2026
■時代と部長の倫理観
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ゴロゴロと音を立てて荷物を載せた台車を押していると、ちょっと視線を集めてるような気がする。今日は緊急の買い物ということで、俺とレオ、それからいまむーの3人でビュッと行ってパッと買って戻って来たところ。買った物はとりあえず部室に運び込もうとしてるんだけど、入る場所ってあったかなあ?
「源、さっそく開けますか」
「そうだね」
買って来たのはコンパクトな2ドア冷蔵庫。近頃の夏、特に星港の夏は暑すぎるということで、屋外での活動のある部は特に対策を重点的に打ちなさいと部長会で注意が入った。熱中症は本当に怖い。対策を打ってたってなるときはなってしまうけど、そうなる確率を下げられる限界まで下げなければいけないと思う。
部長会でもらった資料と話を持ち帰り、冷蔵庫を買おうと決めたのは俺の独断。放送部は人数も多いし、外で活動することが多い。熱中症予防はまず各々で気を付けてもらうのが第一だけど、それでもなってしまった場合の応急処置が出来なければいけないと思った。経口補水液や保冷材のような物を常に用意しておいた方が安心だよね。
「おおー、冷蔵庫だね」
「冷蔵庫ですよ」
「レオ、置くのはこの角でいいかな?」
「いいと思いますよ」
せーので冷蔵庫をいい場所に付けて、簡単に取説に目を通す。ふむふむと理解をしたら、コンセントを差して、通電。一旦冷蔵庫の強さは弱寄りの中で。冷凍庫の働き方を見てまた温度は微調整していくことに。電気代は大学持ちだしあんまり気にしないでいいとは思うんだけど、一応ね。大きさは1人暮らしの部屋に置けるくらいの物だけど、これでも十分やれるはず。
「いまむー、経口補水液あるー? もう冷やしちゃおうかなって」
「はい」
「ありがとー」
経口補水液のストックは5本。これを誰も飲まずに夏を越えることが出来れば大成功。誰も飲まないに越したことはないんだけど、念のためね! 備えあれば嬉しいなって言うし。冷蔵庫の中には経口補水液のストックと、班で使う物に限っては入れていいことにしようと思ってる。でも、使うスペースは空気を読みながら考えてほしい。
「源、保冷材も入れてしまいましょう」
「そうだね」
保冷材は固形の物と、ちょっとぷるぷるしたソフトタイプを用意。それから、今回の冷蔵庫は製氷機能の付いたちょっと贅沢な機種にしました。最近流行ってる携帯式の氷嚢を使ってる人が、氷の補充をするのにも使えるかもだし、部でも氷嚢を持つことにしたんだ。私的過ぎる利用にはもちろん厳しく対処するけど、熱中症だけじゃなくてケガの時にも使えるだろうし。
「これでしばらく待って、ちゃんと働いてたらいいなあ」
「本当ですね」
「3万もしたんだもん、働いてもらわないと困るよ」
「3万でしょ? 部員1人につき1000円以内……あ、保冷材とか氷嚢とかを含めたら1000円くらいにはなっちゃってるか。でもそれくらいで夏のもしもに対するお守りを置いとけるって思えばちょっと安いよ」
「その用意を個人ではなく部がやっているんですから、手間賃も込みですよ。今村、今回の買い物の会計帳簿への記載もよろしくお願いします」
「了解っすおまかせあれー」
俺の代になってからの会計帳簿は、本当に細かく書いてもらっている。お金の動きを誰がどう見ても分かるように。一点の曇りもなくやらなきゃいけないところだから、書いてもらった後にも別の人の目で確認を入れてもらっている。その買い物に至るまでの経緯なんかも別の帳簿に記録してあるし、とにかく透明化。これに尽きる。
「もうね、熱中症には本当に気を付けなきゃダメだからね」
「そうですね」
「これは俺個人の気持ちであって、本当にそうするってことでは一切ないんだけど、帽子をかぶるとか、個人で出来る熱中症対策をしない部員のいる班は、ステージをやるのを禁止したっていいくらいだと思ってるよ」
「ゲンゴローにしてはメチャクチャ厳しいね」
「いや、本当にはやらないよ。そんな権利俺にはないし。でも、それっくらい、個人だけじゃなくて、班の単位で、みんなで声を掛け合って対策をしないと」
「それを極端に言うと、対策出来ない奴はステージをやるな、になるワケね」
「そう聞くと横暴でしょ? やんないよ」
「源に出来ないのであれば、俺が処分を下します」
「わわっ、レオ! ダメだよ!」
レオは表情を変えずに淡々と言うから本気なのかそうじゃないのかがわかんなくて焦っちゃう。やらないって前置きしたよね!? もし本当にそんなことをやっちゃったら、時代が逆戻りしちゃう。俺はあくまでみんなで熱中症に気を付けていきたいだけで、ステージの機会を奪ったりするのは全く本意じゃない!
