2026
■青春の機微
++++
「野坂先輩すみません、お待たせしてしまい」
「いや、大丈夫。時間にはまだ早いから」
野坂先輩から「何日の何時にゼミ室に来てください」と呼び出され、授業が終わったその足で急いで向かいました。何の用事で呼び出されたのかに心当たりは全くありませんが、もしかしたらロボット大戦の実機を見せてもらえたりするのかな、などと淡い期待を抱いてしまいます。2年に一度、大学祭と同時開催される向島ロボット大戦に対する憧れを語った覚えはあります。
「ところで、本日は何を」
「これは先方のあることなので、俺からは」
「え。……少々怖いですね」
「あ、いや、そこまで構えなくてもいい話ではあるんだけど、一応な」
「ロボット大戦の関係ですか?」
「申し訳ない。今日はロボット大戦じゃない」
「それはとても残念です」
「興味はあるんだよな? エントリーするんなら、早いトコ腹括らないと」
「そうですよね。挑戦してみたいという気持ちはあるので、スケジュールやタスク管理などは、なるようになれという勢いでいくしかありませんね」
大学祭は10月末か11月頭の金曜日から日曜日にかけて行われる傾向があります。同時開催の向島ロボット大戦も、一見すると日程に余裕があるように思われますが、参加申し込みなどはこの時期にもう受け付けられています。大学祭のブースでもそうなのですが、結構早い段階から行事に向けて動いていかなければならないようなのです。
対策委員のこともありますし、MMPでは夏合宿の後にもオープンキャンパスや作品出展の制作があるとのことなので、夏に本腰を入れて……というのはもしかするとあまり現実味がないのかもしれないとは思いつつも、せっかくの大会なのでやってみたい気持ちが強いと言うか。以前レナに向島大学にはこういう催しがあるのですよと紹介した時の、あのキラキラした表情を思い出すと。
「そろそろかな」
野坂先輩が腕時計にチラリと目をやると、廊下の方から人の話し声が聞こえてきます。それは少しずつ大きくなってきて、廊下とこの部屋の空間が繋がったときに野坂先輩が立ち上がったことから、今やって来た方が今日私がここに呼ばれた理由なのだと察しました。院生の京川さんと、短い髪を立て、眼鏡をかけた大きな男性の2人です。
「はじめまして~! MMPに入った新しい子、とりぃだっけ?」
「あっはい、とりぃこと、鳥居春風といいます。2月に天文部からMMPへと移って来ました」
「俺はMMPのOBで、一応このゼミのOBでもある水沢祐大っていいます。俺の事はダイって呼んでちょーだいね」
「ああ! ダイさん! はじめまして! この度はよろしくお願いします!」
「みんなも落ち着いて話そう、座って座って~」
「失礼します」
「野坂もありがとね連絡くれて」
「いえ。元対策委員として、活動を円滑に進められるよう出来る範囲でやったことに過ぎません」
「後輩に対するそーゆーさりげないサポートはアレだねえ、菜月の後輩だよお前は。うんうん」
呼び出された理由に思い切り心当たりがありました。
先日の対策委員の会議で、8月下旬に行われる夏合宿の講師を誰にお願いするのかという議題になりました。私を除くメンバーは、去年の合宿が凄く良かったので今年もダイさんにお願いしたいという風に言っていたのですが、2月にサークルに入ったばかりの私は、合宿のことも講師を務めてくださったダイさんのことも全く分からず、挙動不審になっていたと思います。
後日、野坂先輩に合宿のことはともかく同じ向島大学のOBでいらっしゃる先輩のことを存じ上げないのは大変失礼なことなのではないかと……という風に相談をしたのです。一応現場では希くんが逐一私に説明を入れてくれていたのですが、経験のないことを想像するのに脳が一生懸命で、実は話にあまりついていけていなかったのです。
「とりぃははじめましてだから改めて俺の経歴を紹介すると、こんな感じです。タブレットどうぞ」
「失礼します。海の家のDJに、ポッドキャストで番組の配信など、マルチに活動されているのですね」
「……と言えば聞こえはいいんだけど、まだまだセミプロの域を抜けない兼業ラジオパーソナリティーです」
