なので毎回洗ってもらってますけど、シノも彩人も毎回洗いはしてないですね。でも2回だと思いますよ」
「洗った後の体を拭いてるんだからそこまで汚くなくない? って言うか使った後にタオルかけで干しとけばいいでしょっていう論なんだけど、エイジは洗ったとしても人間は無菌にはならないし、使った後のバスタオルなんかすぐ雑菌が繁殖するんだから洗えって」
「それは多分2人とも間違いではないので、一生折り合いがつかないと思います」
許せるポイント、許せないポイントは人によって全然違ってて、同じ空間で過ごす時には違うことも少しずつ受け入れながら、丸く収まるようにしていくのがいいのかもしれない。いつだって間違えてばかりだけど。
end.
++++
エイジは連泊とかも普通にしてるんで、家のことだけで言ったら多少の人は勝てないね
(phase3)
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「あっ、高木先輩。ちょっと相談なんですけど」
「ゼミのことで何かあった?」
「あ、いや、ゼミじゃなくてですね、本当に大したことない身の上話になるんですけど」
「ああはい、どうぞ」
この間、彩人の家で盛大にやらかした俺は、空気を読まずに食べてしまったアイスを買いに夏空の下を爆走した。何が大変だったって、一番近いコンビニでは目的の物がちょうど売り切れてしまっていて、少し距離のある2軒目まで走ることになったこと。保冷バッグを借りて来ていたおかげで溶かさずに持ち帰ることは出来たけど、今度から人の冷蔵庫から物を取る時は一度立ち止まって考えようと思いました。
「なるほどね。彩人が楽しみにしてたアイスを勝手に食べて、怒られたと」
「はい。高木先輩の家の冷蔵庫には、エージ先輩の物も結構入ってるじゃないですか」
「そうだね」
「お互いにアイスとかお酒とか、間違えたりしないのかなって思って」
「ないね」
「さすがの返答です…!」
高木先輩の部屋にはエージ先輩が入り浸っている。エージ先輩は義理堅い人なので、一宿一飯の恩義ということで、使った食器を洗ったり、その時に出た空き缶などはすぐに捨ててくれたりしていた。だけど、そのうち高木先輩の生活が堕落していくのに比例して、エージ先輩の“一宿一飯の恩義”はエスカレートしていった。
エージ先輩は潔癖症の気がある。本人と高木先輩はこれを否定するけど、2年生はみんなエージ先輩って潔癖症だよねと言っている。高木先輩の部屋を自分が過ごすのに適した空間であるようにするために、とにかく掃除を徹底的にやってるって話だ。特に台所とトイレ。洗濯物の管理なんかも結構凄いとは聞く。
そんな感じでエージ先輩の滞在時間が長いので、冷蔵庫に入っている物は2人分だったりするとかしないとか。俺はそんな2人の関係性に憧れてシノの部屋に遊びに行っているけど、シノは睡眠時間を除けば意外にちゃんとしてるんだなっていう発見があった。1人暮らしを始めてから挑戦し出した料理も少しずつ上達してるし。先輩たちの場合、料理が上達したのはエージ先輩だ。
「見たらどれが誰のってわかるものですか?」
「わかるね。と言うか、俺とエイジって好みが結構違うから、エイジの物があったとしても俺が欲しくなることはあんまりないって言うのが正しいかもしれない。多分エイジもそうだと思う」
「その重なり方の小ささがいい風に働いてるんですね」
「ちなみにだけど、ササは何アイスを食べちゃったの? そんなに怒られるって、ハーゲンダッツとかの高いヤツ?」
「コンビニの抹茶練乳氷です」
「あー、それはダメかも」
「ダメですか」
「コンビニアイスがまず高級品だし、自分が食べたいと思って買うものじゃない。しかも、相手が彩人でしょ? 彩人の家の冷蔵庫にそれが入ってたらそれはもう絶対彩人のだよ。あの子お茶にはまあまあうるさいんだから」
「ですよね、はい。反省はしてます」
ササほど彩人のことは知らないけど、知らないからこそ彩人はお茶好きの印象が強いよ、と高木先輩は言う。それは付き合っててもまあまあ強い印象として刻み込まれているので、完全に俺が空気を読まなかったのが悪いんだけれども。この話をサキ・玲那・すがやんに聞かれたらまあお前ってそういうトコ無神経だもんなって言われそうで怖い。
「ちなみに高木先輩とエージ先輩でビールの銘柄は違いますか?」
「俺は黒ラベルだしエイジはスーパードライがメインだね」
「じゃあ、例えばですけどあんことカスタードの大判焼きを買って来ました。どっちが食べるとかでケンカになります?」
「ならないね。あんこはエイジ、カスタードが俺」
「おおー。じゃあ、ノーマル味の唐揚げと、マヨ味の唐揚げを買って来ました」
「ノーマルが俺、マヨはエイジ」
本当に間を置かずに即答するので、相手の好みを熟知していると言うか、ここまで行くと「相手といるときは自分はこっちを手に取る」的なプログラムなんだろうと思わざるを得ない。どっちにする? と話し合う時間も嫌いじゃないしいい物だなと思うけど、阿吽の呼吸にも憧れるなあ。先輩たちは本当に凄い。エージ先輩にも同じ質問をしてみたい。どう返ってくるかな。
「バスタオルだって、俺がグレーでエイジは白だし」
「それはちょっと今回の質問の意図とは違うような気がします」
「あ、そう?」
「でもエージ先輩が白いタオルなのは解釈一致です。きっとくたびれたタイミングを見やすくするんですよね?」
「さあ、どうなんだろうね? あ、そうだ。バスタオルって何回使ったら洗うとかっていうの、ある? ちなみに俺は2、3日くらいなら平気派なんだけど、エイジは毎回洗うから乾かなくて困ることもあってさ」
高木先輩が2、3日同じバスタオルで平気なのも、エージ先輩が毎回洗うのも解釈一致すぎる。って言うか発言が完全に同居してる人のそれ。
「俺は実家なので毎回洗ってもらってますけど、シノも彩人も毎回洗いはしてないですね。でも2回だと思いますよ」
「洗った後の体を拭いてるんだからそこまで汚くなくない? って言うか使った後にタオルかけで干しとけばいいでしょっていう論なんだけど、エイジは洗ったとしても人間は無菌にはならないし、使った後のバスタオルなんかすぐ雑菌が繁殖するんだから洗えって」
「それは多分2人とも間違いではないので、一生折り合いがつかないと思います」
許せるポイント、許せないポイントは人によって全然違ってて、同じ空間で過ごす時には違うことも少しずつ受け入れながら、丸く収まるようにしていくのがいいのかもしれない。いつだって間違えてばかりだけど。
end.
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エイジは連泊とかも普通にしてるんで、家のことだけで言ったら多少の人は勝てないね
(phase3)
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