「源が部の方針として熱中症対策を打ち出すわけですよね。その方針に沿わない行動をした人間に対する警告を行うのは監査の仕事でしょう」
「あー……えっと、もしかして、帽子をかぶってない子を見かけたら注意する、とかのレベルのことをわざわざおどろおどろしい雰囲気で言ってる?」
「俺は極めて本気ですが。そのような人間を好き勝手に泳がせておくことは、リスクでしかありませんからね。ただでさえ放送部は文化会から睨まれている上、野外活動のある部は気を付けろとわざわざ言われたにも関わらず事故を起こせば、部の存続にも関わります」
「言いたいことはわかるんだけど~……」
「源は普段通り、明朗快活な部長として皆に熱中症対策を説いてください。陰々滅々とした監査の俺が、取り締まって回ります」
見回るのはやって欲しいけど、勝手に過剰な処分を下すのは絶対にダメだからね、とは強く念押しして。
「あ。ねえねえ2人とも、冷蔵庫ちょっと冷えて来てる!」
「えっホント!?」
「これでようやくスタートですよ」
end.
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ゲンゴローの熱中症対策への熱は1年生の時の後悔から。
(phase3)
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ゴロゴロと音を立てて荷物を載せた台車を押していると、ちょっと視線を集めてるような気がする。今日は緊急の買い物ということで、俺とレオ、それからいまむーの3人でビュッと行ってパッと買って戻って来たところ。買った物はとりあえず部室に運び込もうとしてるんだけど、入る場所ってあったかなあ?
「源、さっそく開けますか」
「そうだね」
買って来たのはコンパクトな2ドア冷蔵庫。近頃の夏、特に星港の夏は暑すぎるということで、屋外での活動のある部は特に対策を重点的に打ちなさいと部長会で注意が入った。熱中症は本当に怖い。対策を打ってたってなるときはなってしまうけど、そうなる確率を下げられる限界まで下げなければいけないと思う。
部長会でもらった資料と話を持ち帰り、冷蔵庫を買おうと決めたのは俺の独断。放送部は人数も多いし、外で活動することが多い。熱中症予防はまず各々で気を付けてもらうのが第一だけど、それでもなってしまった場合の応急処置が出来なければいけないと思った。経口補水液や保冷材のような物を常に用意しておいた方が安心だよね。
「おおー、冷蔵庫だね」
「冷蔵庫ですよ」
「レオ、置くのはこの角でいいかな?」
「いいと思いますよ」
せーので冷蔵庫をいい場所に付けて、簡単に取説に目を通す。ふむふむと理解をしたら、コンセントを差して、通電。一旦冷蔵庫の強さは弱寄りの中で。冷凍庫の働き方を見てまた温度は微調整していくことに。電気代は大学持ちだしあんまり気にしないでいいとは思うんだけど、一応ね。大きさは1人暮らしの部屋に置けるくらいの物だけど、これでも十分やれるはず。
「いまむー、経口補水液あるー? もう冷やしちゃおうかなって」
「はい」
「ありがとー」
経口補水液のストックは5本。これを誰も飲まずに夏を越えることが出来れば大成功。誰も飲まないに越したことはないんだけど、念のためね! 備えあれば嬉しいなって言うし。冷蔵庫の中には経口補水液のストックと、班で使う物に限っては入れていいことにしようと思ってる。でも、使うスペースは空気を読みながら考えてほしい。
「源、保冷材も入れてしまいましょう」
「そうだね」