「対策委員の皆さんも、去年の合宿は本当に良かったのでまたダイさんにお願いしたいと口を揃えて言っていました。なので、私もどんな講習なんだろうとワクワクしています」
「本当? ありがとねえ。期待を裏切らないように頑張ります。まず第一に、インターフェイスのみんなにラジオって、表現することって楽しいなって思ってもらうことだからね、俺の目標は。ちなみにだけど、とりぃは今、サークルやってて楽しい?」
「はい。とても良くしてもらっていますし、日々学ぶことが多くてとても楽しくやれていると思います」
「夏合宿はねえ、MMPの中だけにいたんじゃ出会うことのない他校の濃い連中がどう化学反応を起こしてとんでもないモンを生み出すのかっていうのが面白いんだよね。もちろんいいことばっかでもないしトラブルが起こる時もあるけど、それらも含めて青春の機微だよ」
「ダイちゃんそんなおっさんみたいなこと言わないでくれる? まだ26っしょ?」
「あれあれ、樹理ちゃんとうとう自分の歳気にしだした? 若そうに見えて今年27だもんねえ。アラサーよアラサー。俺はまだアラサーには早いよ」
対策委員の活動でも既にそれを少し感じているので、何倍にも人が増える合宿だとどうなってしまうのだろうという不安はあります。ですが、それらを楽しむ余裕を持てるように常日頃からしっかりと準備をしなければならないのだなと思います。私もいつか、青春の機微というものがわかるようになるのでしょうか。
「あの、野坂先輩。京川さんとダイさんの関係性は……」
「元々京川さんが先輩だったけど、卒業はダイさんの方が早かったらしい。多分だけど、学部生の頃はもっと悪乗りが酷かったんじゃないかと」
「ちょっとS君、聞こえてるよ」
end.
++++
樹理ちゃんの経歴は本当なのかはわからないけど、今年27歳でダイさんの先輩だったのは本当。
(phase3)
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「野坂先輩すみません、お待たせしてしまい」
「いや、大丈夫。時間にはまだ早いから」
野坂先輩から「何日の何時にゼミ室に来てください」と呼び出され、授業が終わったその足で急いで向かいました。何の用事で呼び出されたのかに心当たりは全くありませんが、もしかしたらロボット大戦の実機を見せてもらえたりするのかな、などと淡い期待を抱いてしまいます。2年に一度、大学祭と同時開催される向島ロボット大戦に対する憧れを語った覚えはあります。
「ところで、本日は何を」
「これは先方のあることなので、俺からは」
「え。……少々怖いですね」
「あ、いや、そこまで構えなくてもいい話ではあるんだけど、一応な」
「ロボット大戦の関係ですか?」
「申し訳ない。今日はロボット大戦じゃない」
「それはとても残念です」
「興味はあるんだよな? エントリーするんなら、早いトコ腹括らないと」
「そうですよね。挑戦してみたいという気持ちはあるので、スケジュールやタスク管理などは、なるようになれという勢いでいくしかありませんね」
大学祭は10月末か11月頭の金曜日から日曜日にかけて行われる傾向があります。同時開催の向島ロボット大戦も、一見すると日程に余裕があるように思われますが、参加申し込みなどはこの時期にもう受け付けられています。大学祭のブースでもそうなのですが、結構早い段階から行事に向けて動いていかなければならないようなのです。
対策委員のこともありますし、MMPでは夏合宿の後にもオープンキャンパスや作品出展の制作があるとのことなので、夏に本腰を入れて……というのはもしかするとあまり現実味がないのかもしれないとは思いつつも、せっかくの大会なのでやってみたい気持ちが強いと言うか。以前レナに向島大学にはこういう催しがあるのですよと紹介した時の、あのキラキラした表情を思い出すと。
「そろそろかな」
野坂先輩が腕時計にチラリと目をやると、廊下の方から人の話し声が聞こえてきます。それは少しずつ大きくなってきて、廊下とこの部屋の空間が繋がったときに野坂先輩が立ち上がったことから、今やって来た方が今日私がここに呼ばれた理由なのだと察しました。院生の京川さんと、短い髪を立て、眼鏡をかけた大きな男性の2人です。
