2026

■俺とお前の仲だから

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「ふー、重かった」
「本屋って知らない間に手元に買う本が増えてるんだよな」
「読みたい本をチェックだけしてネットで買うのがいいんだろうけどな」
「いや、俺は書店で本を買って、読み始めるまでのワクワク感も味わいたい」
「それもわかる」
「さっそく読もう」
「そうだな。や、俺はその前にアイス食べる。リクも何か食う?」
「俺は後で」
「あっそう。俺はアイス食べちゃうもんねー」

 台所からは、冷蔵庫をガサガサ漁るような音。さっきまで2人で大きな本屋と古本屋に出かけてたんだけど、油断すると買い物が膨らみに膨らむ。夕飯の時間になるまでそれを各々好きに読もうと彩人の部屋にやってきたところだ。星港の夏は暑い。彩人は本を読む前にアイスを食べよう、とウキウキして台所へと行ったんだけど。

「ない! えー……どこいったぁ?」
「彩人、どうした?」
「食べたかったアイスがないんだよ」
「食べたのを忘れてたとかじゃなくてか」
「食べたとしても絶対に俺じゃない。でもこの部屋には結構人が来るから食べたのが誰かもわからない。ちくしょーマジかよ。今度から絶対食うなってヤツには印しとかなきゃなー」

 彩人の部屋は星ヶ丘大学から徒歩圏内にあるので、友達がふらっと溜まり場にしやすい。放送部の同じ班のメンバーはよく彩人の部屋に来てステージのことを話すなり、酒を飲むなりして思い思いに過ごすこともあるそうだ。俺が大学から徒歩5分のところにあるシノのアパートに行くような感覚だろう。
 如何せんそんな環境だから、彩人は冷凍庫にみんなで食べられる小さな棒アイスを箱で買ってきているし、彩人自身だけじゃなくて、遊びに来る人が差し入れてくれたりもするそうだ。ただ、彩人が今食べたかったのはそういう小さな棒アイスじゃなくて、大きなアイスだ。楽しみにしてたのに、と残念がる気持ちは伝染する。かわいそうに。

「ちなみに、食べたかったのって何アイス?」
「抹茶練乳氷」

 ――と聞いて、一瞬「やったか?」という気持ちになる。こないだ、先にシャワーを浴びて、入れ替わりで彩人がシャワーを浴びようとしたときに「好きなアイス食べていいぞー」と言っていたので冷凍庫からアイスを取り出して食べた。パッと目についたカップの抹茶かき氷を食べて、次の日の朝にゴミを出して帰ったんだよな。うん、俺だな。

「ごめん彩人、食べたの俺だ」
「はー!? 楽しみにしてたのに! 抹茶練乳氷はお前を想定してない!」
「ごめん、ごめんって」
「まだ百歩譲ってデカいアイスを食っただけならまあ、俺とお前の仲だしまああるよ。でも、俺とお前の仲だからこそ抹茶のは俺だろ! お茶は山羽人の心だぞ!」
「本っ当にすみませんでした」
「アイスの種類、つーか銘柄、個数で空気を読みながら判断するのが基本になるワケだけども、読んだ上で間違えることはある。空気を読まずにやったなら確信犯ということで絶対に許さないが、その辺どうなんだリク」
「パッと目についたアイスを何も考えずに食べました」
「あーもー本読むどころじゃねーわ」

 ベッドに大の字になった彩人は相当ご立腹の様子。元々そこまで気の長い方ではないけど、今回はまあまあちゃんと怒ってるな。食の恨みは怖い。いつもなら適当に宥めて何とかなるんだけど多分今日は何をやっても火に油だろう。いないとはわかってるけどセコムが飛んできて殴られないかが心配だ。かの日の左の拳の記憶が蘇る。

「わかった、そしたら買いに行って来る。持って帰って来れる範囲内に店はあるんだよな」
「まあ、帰って来れる範囲内っつーかそこのコンビニだけど、マジで行く気か」
「走ればすぐだし」

 1人暮らしの場合、生活圏の特定に繋がるので徒歩でアイスを買うなとはよく言われるそうだ。だけど学生街でそんな、生活圏の特定もクソもないだろう(彩人のビジュアルだと狙われる確率はまあまあ高いが)。最速で許されるためには食べた物を返すのが一番早い。ついでに俺のためのアイスも買いに行く。これだ。抹茶練乳氷、置いてあれ。

「お前が走ればすぐとか言うと冗談に聞こえねーんだよ」
「そりゃそうだ、本気で言ってるんだから」
「こうなったお前は絶対に行ってアイス買って帰ってくるまで納得しねーよな」
「しないな。さすが、俺の事をよくわかってる」
「そりゃ俺とお前の仲だもんよ」
「実際に食べてしまったアイスを返しつつ、自分のためのアイスも備蓄して、帰って来たら一緒にアイスを食べよう」
「今ごくごく自然に備蓄って言ったな」
「エージ先輩が高木先輩の家の冷蔵庫にビール入れてるようなことだと思っていただければ」
「家だけ見ると俺らより深い関係の特殊例なんだよなあ」

 友達の家に遊びに行くことに関しては俺はあの2人に憧れたと言っても過言じゃない。シノの部屋には米を置いているので、彩人の部屋にはアイス。これで行こう。と言うか彩人はただの友達じゃなくて恋愛関係にあるパートナーだから、アイスのひとつやふたつあったっていいんじゃないか? 家だけ見ると先輩たちに負けている。

「とにかく。そういうことだからアイス買ってきます。一応保冷バッグ借りてっていい?」
「あ、はい。そういうことならどうぞ」
「ありがとうございます。抹茶練乳氷の他に欲しい物は?」
「ビールと作れない系のつまみ」
「わかりました。それでは、走らせていただきます」


end.


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ナチュラルやらかし佐々木陸。彩人がぷんすこしているのが可愛らしい。
確かに家だけ見るとタカエイは特殊例。トイレ掃除もするくらいだからエイジがアレ。

(phase3)

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