保冷材は固形の物と、ちょっとぷるぷるしたソフトタイプを用意。それから、今回の冷蔵庫は製氷機能の付いたちょっと贅沢な機種にしました。最近流行ってる携帯式の氷嚢を使ってる人が、氷の補充をするのにも使えるかもだし、部でも氷嚢を持つことにしたんだ。私的過ぎる利用にはもちろん厳しく対処するけど、熱中症だけじゃなくてケガの時にも使えるだろうし。
「これでしばらく待って、ちゃんと働いてたらいいなあ」
「本当ですね」
「3万もしたんだもん、働いてもらわないと困るよ」
「3万でしょ? 部員1人につき1000円以内……あ、保冷材とか氷嚢とかを含めたら1000円くらいにはなっちゃってるか。でもそれくらいで夏のもしもに対するお守りを置いとけるって思えばちょっと安いよ」
「その用意を個人ではなく部がやっているんですから、手間賃も込みですよ。今村、今回の買い物の会計帳簿への記載もよろしくお願いします」
「了解っすおまかせあれー」
俺の代になってからの会計帳簿は、本当に細かく書いてもらっている。お金の動きを誰がどう見ても分かるように。一点の曇りもなくやらなきゃいけないところだから、書いてもらった後にも別の人の目で確認を入れてもらっている。その買い物に至るまでの経緯なんかも別の帳簿に記録してあるし、とにかく透明化。これに尽きる。
「もうね、熱中症には本当に気を付けなきゃダメだからね」
「そうですね」
「これは俺個人の気持ちであって、本当にそうするってことでは一切ないんだけど、帽子をかぶるとか、個人で出来る熱中症対策をしない部員のいる班は、ステージをやるのを禁止したっていいくらいだと思ってるよ」
「ゲンゴローにしてはメチャクチャ厳しいね」
「いや、本当にはやらないよ。そんな権利俺にはないし。でも、それっくらい、個人だけじゃなくて、班の単位で、みんなで声を掛け合って対策をしないと」
「それを極端に言うと、対策出来ない奴はステージをやるな、になるワケね」
「そう聞くと横暴でしょ? やんないよ」
「源に出来ないのであれば、俺が処分を下します」
「わわっ、レオ! ダメだよ!」
レオは表情を変えずに淡々と言うから本気なのかそうじゃないのかがわかんなくて焦っちゃう。やらないって前置きしたよね!? もし本当にそんなことをやっちゃったら、時代が逆戻りしちゃう。俺はあくまでみんなで熱中症に気を付けていきたいだけで、ステージの機会を奪ったりするのは全く本意じゃない!
「源が部の方針として熱中症対策を打ち出すわけですよね。その方針に沿わない行動をした人間に対する警告を行うのは監査の仕事でしょう」
「あー……えっと、もしかして、帽子をかぶってない子を見かけたら注意する、とかのレベルのことをわざわざおどろおどろしい雰囲気で言ってる?」
「俺は極めて本気ですが。そのような人間を好き勝手に泳がせておくことは、リスクでしかありませんからね。ただでさえ放送部は文化会から睨まれている上、野外活動のある部は気を付けろとわざわざ言われたにも関わらず事故を起こせば、部の存続にも関わります」
「言いたいことはわかるんだけど~……」
「源は普段通り、明朗快活な部長として皆に熱中症対策を説いてください。陰々滅々とした監査の俺が、取り締まって回ります」
見回るのはやって欲しいけど、勝手に過剰な処分を下すのは絶対にダメだからね、とは強く念押しして。
「あ。ねえねえ2人とも、冷蔵庫ちょっと冷えて来てる!」
「えっホント!?」
「これでようやくスタートですよ」
end.
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ゲンゴローの熱中症対策への熱は1年生の時の後悔から。
(phase3)
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