「はじめまして~! MMPに入った新しい子、とりぃだっけ?」
「あっはい、とりぃこと、鳥居春風といいます。2月に天文部からMMPへと移って来ました」
「俺はMMPのOBで、一応このゼミのOBでもある水沢祐大っていいます。俺の事はダイって呼んでちょーだいね」
「ああ! ダイさん! はじめまして! この度はよろしくお願いします!」
「みんなも落ち着いて話そう、座って座って~」
「失礼します」
「野坂もありがとね連絡くれて」
「いえ。元対策委員として、活動を円滑に進められるよう出来る範囲でやったことに過ぎません」
「後輩に対するそーゆーさりげないサポートはアレだねえ、菜月の後輩だよお前は。うんうん」
呼び出された理由に思い切り心当たりがありました。
先日の対策委員の会議で、8月下旬に行われる夏合宿の講師を誰にお願いするのかという議題になりました。私を除くメンバーは、去年の合宿が凄く良かったので今年もダイさんにお願いしたいという風に言っていたのですが、2月にサークルに入ったばかりの私は、合宿のことも講師を務めてくださったダイさんのことも全く分からず、挙動不審になっていたと思います。
後日、野坂先輩に合宿のことはともかく同じ向島大学のOBでいらっしゃる先輩のことを存じ上げないのは大変失礼なことなのではないかと……という風に相談をしたのです。一応現場では希くんが逐一私に説明を入れてくれていたのですが、経験のないことを想像するのに脳が一生懸命で、実は話にあまりついていけていなかったのです。
「とりぃははじめましてだから改めて俺の経歴を紹介すると、こんな感じです。タブレットどうぞ」
「失礼します。海の家のDJに、ポッドキャストで番組の配信など、マルチに活動されているのですね」
「……と言えば聞こえはいいんだけど、まだまだセミプロの域を抜けない兼業ラジオパーソナリティーです」
「対策委員の皆さんも、去年の合宿は本当に良かったのでまたダイさんにお願いしたいと口を揃えて言っていました。なので、私もどんな講習なんだろうとワクワクしています」
「本当? ありがとねえ。期待を裏切らないように頑張ります。まず第一に、インターフェイスのみんなにラジオって、表現することって楽しいなって思ってもらうことだからね、俺の目標は。ちなみにだけど、とりぃは今、サークルやってて楽しい?」
「はい。とても良くしてもらっていますし、日々学ぶことが多くてとても楽しくやれていると思います」
「夏合宿はねえ、MMPの中だけにいたんじゃ出会うことのない他校の濃い連中がどう化学反応を起こしてとんでもないモンを生み出すのかっていうのが面白いんだよね。もちろんいいことばっかでもないしトラブルが起こる時もあるけど、それらも含めて青春の機微だよ」
「ダイちゃんそんなおっさんみたいなこと言わないでくれる? まだ26っしょ?」
「あれあれ、樹理ちゃんとうとう自分の歳気にしだした? 若そうに見えて今年27だもんねえ。アラサーよアラサー。俺はまだアラサーには早いよ」
対策委員の活動でも既にそれを少し感じているので、何倍にも人が増える合宿だとどうなってしまうのだろうという不安はあります。ですが、それらを楽しむ余裕を持てるように常日頃からしっかりと準備をしなければならないのだなと思います。私もいつか、青春の機微というものがわかるようになるのでしょうか。
「あの、野坂先輩。京川さんとダイさんの関係性は……」
「元々京川さんが先輩だったけど、卒業はダイさんの方が早かったらしい。多分だけど、学部生の頃はもっと悪乗りが酷かったんじゃないかと」
「ちょっとS君、聞こえてるよ」
end.
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樹理ちゃんの経歴は本当なのかはわからないけど、今年27歳でダイさんの先輩だったのは本当。
(phase3)
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