2026

■3週間でのミッション

++++

「はー、踊った踊った。多分2年分くらいは踊ったぞ」

 星港の夏の風物詩と呼べるようになってきたオクトーバーフェストの初日に、菅野かんのと一緒にやってきた。菅野は学生の頃からこのイベントが好きで、菅野すがのや小林を誘って来ることもあったそうだ。星港市中心街の花栄のど真ん中をぶち抜くプリズム広場には、ステージがある。オクトーバーフェスト期間中は、そのステージでドイツのバンドがライブをやるんだ。
 音楽を浴びながらビールを飲めるという環境にずっぷりハマった菅野かんのは翌年以降もいろいろな人に一緒に行こうと声を掛け続けたものの、予定がなかなか合わずにフラれまくっていた。最後の方にダメ元で声を掛けた俺がめっちゃノリノリでいい返事をしたものだから、菅野の中では「オクトーバーフェストは朝霞だ」みたいな式が出来上がったらしい。
 訓練されたダンサーや、ステージMCらが踊る空気を作り、盛り上がった酔っ払いたちが音楽に合わせて延々と踊っていた。菅野もMCの水鈴さんがダンスの輪に乗ってこっちに近付いてきたのに乗じてその輪に加わり、そこからはもう延々と。俺は席と荷物の番をしつつ、次は何を飲もうかなとチラシを見ながら目星を付けて。

「お前、本当に元気だな」
「これっくらいは余裕よ! バンドマンの体力ナメんなっつの」
「確かにライブ1本やるとなると結構大変そうだ」
「お前、学生の頃さ、俺たちのステージを見たことくらいあるだろ?」
「自分のことに集中してるからチラ見程度だけど」
「お前ってそーゆーヤツよな。それはそうとして、アコーディオンを担いで何十分もやる時には結構な体力が必要なのよ」
「へえ、アコーディオンなんて弾いてたのか」
「――って全っ然知らねーじゃねーか! ホンットお前そーゆートコだぞ!」
「悪い悪い。チーズ盛り合わせ買うからそれで許してくれ」
「しゃーなしだぞ!」
「ついでに次のビール買ってこよう。どれにすっかな」

 菅野は自分がアコーディオンを弾いていることを俺が知らないことに怒っていたけど、お前だって朝霞班のステージを知らないだろと聞き返してやりたい。まあ、正直他の班がどういうことをやってるかなんてそこまで興味ある奴の方が少ないような部と言うか、代だったよなあと思う。菅野との付き合いも引退した後からだし。
 それはそうと、結局チラシではあまりビールの特徴がわからないので、イベント公式SNSのオススメ銘柄紹介を見ることになる。これはいいなと思うものにはあらかじめいいねを付けた上でブックマークをしておいたので、振り返りやすい。ただ、チーズの盛り合わせを買うという約束なので、その方面の通り道の店が楽でいいだろう。

「おーい、チーズー」
「おっ、サンキュ! 何遍見ても美味そうだなぁ」

 先の質問返しをしたいのをグッと堪え、詫びチーですと一言で済ませた俺、多分2年分くらいの空気を読んだ。大石だったら多分これくらいは1日分の空気ですらないだろう。俺の詫びチーを前にニッコニコしている菅野は本当にチーズが好きなんだろう。USDXの打ち合わせでもよくチータラやベビーチーズを食べている。

「なあなあ朝霞」
「ん?」
「お前、このスタンプラリーって意識してる?」
「スタンプラリー?」
「あっ、そのリアクションは今知りましたってヤツだな」
「何飲もうっていうのに夢中でちゃんと見てなかったんだよ」
「お前こういう文字列好きそうなのに」
「文字列は好きだがビール優先だ」

 イベント会場に来た時、総合案内でもらえるパンフレットはもらうだけもらって机の上に置いてあるだけになっていた。一応どこにどんな店があるとか、どこのステージで何時からバンドステージがあるとかのタイムテーブルが書かれているので軽く目を通しはしたけど、細かいところまではまだ読み込んでいなかった。このパンフレットの裏表紙にスタンプラリーの案内があったんだ。

「で、スタンプラリーがどうしたって?」
「これ、指定された店のビール買うとかフード買うとかでもらえるスタンプを集めたら、Tシャツもらえんだって。ほらここ、ちっちゃいけど写真載ってる。かわいくね?」
「かわいい」
「よな! 朝霞、一緒にスタンプラリー集めようぜ」
「え、俺もTシャツ欲しい」
「それはお前、2人分集めりゃいいじゃねーのよ」
「おっ、集めるか」
「あっでもお前酒そんな強くないし何気にめちゃ食うからフードを主に担当してくれ。それに、スタンプラリーの達成は1日じゃなくてもいいらしいから、協力して期間中に2枚集めよう」
「わかった。確かにお前がフードのイメージもないわ」
「別に俺は小食じゃねーのにソルの野郎」

 菅野はUSDX内では食べない方のメンバーなので、塩見さんによく怒られている。京川さんによれば塩見さんは自分の食べ方を他の人に強いる傾向にあるそうだ。それから、量を食べない人間を見ているとイライラするとか。俺は食べるのが遅いだけでほっとくとまあまあの量を食っているので、逆にそれだけゆっくり噛んで食ってよく満腹にならねえなと感心されたことがある。
 さて、この3週間ほどの目標は定まった。オクトーバーフェストのスタンプラリー限定Tシャツを2枚獲得すること。必要なスタンプは1枚につき13個だ。13個は割とすぐだな。別に毎回菅野と一緒に来なきゃいけないという縛りもないし。休みのときにフラッと飲みに来たっていいワケだ。うん、そうしよう。休みのときや仕事帰りにフラッとスタンプを稼ぎに来よう。

「じゃあ、次いつ集まるか、お前の意識がちゃんとしてるうちに決めとこうぜ」
「別に俺は毎回泥酔するワケじゃねーのに」
「いや、こーゆーのはちゃんとしてるときにやっとくのが鉄則よ」


end.


++++

心の友はもう毎年オクトーバーフェストに集まってるといい。
多分この2人、限定Tだけじゃなくて普通に物販で売ってるTシャツとかグッズも買ってる。
2年分の空気を読んだPさん、大人になったなあ

(phase3)

.
33/44ページ